第3話  2003.02.22


『俺たちチョコエッガー』―チョコエッグ・その1―

 三年前の年の瀬だった。朝刊の社会欄に「チョコエッグなる新手の食玩(おまけ付の菓子)が、若者を中心に私のようなおっさんたちにも売れている」という記事が掲載された。
 なぜかしら、ひどく気になった。私はその記事を切り抜いたほどだった。そして何度も読み返していた。この一文を書くにあたりその切り抜きを探してみたけれど見つからなかった。知らぬ間にふくれあがったおもちゃ箱のどこかに紛れ込んでしまったのだと思う。
 年が明けて、私はそれまで通りすがることさえなかったスーパーのお菓子売り場で、噂のチョコエッグに出くわした。「チョコエッグ日本の動物4弾」と「同ペット動物1弾」の二種類が並んでいた。またも、なぜかしら、ひどく迂闊だったと思った。
 私はさっそく五個ずつ買い求め、急ぎ家へ戻った。箱を開け、包み紙を剥がし、タマゴ形のチョコレートの中に納められた円筒形のカプセルを取り出し、いよいよ御本尊のお出ましと相成った。が、なんてことはない。いくらか出来の良い組み立て式の犬や鳥や魚じゃないか。期待していただけにいささか落胆した。落胆しつつも、私は「ウィペット」や「アカショウビン」や「アユカケ」といったこれまで聞いたことも見たこともない小動物が、平然とお菓子のおまけになっちまうキテレツに、目をみはった。すぐに「こいつはお子様のオモチャじゃねえぞ」と合点した。と同時に「やばいよな……」といった不安がよぎった。
 熱海市の中心街に「日吉」という駄菓子屋があった。おばさんが店の奥でインスタントラーメンを調理して、子供たちに食わせていた。一杯五十円だったと記憶する。私の目当てはそんな「チャルメラ」や「出前一丁」ではなく、『野生の驚異』や『知られざる世界旅行』といった人気ドキュメンタリー番組に登場するゴリラやライオンの良く出来た小さな人形だった。
 ボール紙や紙粘土で動物園のジオラマを作り、おばさんに催促してまで取り寄せてもらった動物たちを配して悦に入っていた。たぶん、このあたりが蒐集から工作への転換期だったのだろう。小学三年生であったか。
 チョコエッグは、この頃の私の記憶を呼び起こしたのである。結婚するまでの二十年間、私はひとり東京に暮らした。少年を棄て、大人になろうと努めてきた。が、私の中の少年はたくましく、さらには放蕩であった。
 ペプシマンのボトルキャップで手ごたえをつかんでいた私は、ともかくも、売り場にあるチョコエッグを買い占めてやろうと決心した。ところが、そう決心して売り場へ向かったときには既にその影さえもなかった。熱狂の幕開けであった。

追記
 表題の「俺たちチョコエッガー」は、チュコエッグをはじめ食玩愛好家たちに人気のサイト名。私もたびたび利用させてもらっている。が、最近「Not Found」である。

(写真解説)
 フルタ製菓・チョコエッグ日本の動物第4弾(全24種類+シークレット)のハタネズミ。こいつが四個もダブッた腹癒せに、斯様な情景をこしらえた次第。

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