終わらせられない君へ

「……否が応でも終わりはくる、諦めるしかないだろ。」

 いつまでも古き友人との思い出話を繰り返す目の前の男へ、ついに言い放ってしまった。ひゅっと息を飲む音が聞こえ、湖面のような青い目が倍の大きさになる。やってしまったと思った時には、既に繊細な指先が俺の胸倉を捉えていた。

「なんだよ、その態度!!自分は関係ないみたいな顔して!?」

 凄んでこそいるものの、その声は風に吹かれた木の葉のように震えていて何だか拍子抜けしてしまった。相手の激情に触れれば触れるほど、己の心が冷たく凝り固まってゆくのが手に取るように分かる。早くも目を合わせることすら億劫に感じていた。

「悪いのはどう考えたってきみなのに……どうしてロイがいなくならなくちゃいけなかったんだ!きみなんていなければよかったのに!!きみはこの世界に来ちゃいけなかったのに!!きみなんて、きみなんてっ!!」

 張り上げた声が裏返る。我に返ったのか、マルスの手元が弱々しく緩んだ。

「……ごめん。アイクのせいなんかじゃないのに……でも、お願いだから……ぼくと、ロイの邪魔をしないで。口を挟まないで。一緒に過ごした日々も、聞き慣れた声も、昨日みたいに鮮やかなのに……顔が、もう、思い出せないんだ……」

 呆れた。今にも大きな滴がこぼれ落ちんばかりの瞳を見てなお、同情より、嫌悪より、先に深い溜息が出た。過去は過去で、終わった事で、その瞬間に不必要になっている。追憶という行為は人をなまくらにするのだ。だから思い出なんてものは直ちに廃棄しなければいけないのに、こいつは未だそれを握りしめている。全てを受け入れられるほど寛大でも、割り切れるほど大人でもないくせに、手のひらのそれを度々見つめては、怯え、拒み、立ち竦んでいる。俺は、こいつのこの場に生きているくせして、自分だけがたった一人悲しみの渦の中に取り残されているとでも言いたげな顔が、大嫌いだ。そんな風に臆病者で居る限り、先に進むことなんて永遠に出来やしないのに。

「勝手にやってろよ。」

 マルスを一人残して、部屋を後にした。

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