第26話  2003.10.11


『ヒメネズミ』―チョコエッグ・その5―

 私は「シークレット」や「色違い」また「限定品」といった、いわゆるメーカーの「悪さ」に嫌気がさし、今日ではチョコエッグをはじめたいがいの食玩には背を向けている。
 この「悪さ」はマクファーレン・トイズ社によってもたらされたという。同社はスポーン(米国の人気コミック)のアクション・フィギュアによって知られる「惡さ」の元祖である。人気アイドルグループ・スマップのキムタクも一時そのフィギュアの蒐集に熱心だったと聞く。惡は毒が強い分ヒトをひきつけるのである。が、悪さの限りを尽くしただけに、今日では一部のマニアを除き、ほとんど顧みられることはない。
 フルタ製菓とパルコの共同謀議によって世間の耳目をあつめた「ヒメネズミ騒動」は、そうした「悪さ」の象徴的な出来事として記憶にとどめておいてもよいだろう。
 2001年2月、フルタ製菓は「チョコエッグ日本の動物第5弾」の先行発売を、主要都市のパルコ各店で実施した。この時期がチョコエッグ人気の絶頂であり、さらにパルコ限定品としての「ヒメネズミ」が新旧マニアをいたく刺激して、開店前から長蛇の列を見るに至ったのである。
 私は3時14分の始発電車に乗り、パルコ渋谷店開店までの数時間を、寒風吹きすさぶビルの谷間に身を置く辛抱が出来ないので、ただ布団をかぶって寝ていたのだけれど、この時期のトンちゃんは熱く、睡魔も寒気もものともせずに、なんと四度も足をはこんだのであった。
 その戦果というば、二度は買えなかった。つまり品切れ完売。一度はめでたく「ヒメネズミ」1個。一度はさらにめでたく「ヒメネズミ・ハート有り」1個。
 行って買えないというのは、サンダル履きで近所のコンビニへ行ったわけではなく、まだ暗い真冬の午前3時の電車に二時間ほど揺られ、さらに凍えながら数時間を待った上での「ごめんなさい」なのだ。その心中は察するに余りあるというものだ。
 また、ヒメネズミはこうした狂気に駆られた人すべてが手にできたのではない。さらにはハート・マークの「有るもの」と「無いもの」の2種類があるという、元祖顔負けの「悪さ」ぶりだった。関西では「ヒメネズミをよこせ!」といって、恐喝まがいの行動に打って出た傷ましい男のことがニュース番組で報じられたほどだった。
 こうした騒動の最中にあって、私はネットの掲示板で気になる書き込みを見た。
 その方もトンちゃんとおなじ思いをしてチョコエッグを買われたのだが、ヒメネズミが出ないばかりか代わりに4弾が出てきた。おそらく5弾が間に合わずに捩じ込んだものと思われる。とんでもない「悪さ」である。否、まったくの詐偽である。ただ、幸いにもその方はフルタ製菓にその旨を伝え、4弾とヒメネズミの交換に応じてもらったという話であった。
 ところが、こんなにも重要な書き込みが、すぐに消されてしまったのである。「悪さ」をすればその「悪さ」につけこまれるのが世の常だ。
 翌日、私は「寒いおもいをしてパルコでチョコエッグを買ったら信じられないブツが出てきた」と手紙に書き、転がっている4弾を同封してフルタ製菓宛に郵送した。三週間後、私の手許に「ヒメネズミ」が届けられた。ただし、ハート無しであった。

(写真解説)
 今なお高値(5千円前後か?)で取引されている「ヒメネズミ」全高約3.5センチ。このほかに、手にした木の実に白いハート・マークの有るものがある。こちらはさらに高く1万円前後で取引されている。
 

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