大好きなミクちゃんのお誕生日に、ケンくんはクッキーを作ることにしました。ミクちゃんはクッキーが大好きなのです。
ケンくんは朝からはりきって粉をねりました。普通のクッキーではありません。大きな大きなクッキーです。
だから、きのうはたいへんでした。
庭に大きなオーブンをこしらえたのです。
大きな石をつんで炉を作り、中には大きな鉄の板をいれました。
それで、その前の日はもっとたいへんでした。
オーブンに入れる大きな鉄の板を作ったからです。
熱く焼けた鉄のかたまりを、たたいて叩いてたたいて叩いて、大きな一枚の板にしました。汗はびっしょり、おなかはペコペコで手は痛くてケンくんはすっかり疲れてしまいました。
でも、そのまた前の日はもっともっとたいへんでした。
大きな鉄の板を作るために、大きな鉄のかたまりをさがしにいったからです。
険しい山をのぼってのぼって、ケンくんは鉄鉱石という石をさがしに行きました。
鉄鉱石をたくさんみつけて、それを鉄のかたまりにする精錬という仕事もとってもたいへんでした。
ケンくんの仕事はそれだけではありません。大きなクッキーを作るために、ケンくんはもっとたくさんのことをしました。
そのひとつは、大きなクッキーの生地を練るための大きな大きなボウル作りです。
森の奥へ行って大きな古い木を切って、ていねいにくりぬいて作りました。
それから、生地を広げる大きな台や、大きな大きなフライ返しも作りました。
まだあります。小麦です。
大きなクッキーを作るには、たくさんの小麦粉が必要です。
ケンくんは、前の年に、畑に小麦をまきました。雑草をとったり水をやったり、せっせと世話をして、小麦を実らせ、臼でひいて粉にしました。
バターもたくさん必要です。
ケンくんはうんと早起きして、たくさんの牛のママからミルクをもらって、それでバターを作りました。
そうして、やっと、ケンくんは大きなボウルにたくさんの小麦粉とたくさんのバターをいれて、力いっぱい練って、クッキー生地を作ったのです。それを大きな台に広げて丸くして、たくさんの干しブドウで、おめでとう、と書きました。
丸い生地を、大きなフライ返しにのせて、朝から薪を燃やして熱くした大きなオーブンの大きな鉄の板にそおっとのっけて、それから、オーブンのふたを閉めました。
あとは待つだけです。
ケンくんは、オーブンの前に腰をおろしました。お日さまがポカポカ。とってもいい気持ち。ケンくんはちょっぴり眠たくなってしまいました。早起きしたのだから無理もありませんね。
ケンくんはうとうと……。
あれあれ、なんだか、こげくさいにおいが、オーブンからただよってきましたよ。
ケンくん、ケンくん、起きて起きて。
はねおきたケンくんは、あわてて、それでも、手にちゃんとミトンをはめて、オーブンのふたをあけました。
中から黒い煙がもっくりと出てきて、ケンくんの頭をこえて空にひろがっていきました。
まっくろです。大きなオーブンの中はまっくろ、おおきなクッキーもまっくろ。ケンくんの顔もまっくろ。
どうしたらいいのでしょう。
お誕生日のクッキーがもう焼けません。
ケンくんは泣きだしました。
泣きながら、大きなボウルの中を見ると、すみっこにちょっぴり生地がくっついていました。ケンくんのてのひらぐらい、ちょっぴりの生地です。
ケンくんは生地を手にとって、大きな台にのせました。台の大きさにくらべると、まるで、白ゴマがひと粒のっているみたい。
ケンくんはそれを丸くして、残っていたひと粒の干しブドウをのせました。
それから、大きなフライ返しに小さな丸い生地をのせて、大きなオーブンの大きな鉄の板のすみっこにちょこんとおいて、ふたを閉じました。
大きなオーブンの中は、まだ充分熱かったので、小さなクッキーはすぐに焼けました。
ケンくんは、今度は眠らないように気をつけていましたから、クッキーはちょうどいい焼けぐあいです。
ほかほか、ほっこり。
小さな包みに小さなリボンをつけて、ケンくんはクッキーをミクちゃんにあげました。
お誕生日、おめでとう。
ミクちゃんは、ありがとう、と言い、小さなクッキーをぱくんと口にいれました。
クッキーは、とってもとってもおいしくて、ミクちゃんのほっぺは、おちてしまいそう。
おいしいクッキーが食べられて、ミクちゃんはとっても幸せ。
ミクちゃんの笑顔が見られて、ケンくんもとっても幸せ。
それを見ていたお日さまも青空も、白い雲も幸せ。
だから、みんな幸せ。
おしまい