―――プシュ。  端末、各種モニターの並ぶ部屋。かなり広い部屋だ。  その部屋の重厚な扉が開き、一人の若い女が入ってきた。 「主任、テストは順調かみょ?」  女は妙な口調で、近くで指示を飛ばしていた男に声をかけた。 「はい。―――って、あれ?大黒様、今日は18歳バージョンなんですね」  主任と呼ばれた男は、にこやかに答えた・・・が、その表情には多少の疲れが  伺える。どうやら徹夜明けらしい。 「あー、今回はシリアスな展開だからねー。11歳じゃ締まらないみょ。  それより、ココでは所長と呼べと言ったみょ?!  ―――まあいいみょ。で、”ブルー”の具合はどうかみょ?」  女―――所長は正面の巨大なウィンドーを見つめながら尋ねる。  ガラス越しの隣室。  大きな、何らかの液体が満たされたポッドのなかに、一人の少女が  横たわっている。 「おおむね良好です。ただ、やはり精神負荷に対する安定性が・・・」 「ほえ?なにそれ」 「あー・・・えーと、ようは戦闘時にキレやすいというか・・・。  やはり、”能天気”という基本の性格設定が、どうしても  ネックになっているようで」 「それは仕方が無いみょ。自分の他に、四機ものビットを同時コントロール  するんだから。  使用中にあれこれ考えちゃったら、とても処理が追いつかなくなるんだみょ。  ―――ほら、かのダイヤモンドなんとかって博士の作品と同じなんだみょ。  この子もデリケートすぎる設計だからねー。天然バカでちょうどいいんだみょ」  ケラケラと笑う所長に、主任はぎこちなく笑い返した。 「しかし、ビットは四機も必要ですかね・・・?  距離が離れれば、弾速10万km/秒のレールガンがあるし。  半分の二機でも、この子に勝てるぽっとたんがいるとは思えないんですが」  所長は ふ、と軽く溜息をつき、主任に一綴りの血塗られたレポートを手渡した。 「―――私が内密に調査させた、ツギノミヤ財閥の白ぽっとたんの全テスト状況・結果みょ。  その内容をもとに予測したけど・・・。  ビット二機では、”ブルー”の勝率は全テストケースで三割以下だったみょ。  ・・・旧式ってのは、裏を返せば経験値が半端じゃないってコト・・・。  戦術AIでどうしても劣るんだったら、基本戦闘力で圧倒するしかないみょ?」  レポートと所長の言葉に戦慄しつつ、主任は頷いた。  ”経験”の差とは、これほどのものなのか。  たしかに、この相手に勝利するには、これしかないのかもしれない。 「―――あれ?  しかし、なぜ想定敵ぽっとたんがツギノミヤ財閥の”ホワイト”なんです?  ”制式”の、”レッド”が順当なのでは・・・」  その問いに、所長はふん、と鼻をならして答えた。 「あの子は、現状ではまるで問題外だみょ。  最新機といっても、所詮はどっちつかずの中途半端な万能タイプだからねー。  ―――万が一、封印されてるはずの”G.A.T.E”システムが起動・・・  あの”門”が開いちゃったりしたら、ちょーーーっとヤバいけど・・・みょ」 「???」  主任は謎の言葉に戸惑った。  ・・・が、気にしないことにした。この人の謎発言は今に始まったことじゃないし。    所長はウィンドーに視線を戻す。  目覚めた”ブルー”がポッドの中で微笑んでいた・・・。 --------------------------------------------------------------------------------------- 「ところで、よく他の皆さん、ぽっとたん同士の模擬戦に賛同してくれましたよね」 「えー、面白そうじゃないかみょ?模擬戦だから壊れたりしないしー」 「いや、そーゆーの、楽しいって人ばかりじゃないと思うんですけど・・・」 「んー。でも『優勝チームにはうまい棒フルコース進呈みょ』って言ったら、  みんな参加表明してくれたみょ」 「うまい棒、ですか・・・」                                終われ。( ̄▽ ̄;)