昭和8年から12年にかけて建設された、眠雲閣落合樓の@玄関棟、A本館、B眠雲亭、C紫檀宴会場、D配膳室階段棟の五棟の建物を概観すると、いずれも建築技術の水準が高く、優れた品質の材料が入手可能であった昭和初期の時代性を、建物のすみずみから感じることができる。
特に、伊豆半島の中央部に位置する天城湯ヶ島町には、豊富で良質な温泉を楽しむ多くの湯治客をはじめ、創作活動に専念する文人墨客達が逗留することも多く、これらの人々を迎える施設としての旅館建築は、洗練されたものが数多く建てられたものと推察される。
そのような経験を充分に積んだであろう近在の棟梁が、渾身を込めて建築に携わった眠雲閣落合樓の各建物は、眠雲亭に代表されるように、優れた意匠感覚とこれを形にする技術の高さが随所に満ち溢れた代表例である。
飯 塚 雅 也
(町文化財保護委員長)
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眠雲閣落合樓の概要 |
玄関棟 |
昭和 8年建造
木造平屋建、瓦葺
面積 80u
漆喰塗り壁、彫刻欄間
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本館 |
昭和8〜10年建造
木造二階建、銅板葺
面積 356u
黒柿、紫檀の銘木奇木を充て、黒漆塗り |
眠雲亭 |
昭和8〜12年建造
木造二階建、瓦葺
面積 215u
杉磨き丸太、銅版の彫刻欄間 |
紫 檀 宴会場 |
昭和8〜12年建造
木造二階建、瓦葺
面積 378u
108畳の大広間、床柱に紫檀の出節の2本の柱、框 |
配膳室階段棟 |
昭和8〜12年建造
木造二階建、瓦葺
面積 73u
付属建物ながら高い建築技術と良質な材料 |
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