僕の歩く道
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放送後の感想
橋部敦子氏は「僕」シリーズを通して脚本を書いてきているので、脚本の形がしっかりと固まっていたし、演出を担当した人たちが全てチーフをはれる人ばかりだったので、初回から実に安定した作りになっていた。それに、このシリーズの独特の語り口調はこのドラマが最もしっくりときていたと思う。ただ、星護さんは年明けの稲垣・金田一、河野圭太さんは年明けの「佐賀のがばいばあちゃん」、三宅喜重さんはこのドラマ最終回の次週に放送の「ブスの瞳に恋してるスペシャル」とそれぞれにスペシャルドラマを抱えたお忙しい方たちだったので、最後まで誰が正ディレクターだったのかはよく分からないドラマだった。初回を演出した星さんは第2話で演出から身を引き、3人の中で最も多く演出したのは三宅さんだったが、最終回を演出したのは河野さん。個人的には星さんの演出でガッツリと見せてほしかったという思いがあるので、多少期待はずれなのだが、このドラマは演出家が誰に転んでもそれなりに見せることができたというのはかなりの強みだったことには違いないと思う。
それに加え、草g剛さんの演技はシリーズの中でも屈指の名演技だった。基本的に表情を変化させてはいけないし、少ない台詞を独特の台詞回しでしゃべらなければならないし、そうかと思えば、長々とした説明文を暗唱してそれを難なくスラスラと言えているように見せなければならないし、これだけ難しいことをしているのに、その難しさを画面では見せてはいけないし、等々。香里奈さんを始め、脇役の人たちのキャラクター、演技も際立っていたし、演技・演出・脚本と、初回からレベルは高くて、そのレベルが最後まである程度安定していた。個人的にラスト3話に関しては、描き残しや違和感を感じていて、あまり心象のいい終わり方のドラマではなかったのは残念だったけども、基本的に危なっかしい印象を覚えたところは少なく、クオリティーに関しては相当のものがあったのではないだろうか。
最終話 12/19放送 視聴率20.5% 演出:河野圭太
評価★★★★★★☆☆☆☆ 6
決して悪いわけではなかった。別のドラマであるならば、もっと高い配点を出してもよかったと思う。作り自体はしっかりとしていたけども、「僕の歩く道」というドラマであると、この結末はイマイチ腑に落ちなかった。
「とび」の例えを絡めたあたりなど、このドラマらしさは幾分かは残っていたものの、全体的には直接的かつ安易に泣かしにかかりすぎたかな、と思えた。今回に入って、輝明の周囲の人物が急速に結束を始めて、揃いも揃ってゾロゾロと輝明を応援している姿には熱血青春ものを見ているようで、このドラマの作風の延長線上にあるものではないように思えてしまった。そうした周囲の人たちの温かさの分かりやすい描写は「Dr.コトー診療所」に任せればいいのだから、このドラマはこのドラマらしく、落ち着いたタッチでいつものように淡々と締めくくればよかったような気がする。
それと、家族内での対立と融和の主な流れをこの2回で急激な早さで終わらせてしまったのも尚早すぎたように思う。そこは、第七話で扱った内容も含め、もう少し時間をかけて描いてほしかった。結局、輝明は家族から独立してグループホームで暮らすことになるのだけど、輝明が成長しているという点がここ最近は目に見えて分かりやすすぎたような気もした。
そして、ここが最も腑に落ちなかったのだけど、都古(香里奈)のドラマは描き込み不足だったように思えた。要は、輝明が都古を求めていたのではなくて、都古が輝明を求めていたということを気付かせるためには、都古に輝明と距離を置かせる必要性があったのだろう。その方法が結婚と離婚ということであったのだろう。だが、その結婚と離婚の展開があまりに急で、ストーリーを語るという目的を達成するための道具としての意味合いが先行してしまっていた。そうなると、河原(葛山信吾)のキャラクターは道具でしかありえなくて、危惧していた通り、フォローもほとんどないままフェードアウトになってしまった。ここにこだわることは天邪鬼な見方なのかもしれないけど、河原は確かに嫌な奴だけど、だからといって、何のフォローもないまま、エンディングには存在すら忘れられていたのでは、かわいそうだろう。河原は私たちの持つ汚い部分の象徴のような存在だから、彼を一種の道具として切り捨てたように映った。都古の姓が松田に戻って、また輝明と同じ動物園で働き出したとしても、果たしてそれがハッピーエンドなのか、と思えてしまった。都古の少女時代の話も活用しきれていないと思うし。輝明を純粋という「善」と捉えるならば、河原は混沌という「悪」だろう。悪をしっかりと描かずして、善は描けない。このドラマはそこの詰めが甘かったかな、と。
本来だったら、ここまで細かいことにあまり文句はつけないようにしているつもりだけど、このドラマの場合は、初回から丁寧に作り込んできたという経緯があるし、それを踏まえて考えると、この最終回には私は満足できなかった。私としては、第八話くらいまでがピークで、1年という時間経過を置いた残り3話はあまりノリきれなかった。
第十話 12/12放送 視聴率20.1% 演出:三宅喜重
評価★★★★★★☆☆☆☆ 6
都古(香里奈)の抱える悩みが大きなテーマだった今回。安心して眠れる場所が輝明の近くというオチはよかったと思うのだけど、やはり、このドラマの手法は人間の抱える心の中の深浅に踏み込むのには適していないと思う。
都古は河原との結婚生活に疲れ、飛び出してしまう。母親に久々に連絡を取るものの、自分を思いやる言葉はない。居場所をなくした都古は結局、輝明のもとに行き着くのだった。まあ、都古の感情は分からないでもないけど、これまで都古に関して、あまり時間を割けなかったこともあるし、こうなるのだったらなぜ、河原と結婚したのか、と思える部分もある。そこには都古なりの考えがあったのだろうが、そうした複雑な心理描写はやはり、このドラマの作風とは合わない。このドラマは、輝明というその中身が見えにくい人物を軸に据えることによって、うまくその作風がハマるのではないか、と思う。都古を話の中心に据えた今回は、このドラマの作風が抱える問題点が見えたように感じた。
輝明のほうは、ロードバイクのレースに出場したいと言い出す。輝明の頑なな態度に、秀治(佐々木蔵之介)やりな(本仮谷ユイカ)はイラツキを隠せない。秀治もりなも、輝明の存在により、幼少時期にはそれぞれ嫌な思いも抱いてきた。秀治は輝明の存在でイジメられたりもした。りなは母親(長山藍子)が輝明ばかりをかまってしまい、もっと母親に甘えたいと思っていた。そうした抱いても仕方がない輝明への憤りを表現することはいつかやらなくてはいけないことだったとは思う。恐らく、話のつながりから考え抜いて、この位置に入れるのが一番だと判断したのだろうけど、個人的には第七話で秀治が輝明の影響で、家族への接し方を考え直すという輝明からプラスの反応を得る前に、この展開は済ませておくべきだったのではないか、と思える。
後に、秀治が輝明にあたったことを反省するシーンがあるのだけど、そのシーンを見せるためには前フリが必要だと判断したのだろう。それはその通りだけど、同じ回で対立と融和を終わらせてしまうのは展開として、やや早急すぎたように思える。
私の中で現時点で最も引っ掛かっていることは、河原(葛山信吾)の存在だ。虚栄心や自尊心というマイナスの部分を持つ河原は至極まっとうな人間だと思うし、そうした河原に何もフォローがないまま終わらせるというのだけはやめてもらいたいところ。第八話まではよかったのだけど、第九話で急に1年、時間を経たせてしまってから、思ったより心に響くものがなくなったかなあ。
第九話 12/5放送 視聴率19.6% 演出:河野圭太
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
自転車のエピソードを描きたかったからなのか、今回は急に前回から1年経ったという怒涛の展開に。1年経ったということで、輝明の積み立ても、とうとう60万円に達し、ロードバイクを購入できるまでになった。それに加え、幸太郎(須賀健太)の輝明への借金返済も1年経って完済ということに。
そして、ここにも1年という時間経過の意味があったのだろうけど、都古(香里奈)と河原(葛山信吾)の関係も冷め始めている。さすがに、結婚してすぐ溝ができるというのは不自然だし、会わないと決めていた輝明に都古がすぐ会ってしまうというのもマズいだろう。だから、1年という時間経過が必要だったのだろうな。
それでも、河原がさも極悪人みたいじゃないか。他人にはいい顔を見せようと外と中では態度が微妙に違ったり、見栄や虚栄が性格上強いということで、やはり、そういった性格は人の持つ嫌な部分だけども、そうした感情があるのもまた人であると思う。輝明はそうした感情が理解しにくいということで、そうした嫌な部分を排除させた人の本来持っている純粋な部分を象徴しているのだろう。だから、輝明の純粋さばかりを祭り上げるのではなく、河原に対しても何らかのドラマを与え、自分を見直す節目を持たせる必要があるだろうし、そうした嫌な部分も含めて人であることを認めるということは後々必要だと思う。
都古に関しても、少女時代に家族で嫌な思い出があるらしく、それが都古の人付き合いの仕方に影響を与えているようだ。でも、基本的にこのシリーズの淡々と起伏をあまり付けず描く手法はあまり人の持つ傷の深さというような深浅を際立たせるドラマを、その人単体を描くだけでは描くのに適していないと思う。今作では、輝明というキャラクターがいるからこそ、このシリーズの手法がハマったと私は感じているので、都古の過去のドラマを絡めるのであれば、そこには輝明を起点に置くべき。
とはいえ、やはり、ロードバイクで輝明がどこに行きたいのか、を伏せておくことで、ラストの展開に持っていく脚本構成はうまかった。今回は河野さんの演出で、これまでの河野さん演出の回ほどの胸に響くものはなかったのだけど、やはり、このドラマはその回の締めくくり方がうまい。同様のシーンの繰り返しが多く、やや淡々とした展開でも、天どんが最後にしっかりとしたオチとして形になっている。終わりよければ何とやらで、終わらせ方がうまいというのはドラマとしては大きな武器だな。
それでも、1年という時間を経過させたことで、描くべきことはやや増えたようにも思う。あと2回で描き残しがなきようにまとめてもらいたいところ。それと、星さんは第2話から演出には参加していないけど、2話だけ演出して終わりとかではないよね。最終回だけでも星さんに戻ってきてほしいのだけどな。
第八話 11/28放送 視聴率19.1% 演出:三宅喜重
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
今回は、久保園長(大杉漣)にスポットを当てた回。久保園長は園長はひとつの通過点で、のちのちには本社に戻って出世の道を歩きたいと思っている。しかし、動物園の入園者数が減少傾向で、本社の上司(山田明郷)から嫌な圧力をかけられる…。
久保園長はサラリーマンであり、動物園の経営者でもある。だから、園長として、本当はそうでもないのに、動物や輝明に理解があるフリをしながら存在しなければならない。そうした苦悩を今回は表現していて、出世なんかはしてもあまり意味がないことは内心では分かっていても、同僚等の周りの目が気になって、出世しなくてはならないという強迫観念に取り付かれていると吐露する。
そうした悩みが輝明を見ることにより、癒されていくというお馴染みの展開。久保園長が輝明には自分には到底できないであろうこともこなしてしまうことに気付いていき、動物園のイメージアップだけではなく、飼育係の大事な1人として必要な存在であることに気付いていく。理解のあるフリをしなければならないという段階から、輝明を理解しようと努力したいという少しではあるけども、久保園長のとても大きな進展を描いていた。ただし、出世を目指すという以前のスタンスは堅持したままであり、あまりに大きくキャラが変わるのではなく、ちょっとした変化が久保園長に起こったという点が抑制が取れていてよかったと思う。
それでも、ちょっと消化不良のところも見られた。久保園長が輝明を飼育係の1人として尊重しようと思ったきっかけがやや曖昧だったかな、ということや、上司のキャラクターがあまりに型にはまりすぎていたことや、久保園長が上司にたてついてその後、どう上司に弁解したのか、というあたりとか、若干、不満が残る点もあった。
都古(香里奈)のドラマも描かれているのだけど、必然的に時間がなくて、やや窮屈な印象。以前からその暗示はあったようにも思うのだけど、案の定、河原(葛山信吾)との結婚生活はすれ違い始めた。河原が虚栄心や自尊心の高いことに、都古は幻滅し始めている。これは輝明との対比で、いかに人間は余計な感情を持ってしまっているのだろう、と思わせるところ。だけども、河原がさも極悪人みたいな描き方はやめてほしい部分。河原にもいい印象を残す形での終わり方を期待したい。次回は、都古が輝明に会いに来てしまうわけだけど、輝明は都古とは会わないことに踏ん切りをつけたばかりで、混乱してしまうはず。そのあたりが物語の大きな核となるのでは?
第七話 11/21放送 視聴率15.9% 演出:河野圭太
評価★★★★★★★★★☆ 9
今回はよかった。今回の演出は河野圭太さんだったけど、私としてはこのドラマは今のところ、河野さんが演出した回がかなり見やすいように思う。
今回は、輝明の純粋な思いに周囲の人々が変わり始めるというこのドラマの狙いがこれまでの中で最も分かりやすく出た回だったのではないかと思う。幸太郎(須賀健太)は母・真樹(森口瑤子)の教育に息が詰まっており、塾でカンニングをしてしまい、それ以来、塾をサボるようになってしまう。その塾をサボっている間、幸太郎は輝明のいる動物園で時間を潰すのであった…。
幸太郎が輝明に打ち解けていく過程はとても丁寧に描かれていたと思う。幸太郎が輝明に完全に心を許すきっかけとなった、輝明が幸太郎を心配していつもとは違う道に踏み出そうとする展開も前半のうちからうまく伏線をはることにより、輝明自身の成長も描き出していた。輝明はいつも決まったルートを通って通勤しているわけで、そのルートを外れるということは輝明にとってはとても勇気のいる行動である。本来だったらしないはずの自ら決まりを打ち破るという行為、それをさせたのは家族を心配するという純粋な思いだった。その思いが幸太郎を変えたのだろう。
そして、幸太郎だけではなく、父・秀治(佐々木蔵之介)、母・真樹の幸太郎に対するこれまでの自分を反省していく。幸太郎が見せた初めての反抗、そして、輝明経由で聞いた「笑った顔」という言葉。真樹はこれまで自分があまりに神経質に幸太郎に接してきたことに気付き、幸太郎が好きだった「笑った顔」をしていなかったことに気付く。秀治はこれまでは幸太郎のことをすべて真樹に押し付け、自分は何もしてこなかったことに気付く。輝明をしっかりと起点しながらも、波及的に周囲の人たちが変わっていく過程をごくごく自然に、しかし、とても丁寧に描いていたと思う。これは見事な脚本だった。
チーフDの星さんは恐らく現在は、吾郎ちゃんのほう(金田一)で忙しいので、長らくこちらのドラマには参加していない。それでも、三宅さん、河野さんとチーフをやってもまるで問題がない人たちが演出をしているから、全くドラマの質は落ちないし、それぞれに演出家さんの色が出るから、このドラマは見ていて飽きないな。
第六話 11/14放送 視聴率16.0% 演出:三宅喜重
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
今回の演出は三宅さんということで、三宅さんの回の特徴がよく出た内容だったと思う。輝明の周りの人たちにはよく分からない行動を天どん方式で見せていくことで、最後の最後にそれがしっかりと結びつくように持っていって、感動させる。今回もその方法はうまく働いていた。
都古(香里奈)が結婚を機に、動物園を離れるということで、輝明はいつも一緒だった都古とは離れ離れにならなければいけない。そうした結婚とか別れとかいった感覚を理解できないだろう輝明は、都古の新しい生活を覗くことで、自身の中で何か気付くことがあったのか、日々の習慣へのこだわりがさらに強くなっていった。そうした輝明の妙な行動は周りの人間には理解できず、当惑するばかり。そうした中、輝明は仕事中、突然、動物園を抜け出してしまう…。
やはり、自閉症の方は、その人しか分からない、周りの人は理解しにくい行動をとるのだろうから、こうした行動をとる輝明を描く回というのも必要なのだろうし、輝明が結婚とか別れといったものを彼なりに苦しみながら理解していくという展開も必要だったはず。だから、今回の話はいつかはやらなければならなかったものだっただろうから、いいタイミングで挿入してきたと思う。そして、「約束」というとても端的な言葉で、ドラマをうまく収束させたのはうまい脚本だった。
それでも、そうした輝明の理解しづらい行動を描くばかりではテレビドラマとして成立させるには難しいので、そこにこれまたうまいこと、古賀(小日向文世)のドラマを重ねることによって、話を盛り上げていた。古賀さんには離婚した奥さんと自閉症の息子さんがいるとのことで、結婚していた当時はどうしても、息子が自閉症という現実を受け入れられなかった。しかし、輝明と一緒に仕事をすることで、自閉症の子どもでもしっかりと向き合えば才能を見出せるんだ、と気付き、過去の自分を悔いるわけだ。そのときの輝明の台詞もよかったし、希望をうまく託したやり取りだった。
第五話 11/7放送 視聴率17.9% 演出:河野圭太
評価★★★★★★★★☆☆ 8
今回はかなり見やすかった。今回の演出は「古畑任三郎」「王様のレストラン」の河野圭太さん。星さんとも、三宅さんとも演出の特徴が違って、このドラマは演出家それぞれの特徴の違いがよく分かるし、その違いがドラマにそれぞれ異なった感触を与えてくれていると思う。
星さんはシンメトリーにこだわった映像、三宅さんは天どんを基本とした構成と、ガチッと枠にはめて作っているような感覚を持ったが、河野さんの場合はそうした枠にははめようとすることはなく、映像のタッチもグッと温かなものとなり、さらに普遍さを増した温かいドラマに仕上げてくれていたと思う。
今回は、都古(香里奈)が河原(葛山信吾)と結婚することになり、いつも側にいてくれた都古が結婚するという事実を輝明が受け入れられるのか、を描いていた。やはり、結婚パーティーのシーンはよくできていたと思う。輝明が都古に顔を見合わせず花を手渡すシーン、回想シーンの台詞をうまく引用し「僕が代わりに笑ってあげる」と輝明が涙する都古に告げるシーン、そして、そこまで無表情で通してきた輝明が初めて見せた薄っすらとした笑顔。これは橋部さんの脚本も見事だったと思うし、その脚本のニュアンスを絶妙に表現した演出も見事だったと思う。
やらなすぎても見ている人には伝わらないし、やりすぎても見ている人は引いてしまう。そこは加減が非常に難しかったと思うのだけど、今回はその加減が絶妙にうまかった。草gさんの演技も加減が難しかっただろうけど、うまく演出を具現化させたものだったのではないか。とにかく、結婚という概念を輝明が分かっているのか、そうでないのか、どっちとも取れる描き方をうまいバランスを取って、やっていたと思う。
そりゃ、いつまでも都古が輝明にべったりというのは不可能なことだし、別れをしなくてはならないだろう。しかし、輝明は別れということがよく分からないのだと思うし、これをどう乗り越えて、別れを理解していくのか。それを、周りの人をうまく使いながらこれから見せてほしい。
第四話 10/31放送 視聴率18.2% 演出:三宅喜重
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
三宅さんの演出の回は、「結婚できない男」よろしくテンポが軽いので、比較的見やすい。
意図的に同じ場面を繰り返して、韻を踏んでいくことで、ドラマの内容とうまくリンクさせているし、このドラマならではのリズムをうまく作り出していると思う。輝明の頭の中には、女性に対する気遣いというメモリーはインプットされていないらしく、都古(香里奈)と落ち葉の積もっているベンチに座るときは、自分のところだけ落ち葉を払うし、焼き芋も自分の分しか買ってこない。これも悪気があるわけではないのだから…と輝明を優しく見守る都古。
都古も誰かに愛されたいと思っている。しかし、輝明は人を愛するということを理解できない。輝明は都古にとって、大事な存在だが、決して男としては存在してはくれない。河原(葛山信吾)という存在がいるが、彼には家庭があり、自分だけを見てくれてはいない。そうした都古の他人には見せようとしない孤独。
そうしたとき、ふと降り出した雨、女性への気遣いを知らなかったはずの輝明が隣に座る都古を傘に入れてくれたのである。孤独に泣いていた中、差し出された輝明の優しさに心が和む都古。これである程度、気持ちに踏ん切りがつき、河原との縁を断とうとしていたその時、河原から妻と別れた、と都古は告げられる…。
全体的にはちょいと退屈だったかな、という気もしないでもないのだけど、ふと心を捉える画というのがこの回にはあった。やはり、最後の、焼き芋をほおばったまま無言で、都古を傘に入れてあげる輝明の画はグッと来た。前回とやり方は同じだけども、天どんを繰り返すことで、最終的にうまく輝明の微妙な変化を描いてくれている。そして、海と空をバックにした輝明と都古の画はとても美しく撮れていた。手前の影を際立たせることで、空の青を印象的に映していた。このドラマは映像にこだわりを持って、作っているのがよく分かる。
あと、前回の関係性から、幸太郎(須賀健太)の話をどうするのかな、と思っていたけど、自分のお小遣いからちょっとずつ返していくということで、一安心。うまい落としどころを見つけたと思う。
第三話 10/24放送 視聴率17.7% 演出:三宅喜重
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
今回からは演出が星さんから、「ブスの瞳に恋してる」「結婚できない男」に続く3クール連続の火10演出となる三宅喜重さんに。やはり、演出が代わったことは明白で、三宅さんの演出には、星さんほどの計算された緻密さはない。作調を一定にさせようと、同じような手法はとっているが、徹底したシンメトリーを際立たせた構図、ライティングの気の配り方等、星さんと三宅さんではきめ細やかさが違ったな。
ただ、三宅さんは火10ドラマを多く手掛けて、ここの枠のドラマの見せ方に関しては熟知されている方なので、星さんのときのような硬質さはないのだけど、普遍的な感動作として、これはこれでうまく見せてくれたと思う。
今回の話は、幸太郎(須賀健太)にスポットを当てた回。母・真樹(森口瑤子)の教育ママぶりに嫌気がさした幸太郎はちょいグレ状態に。塾にも行かず、ゲーセンで時間を潰すが、まだ小学生の身、お小遣いはすぐになくなる。そこで、幸太郎が目を付けたのは、輝明だった。輝明から5000円をもらい、幸太郎はこのことは内緒にして、と輝明に約束させるのだが…。
今回は、何があっても約束は破らないし、嘘はつかないという輝明の純朴なる気持ちに幸太郎が触れることで、幸太郎も輝明に対する思いが変わっていくという展開。基本的に輝明自身が変わっていく過程を描くのが難しいドラマなのだけど、幸太郎に受け入れられたという展開を踏まえ、輝明が子どもたちの前でテンジクネズミの説明ができるようになるという展開へとつなぎ、うまく輝明の変化を描いていた。全く同じ構図のシーンを繰り返す韻を踏んだような構成の回で、中盤まではやや単調すぎるかとも思ったけど、結果的には対比が効いて、分かりやすくなったと思う。三宅さんはこの分かりやすさをしっかりと汲み取って、演出されていたように思う。
だけど、幸太郎のやったことは許されることではないし、輝明に謝るなり、真樹からお叱りを受けるなり、今回の内容を踏まえた展開は今後に必要だと思う。それにしても、森口瑤子さんのイヤミ炸裂の教育ママ、姑イビリの嫁ぶりは迫力あったな。本仮谷ユイカさんもこれまでは見せ場に恵まれなかったけど、今回はいいポジションで演技させてもらっていたし。さて、来週は、意味ありげな表情や発言をしていた古賀(小日向文世)の背景が描かれる。
第二話 10/17放送 視聴率16.4% 演出:星護
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
映像作りはかなり星さんらしかった。どの映像もシンメトリーを意識した構図になっていたし、ライティングによるまばゆいばかりの光の白と、陰影の効いた青みがかった映像の色のタッチの対比が特徴的。
今回は、都古(香里奈)の勤める動物園で、輝明が何とか正式採用されるまでを描いていた。やはり、今回で鍵を握っていたのが、輝明の指導を担当した三浦(田中圭)だった。輝明の対応に、それが障害であることは分かっていながらも、苛立ちを隠せなかった。しかし、輝明が倒れ、過剰に感じていたストレスが原因と聞かされ、三浦はショックを受ける。自分の輝明に対する接し方は、それほどまでにストレスを与えていたのか、と。
やはり、輝明の起こした数々のトラブルもあり、動物園側としては採算もあり、雇用するわけにはいかないという結論に達しかけていたとき、救いの手を差し伸べたのは三浦だった。輝明の記憶力の高さを利用してみるべきでは、と。今回は三浦が少しずつ変わっていく過程を、やや早足であったが描いていた。これから鍵となるであろうは、輝明の採用に不快感を表していた古賀(小日向文世)だろう。その古賀がいかに変わってくるかが、今後の大きな見せ場になるのではないだろうか。
草gさんの演技も器用にやっているように思う。基本的に表情を出してはいけない役柄なので、全く表情を変えることなく、必死さを見せないまま、長台詞を早口言葉のようにスラスラと言わなければならない。これは難しい表現だったと思うが、とてもうまく乗り切っている。
謎の自転車男・亀田(浅野和之)が今回から本格的に登場しだしたが、唯一、ドラマの中での位置が分からなかったキャラクターだから、今後、どのようにして輝明と関わっていくかに注目したい。
第一話 10/10放送 視聴率19.3% 演出:星護
評価★★★★★★★☆☆☆ 7
星さんらしい作りのドラマだったように思う。青みがかった画が印象的な抑えたトーンと、役者の顔を画の中央に据えたり、シンメトリーを印象付ける画の構図で、映像自体からはとても硬質な感覚を受けるが、その演出の流れ自体は軽く、とても飄々としたイメージを感じる。星さんならではの落ち着いた映像タッチが印象的な初回だった。
この第1回では、やはり、名前は聞いたことがあっても、実際にイメージがわかない自閉症の症状を印象付ける意味合いが強かった。自閉症の症例は人それぞれ違うのだけど、このドラマの輝明の症状は、知能レベルは幼いまま進歩しておらず、生活のリズムを完全にルール化し、少しでもそこから外れたことが起こったりすれば、パニックに陥る。仕事における指示も具体的に、予想以上に事細かに指示をしないと何もできないし、人に疑問を質問するということもなく、相手の指示を待ち、指示がなければ、ずっと何も事を始めようとしないし、もしくはずっと事をやり続けようとしてしまう。ところが、輝明の場合は、自転車競技の歴代の優勝者を完全暗記するといったように、ある一部分の能力には長けているという特徴もある。このようなことも全く悪気があってしていることではないが、周りに彼の気持ちを代弁してくれる人がいないと、周りから理解されにくい。
今回は、輝明の純粋さを最初からアピールする前に、周りの理解できないという反応を印象深く描こうとしていた。やはり、いくら悪気ないと言われても、想像しがたい行動を起こすものだから、最初のうちは周りは言葉は悪いが、いい迷惑だ、と感じてしまうのは仕方がない。やはり、輝明の周り、それは視聴者と同じ視点にあるわけだから、視聴者も同様に、ある程度、症状を理解させてから、輝明の純粋さをアピールしていこうという方向性はまさに賢明だったといえる。こういった病気を扱った題材は重くなりがちだけども、星さんはそこを軽いタッチでじっくりと見せてきたわけだから、初回の印象ではうまくやっていると思う。
草gさんも役作りのために、自閉症を学んできたのだろう、という後が見て取れる演技だった。前クールの「タイヨウのうた」は素人目にも病気の描き方がいい加減に思えたが、実際、どこまでリアリティーを追求できているかは分からないと但し書きをした上だけども、このドラマは病気にしっかりと向き合おうという姿勢は感じ取れる。自分の気持ちを表現できない輝明に変わり、彼の気持ちを淡々と代弁する立場を担った香里奈さんも印象的だった。台詞に抑揚を出さず、極力感情を表に出さないように、堅い感じの台詞により人間味を最後の最後まで封じ込めさせ、最後に香里奈さんに封じ込めていた本音を吐露させる。この対照性の効いた脚本構成、演出はこのドラマの大きな特徴だろう。
感情を淡々とした中に表現していくという方針は、これまでの「僕」シリーズ以上にこのドラマは適していると思うので、これからに期待が持てる初回だったのではないか、と思う。
放送前の感想
草g剛主演の「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」に続く「僕」シリーズの完結編。個人的にはいつから「僕」シリーズという1つのパッケージになっていたのか、と疑問に思うわけだが、そこはこれ以上は追及しない。私はあまり「生きる道」の2作は好きではないのだけど、今作は草gさんが自閉症の障害をもった青年を演じるということで、前2作とは違った趣なので期待してみたい。脇を固めるキャストも大杉漣さん、長山藍子さん、小日向文世さん、浅野和之さんらの前2作出演組、そして、初参加組も含め、実力派揃い。特に、加藤浩次さんは山本さんの事件後初の連ドラ出演ということで、がんばってほしいところ。そして、脚本は前2作に引き続き橋部敦子氏が続投。最近は映画「笑の大学」、稲垣吾郎主演の金田一耕介シリーズ等を手掛け、連続ドラマの演出は「僕の生きる道」以来3年半ぶりとなる星護氏、最近は映画「子ぎつねヘレン」で映画監督デビューを飾った「古畑任三郎ファイナル」の河野圭太氏、「結婚できない男」の三宅喜重氏と、演出スタッフはこの上なく実力派揃い。前2作はあまり好きではないほうなので、前2作との比較対照は控えて、1つの単体の作品として鑑賞したい。