スペースシャトル空中分解について(2003.02.25)
2003年02月01日午後11時16分(現地時間08時16分)スペースシャトル
コロンビア号が空中分解してしまうと言う、大惨事が発生しました。この事故は、
86年のチャレンジャー号爆発についで2度目。女性を含む7人の宇宙飛行士が
犠牲となりました。乗組員の方々のご冥福をお祈りします。
現在迄に報道された内容を整理すると、下記の様になります。
1)機体は、20年前に初飛行した、最も古い機体であった。
1981年4月にスペースシャトル初飛行で使われたのが、今回空中分解を
起こしたコロンビア号です。
当時の打ち上げの映像は、リアルタイムで中継され、これを見たとき、本格的な
宇宙時代の幕開けを感じました。耐熱タイルの剥がれは、この初飛行の時にも
懸念され、当時の新聞は、地上からの大口径望遠鏡で見たスペースシャトルの
翼面下の大きな写真がと共に、「耐熱タイルの剥がれは確認できず」との見出し
がありましたが、地上への帰還迄、祈るような思いでした。
空中分解と判明したとき、マスメディアが真っ先に指摘したのは、機体の老朽化
と、整備不良でした。
2)分解直前のデータ交信記録では、左翼のデータに異常があった。
NASAとスペースシャトルの交信記録では、「左翼のタイヤの圧力が受け取れ
なかった」との地上管制があり、機長が「了解」と答えた直後、交信が途絶えた
と報じられた。
その後の調査では、左翼のタイヤの温度が急激に上昇していた記録が残って
おり、左翼から分解していったとの推測が発表された。
3)発射時に燃料タンクから外れた断熱材が左翼にぶつかっていた。
その後のNASA提供の映像では、発射直後に、左翼にぶつかってはじき飛ば
された大きな断熱材のVTRが公開された。しかしながら、異物の衝突と、分解
の原因とは 無関係とのNASAのコメントがあった。
航空専門家と呼ばれる人たちが、マスメディアに引っぱり出され、こぞって異物
衝突による耐熱タイルの剥がれが直接原因とコメントした。
経過の推定
以上の情報を総合すると、以下の様になると思われます。
1)シャトル打ち上げの数分後、燃料タンクから断熱材が脱落、左翼にぶつかった。
この時の衝撃で左翼の耐熱タイルが剥がれ落ちた。
2)NASAでは、打ち上げ後のカメラ撮影でこの事実を把握していたが、もっとも良
くこの状況を映しているはずのカメラがピンボケで使い物にならなかったので
被害状況を推定できずにいた。
3)大気圏に再突入の日時が迫った時、NASAでは、現在までの実績から、タイル
は、剥離していないか、していても問題ない部位であると判断し、再突入を指示。
4)シャトルが姿勢を変更、減速を開始し、大気圏への再突入を開始した。
5)大気との摩擦熱で機体の温度が徐々に上がり始め、タイルの剥離した部分の
金属が熱にさらされる。
6)摩擦熱の温度が金属の融点を超えたとき、左翼の一部に穴が開き、高温の
ガスが 内部に入ってくる。
7)この結果、左翼熱センサーが振り切れ、続いてタイヤが高温に熱せられてタイヤ
内部の圧力が上昇した。また、左翼内のコントロールケーブルが焼き切れ、姿勢
が崩れた為に自動姿勢制御装置が作動。
8)地上管制センターでは、タイヤの圧力データが受け取れなかったと連絡、機長が
「了解」 と答えた直後、通信ケーブルが焼き切れたか、もしくは大きく飛行姿勢が
崩れてアンテナと通信衛星の軸がずれて通信が途絶。
9)左翼から分解、四散した。
チャレンジャーの教訓は生かされなかった?
1986年、スペースシャトルチャレンジャー号が空中爆発を起こした時、原因は補助
ロケット の継ぎ目のパッキンが外の寒さで収縮して高温ガスが漏れ出し、これに
着火して爆発した事が判明しました。そして、この危険性は、ロケット造会社の技術
者から指摘があり、問題視されていたのですが、打ち上げ時の決断では、日程を
重視するNASAの圧力に屈し、営業 判断で一転して問題なしと結論された結果、
打ち上げが強行されたのでした。
今回のケースでは、タンクの断熱材剥がれは、有害物質規制(フロン)の為に発泡
剤を数年前に変更して以降、立て続けに発生していたそうで、日本人宇宙飛行士、
若田さんの乗ったシャトルでも耐熱タイルの表面に無数の傷が見つかり、耐熱タイル
剥離の危険性を指摘する技術者がいたそうです。
また、打ち上げ時のVTRから、断熱材がシャトル左翼にぶつかった事が判明して
いながら、今回のミッションでは偵察衛星や、地上望遠鏡からの撮影等は実施
されず、再突入が決定されたのだそうです。
つまり、危険性が無視され、都合の悪い事から目をそむけた結果、犠牲が出た人災
だった可能性が高いのです。結局、「危険性の指摘を無視してはいけない」と言う
教訓は生かされず、再び人災が起こったのです。残念です。
初飛行から約20年を経過し、コロンビア号を苦労して開発し、打ち上げた功労者
達は、高い地位に上り詰めたか、もしくは退役してしまっています。14年前に
チャレンジャー号の爆発を目の前で体験した人たちも同様です。
おそらく、現場では、様々な規則が作成され、これを守ることが徹底された事は
容易に想像がつきます。ですが、その苦労やショックは伝えられる事なく現在に
至ったのではないでしょうか。
規則はマニュアル化され、文書として後世に伝えることは容易ですが、その規則が
なぜ作られたのか、守らなければどのようなことが起きるのか。これを伝えるのは
容易ではありません。失敗した経験は、みなさん語ろうとはしないからです。
こうして時間が経った結果、現場では世代交代が進み、失敗経験のない人たちが
トップになる事で苦い経験が忘れ去られてしまったのではないかと思います。
この様な事は、残念ながら珍しい事ではありません。製造業であればどこの会社
でも発生する可能性を含んでいます。喉元過ぎればなんとやらで、対策が進み、
事故が起こらなくなってしまえば人は安心してしまいます。
そして、その対策と言うのは、事故の直接原因にとどまったり、クレーム対象の
製品にとどまり、水平展開されない事が多いのです。この結果、トラブルは、別の形
で現れたり、下手をすればまったく同じトラブルを同じ構造の別の製品で体験したり
するのです。
今回の事故の詳細は今後、明らかになっていくでしょう。そして、宇宙開発は、
おそらく1〜2年、停滞する事でしょう。しかし、今度は、この教訓を後世に正確に
伝え、乗り越えていってほしいと思います。それが7人の犠牲者への最高の供養
になると考えます。
※耐熱タイルとは、セラミックス(瀬戸物)で出来た断熱材の事。非常に軽いのですが、
接着が難しく、また、剥がれやすいのでシャトルへの接着の際は、クリーンルームで
実施される程気を使います。
耐熱タイルの剥離
大気圏突入時、機体は1500℃もの高温の摩擦熱にさらされます。耐熱タイルが剥
がれていると、この部分の金属は、溶けてしまいます。高温ガスが機体の内部に
侵入してしまうと、内部は、特に保護されていないので、機体は内部から焼き尽くされ
てしまう可能性が あります。
今回の場合、打ち上げ時の燃料タンクから剥がれた断熱材は、左翼に当たっている
事、タイヤ圧力の異常、熱センサーの断線等も左翼で発生しており、緊急で自動的に
行われた姿勢制御も左翼におけるバランスの修正作業であったとされます。
従って、耐熱タイルが剥がれた事は、事実である可能性が高いと思われます。
大気圏再突入角度の設定ミス
大気圏に再突入する場合、突入角度が狂うと事故につながります。角度が浅すぎると
大気圏 からはじき飛ばされ、角度が深すぎると燃え尽きてしまいます。記録では、
着陸15分前。
すなわち大気圏に入ってきてから、異常が発生している様です。
※ブラックアウト
アポロ11号では、大気圏再突入時、ブラックアウトと呼ばれる通信途絶が起きる事
が知られています。宇宙船が大気圏に再突入する際の大気との摩擦で高温になり、
宇宙船周囲の大気がイオン化して、電波を通さなくなる事です。スペースシャトルの
場合、当然、翼面下のアンテナでは、ブラックアウトが生じるのですが、機体上部の
アンテナを使い、通信衛星を経由する事で地上との通信が確保されるので通信が
途絶するする事はないそうです。
機体の老朽化が原因か?
事故当初、スペースシャトルの老朽化説が浮上しました。古くなっていて、機体の
強度が 落ちていた為に大気圏再突入時の衝撃に耐えきれず、分解したと言う
物です。
この説は、一見最もらしく、分かり易くもありますが、最も考えにくい原因でもあります。
スペースシャトルを含む航空機の設計は、繰り返し応力を計算に入れて設計されます。
金属は、ある一定の応力に対しては、永遠に破壊しないポイント(許容応力)があり
ます。
そして、それ以上の応力に対しては、寿命計算が出来る(何回応力が加わるとくると
破壊するのかが判る)様になっています。すなわち、予想以外の大きな応力が入って
こなければ破壊されないのです。
スペースシャトルの場合、機体の各部に応力を測定するセンサーが取り付けられ、
許容限界を超える応力が入っていたかどうか絶えず監視されています。また、着陸後、
各部を様々な検査を行い、破壊の前兆となる構造部材のクラックがないかどうかを
検査します。
従って、老朽化が直接の破壊原因であるとするならば、検査の見落とし、もしくは設計
ミスと言うことになってしまいます。
空中分解の原因は?
4)事故直前に姿勢制御装置による傾きの自動補正が動作した。
事故直前に、シャトルの姿勢が急激に変化しており、自動補正装置が作動して
いた。通常の飛行状態では、考えられない事態であり、急激な姿勢変化から
バランスが狂い、分解の引き金になった可能性がある。
この他にも、タンクの断熱材剥がれは、有害物質規制(フロン)の為に発泡剤を
数年前に変更して以降、立て続けに発生しているとか、再突入前に、望遠鏡や
衛星写真による耐熱タイル剥がれ確認を怠ったとか、発射直前の目視チェックが
実施されていない等、様々な 情報が流れている。