ママがお風呂で百面相をしていました。
それを見てメメが笑ったら、ママが言いました。
「地球には重力というのがあるのよ、メメちゃん。こうやってマッサージしないと、顔も体も下に垂れてしまうの」
それで、メメは、これからの一生を逆立ちですごそうと決めました。
でも、五歳のメメには逆立ちはむずかしい技です。
練習してもできなくて、がっかりして道を歩いていたら、向こうから、逆立ちして手で歩いて来るおじいさんに会いました。
「すごいね。メメに逆立ちを教えて」
「いいとも」と、おじいさんは言いました。
「ついておいで」
ついていくと、そこは逆さまの国でした。
みんな逆立ちをして歩いています。手に靴をはいて、足には手袋をして、道で出会うと、
「やあ、さようなら」
と言って、悲しそうな顔をします。
「何もかも逆さまなの?」
メメがきくと、おじいさんが言いました。
「逆さまって何のこと? みんな普通だよ」
ここでは、逆さまなのはメメのほうです。
おじいさんの家に行くと、メメと同じくらいの女の子がドアを開けてくれました。
「どこに行ってたの」
と女の子が言いました。
「ごめんなさい」
と、おじいさんがあやまっています。
逆さまの国では、子供のほうがえらいのでしょうか?
いいえ、違います。逆さまの国では、子供は大人、大人は子供なのです。だから、やっぱりえらいのは大人なのですが、その大人は子供なのです。
「じゃあ、子供がお仕事に行くの?」
「いいや、子供は学校に行くよ。ほら、これがボクのランドセル」
「あれ? あ、そうか。子供は大人だから大人が子供で…じゃあ、赤ちゃんは何歳なの?」
頭がこんがらがって、メメは泣きべそをかきました。
「何がそんなにおかしいのさ」
おじいさんが、いえ、男の子がききました。
「ひどいわ。メメは泣いてるのよ」
メメが怒ると、おじいさんは、いえ男の子は(ああ、ややこしい)悲しそうな顔をしました。
「大人なのに泣くなんて変なの」
「メメは大人じゃないわ」
メメが大きな声を出すと、おじいさんの男の子は笑い出しました。
「もうたくさん」
メメは、逆さまの国を飛び出して、自分の家に帰ってきました。
そんなわけで、メメは逆立ちができないままなので、今は、毎日ママとお風呂で百面相をしています。
でも、百面相はいつのまにかにらめっこになってしまって、メメはすぐに笑い出して負けてしまいます。だって、ママの顔ったら、ほんとうにほんとうに、ほんとうに面白いのですもの。
おしまい