第27話  2003.10.22


『空想科学読本』―タイムスリップグリコ・その3―

 古本屋で『ウルトラマン研究序説(中経出版)』を手にした。この本は1991年の末に出版された。にもかかわらず、目次の次には「2001年ドイツ語版への序文」さらには「2003年英語版への序文」をしたためるというウルトラマンぶりを発揮している。金色に光り輝く帯には「40万部へ!ベストセラー街道、突進中!」とあるから、ご存知の方もいらっしゃるだろう。
 この後、またも古本屋でこれに類する本を手にした。宝島社の『空想科学読本』および『空想科学読本2』の二冊である。
 こちらはウルトラマンに限らず、特撮やアニメのヒーローならびに怪獣たちを大いに科学して飽きない。著者は種子島の奇才・柳田理科雄氏。1961年生まれとあるから私とおなじウルトラマン世代である。
 理科雄氏の調査によれば、日本の空想特撮世界には37匹の地底怪獣がいる。ところが「地底はこれらの怪獣を養うほどに豊かではなく、生態系が成立しているのは、深さ数メートルの穴を掘るアリを除けば地下数十センチまでである。この時点で人間や牛を食うゴメス、肉食のサドラー、飛行機を食うアントラー、また鈍くさいツインテールも脱落となる。さらに、地下数十メートルまで潜るといよいよ条件は厳しくなる。地盤が固くなり、土の粒子の隙間に含まれる空気がぐっと少なくなる。こうなると自分の掘った穴を通じて空気を交換するしかない。ここで真っ先に斃れてしまうのがケムラーとモグネンズ。この2匹はなんと毒ガス怪獣。空気が毒ガスに押し出されて酸欠死は免れない」というふうに、本書は空想特撮世界を小気味よく科学してまったく倦まないのである。
 さて、写真の怪獣「パゴス」はどうか?
 怪獣が地底を進むには、岩を引き裂き断層を起こして空間をつくり、そこを行く方法が挙げられている。が、それには莫大なエネルギーと力を要し、マグニチュード8.7の地震規模に匹敵するであろうという。これはエネルギーにして80京j、力にして20兆tである。最も大きな破壊力を持つTNT爆薬が爆発すると1kgあたり300万jのエネルギーを出すというから、80京jのエネルギーを得るには約270億tのTNT爆薬が必要となる。
 ならば核分裂エネルギーに期待するよりないか? ところが、核分裂で発生するのは熱エネルギーであり、熱エネルギーをすべて力学的エネルギーに変えることはできず、核分裂で断層を起こそうとすると莫大な熱が発生し、周囲の岩は溶けてしまう。哀れパゴスはドロドロのマグマの海に沈み、やがて地球中心部に達し熔解してしまうのであった。
 このような塩梅で37匹中36匹の地底怪獣が脱落し、最後にゴルドン一匹が残る。
 ゴルドンとは「ウルトラマン」に登場した黄金怪獣である。時速150キロの速度で地底を掘り進み、1日に10兆円もの金を食べたこともあるという猛者である。
 金の価格を1g1400円とすると10兆円分だと7000t。実に地球埋蔵量の6分の1相当の量の金をむさぼった。無論、7000tもの金塊が一ヶ所に積み上げられているわけがないから、ゴルドンは10億分の1程度の金を含むそのへんの岩を食い、食っては排泄し、やがて地球を食いつぶすという自滅の道をたどるのである。
 本書は「空想特撮世界の中では描かれなかった途方もない数値の持つ具体的な意味を実感してみたい。人類がまだ体験したことのない状況を想像と思考によって経験してみたい」という思いでつづられたおとなの読物である。

(写真解説)
 新タイムスリップグリコ・第4弾のシークレット「パゴス」全高約4.5センチ。パゴスは1966年5月1日に放送された「ウルトラQ・虹の卵」に登場した地底怪獣。身長30メートル、体重2万トン。ウランを食し、分子構造破壊光線を吐く。それは人間の眼には金色の虹に見えるという。虹は七色というのが昔からの相場なのだが……? なに、これが空想特撮の世界観なのだ。
 

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