第32話    2003.12.12


『まんが本』―バルタン星人―

 少年の私にとって「まんが」といえばテレビだった。サンデーやマガジンやキングは、友だちの家でパラパラと手にすることはあっても、買って読んだという思い出がほとんどない。タイガーマスクも明日のジョーも鉄腕アトムもみなテレビだった。
 そもそも、私は本自体が嫌いで、さらには週刊という販売方法になじめなかった。週刊漫画の読者はおそらく次週への期待をふくらませるのだろうけれど、私には尻切れトンボでどうにも我慢ならなかったのである。
 まんが本を買った思い出をいえば、週刊ものは「少年サンデー」一冊きり。これは母の実家へ行く途中の駅売りで買った。「もーれつア太郎」の第1回が掲載されており、いきなり易者のとうちゃんがあっけなく死に、たちまち幽霊になったのでド肝を抜かれ、今日に至るまで記憶はきわめて鮮明である。
 単行本では「天才バカボン」の第4巻(だったか?)。時期はずれるがこれもまた母の実家へ行く途中の書店で買った。古い農家の縁側で、ポカポカの陽射しを浴びながら読んだのをおぼえている。
 ア太郎もバカボンも赤塚不二夫の漫画であるから、私はよほど赤塚漫画が好きだったのだろう。
 小学校の同級生におそ松くんやチビ太を上手に画く友がいて、私は彼を仰ぎ見るおもいでながめていたのを、今おもいだした。
 彼は高校卒業後ホテルオークラに就職し、レーガン大統領が来日した際には朝食のオムレツを焼いたという噂を耳にしたけれど、真偽のほどは定かではない。フィリピィーナと所帯を持ったとも聞いたが……。友よ、君はいずこにありやなしや。
 先日、物置を整理していたら「巨人の星・第2巻」が出てきて驚いた。我家は2回の引越しで私のものはあらかた処分されてしまったから、これは奇跡ですらあり、私は作業の手を休め、それこそ読み耽ったのである。
 おもしろかった。こんなにおもしろい漫画を読んでいた少年の日の自分を、私は誇らしく思った。川崎のぼるの絵にはぬくもりと、なにより少年への励ましが感じられた。あるいは、それは私の記憶なのかもしれない。野球少年でもあった私は、何度も何度もこの漫画を読み返し、励まされ、なぐさめられたのだろう。
 私はこの漫画(全19巻・講談社刊)を通読したいと思った。幾度かヤフ・オクでの入札を試みたが、未だ落札できないでいる。残念ではあるけれど、この漫画を評価している人たちの存在に、ひそやかなよろこびをおぼえてもいるのである。
 昨年、私は「鉄人28号・全10巻(秋田書店)」を読んだ。退屈で退屈で、苦痛ですらあった。「エイトマン・全4巻(同)」も読んだ。こちらはまだ読めた。が、読み返したいとは思わない。今年になっては「まぼろし探偵・1巻、2巻(全8巻・リム出版)」を読んだ。善人であれ悪人であれ、その行儀の良さと丁寧な言葉遣いに関心した。
 近年の漫画を私は知らない。ただ仄聞するかぎり、アニメと総称されるテレビ動画が、コミックと総称される漫画を下品にしたと理解している。
 先日、ひまつぶしに立ち寄った書店で創刊相成った「特撮エース(季刊)」という漫画を買った。オマケのフィギュアにつられてのことだった。
 巻頭はウルトラマンの第1話・ウルトラ作戦第1号である。これは実写を漫画に脚色して描かれたもので、私はこんな内容だったのかと知った次第。
 私は頭から漫画をバカにしているわけではないけれど、大衆の面前で臆面もなく漫画を読んでいる青年およびおとなとは食卓を共にしたいとは思わない。以前、昼食を共にした知人がラーメンをすすりながら漫画を読みはじめたので、私はいたたまれずに注意した。
「本はひとり押入れの中で読むにかぎりますぜ」と。

(写真解説)
 特撮エース・No.001の付録「バルタン星人」全高約9.5センチ。次回発売予定は来年2月18日。付録はウルトラマン・Aタイプ。これには最後まで付き合うとするか?
 

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