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いくたのまもの
ロイが回避の姿勢を取ったのとピットの指が弦を弾いたのはほぼ同時だった。懸命な判断が功を奏し、直撃こそ免れたものの、光の矢は彗星のような尾を引いてロイの肩を裂く。ピットはしぶく血の派手さに一瞬微笑んだが、致命傷を負わせていないことに気付くとすぐに不快そうに目を伏せ、舌を打った。続けて神弓を素早く分割し、再び攻撃の姿勢を取る。そのまま羽ばたき一気に距離を縮めると、体ごとぶつける勢いで斬りかかった。
「……っ!!」
勢い良く振るわれたピットの神弓をロイの剣が受け止める。金属の交わる甲高い音。有りっ丈の力を込めたことにより傷口が開き、ロイの肩からは血が流れ出た。血は腕を伝い、地面にいくつもの染みを作っていく。
「う、ぐ……っ……!」
「ほらほら、押し負けていますよ。もう降参ですか?」
「っる、せぇ!!」
煽る様な言葉に、ロイが痛みすら忘れたかのようながむしゃらな攻めを見せる。その切っ先がピットの頬を掠め、赤い線を引いた。人形じみた可憐な表情がみるみるうちに歪み、崩れていく。
「見苦しいぞ、人間!!」
削れるほどに重ねていた刃をふいに浮かせ、ピットが大きく身を引いた。強制的に振り下ろされる形となったロイの剣は空を斬り、体がぐらりとバランスを崩す。そこにすかさずピットが抉り上げるような一撃を叩き込んだ。
「なッ!?」
一際鈍い音を上げ、ロイの剣が弾き飛ばされる。剣は宙に弧を描いた後、そう遠くない場所に突き立ったが、それが再び引き抜かれることはなかった。
「ぐ、あ゛っ!!」
剣の行方に気を取られていたロイの腹を目掛けて、ピットの容赦ない蹴りが飛ぶ。地面へ派手に転がり、咳き込みながらも尚起き上がろうとするロイの喉元に神弓が突き付けられた。その体は凍りついたかのように動かない。一方、ピットの表情はかつてないほどに愛らしく、無垢だった。
「……さようなら若き獅子。そして、地獄でのお誕生日おめでとうございます!」
神弓が不吉な光を見せる。ロイはほとんど本能的に悟っていた。ここで死ぬ。二度死ぬ。頭蓋を割られて一度死に、勝利を享受した天使が高く笑った瞬間に己の誇りは折れ、もう一度死ぬ。未来の行く末は読めているのに、恐怖など微塵も感じていないはずなのに、脂汗が止まらない。刃先が高く振り上げられる。ロイは終わりを確信し、目蓋を落とした。最期に聞いたのは女神の名前だった。
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