第37話    2004.02.02


『TOY OF THE YEAR '03』―鉄人28号・その5―

  人がましいことがしたくなり、昨年一年間に蒐集したオモチャの一番を決めることにした。
 写真は私が『2003年トイ・オブ・ザ・イアー』に選んだ「鉄人28号ジオラマシリーズ第1話・28号誕生編」である。
 12月7日に東京・渋谷のまんだらけで購入。箱付きの美品で価格は8,000円だった。一昨年に定価13,800円で発売され、送料・手数料を加えると15,000円を若干上回る価格になったと記憶している。友人が買ったのでおぼえているのである。
 いずれは私も手に入れたいと思いつつ、ヤフ・オクでの入札も試みたけれど、希望する価格での落札はかなわなかった。ちなみに、私の希望価格は6,500円だった。それに送料・手数料が加算されるので、8,000円はほぼ希望価格だったのである。
 購入以前にも、私は何度か「28号誕生編」を目にしていた。が、たいがいは10,000円を超える価格で、甚だしいのは定価さえも超えて恬として恥じず、同じまんだらけでも中野店では同日15,000円の値がつけられていた。さすがに客をなめきっているので、先月11日に立ち寄った折には埃をかぶっていた。
 28号誕生編には写真の彩色のほかにモノクロバージョンがある。それはイベント限定で発売されたと聞く。実は購入した折にそいつも同じ価格でショーケースにならべられていたのである。
 買うた・やめた音頭をご存知だろうか? これはプラモデル界に古くから(といっても戦後であるが)伝わる踊りであると、岡田斗司夫の『オタクの迷い道(文春文庫)』に書かれている。
 模型屋でプラモの箱を半分引き出してはながめ、戻し、また引き出してはながめ、戻す。この動作の合間に発する「これや」とか「いや、でも」といったつぶやきとも絶叫とも取れることばが、周囲には盆踊りでも踊っているように見えるところから命名されたという。
 私の場合、ブツはショーケースの中なので勝手に引き出すことは出来なかった。私はその前に佇み、努めて冷静を装いながら沸騰した頭をふりふりしばし黙考していたのである。コレクター魂としてはカラー、モノクロの両方を手に入れたい。が、生活人としてはどちらか一方で事足りなければいけない。これは私と私の中の永遠の少年とのせめぎあいである。
 両方を買うカネはあった。ただ、両方買えば陽の高いうちに渋谷から帰りの電車に乗っちまったほうが賢明だ。その後、中野や秋葉原を歩いたとて収穫はなかろうという勘が働いていた。事実、私はカラー・バージョンひとつを買い、こころを残しつつ中野、秋葉原と足を延ばしたが、掘り出し物に出くわすことはなかった。
 それを後悔しているかといえば、そんなことはない。私はあの場では生活人であることを選んだのだ。「われ道において後悔せず」といったのは宮本武蔵であったか。私にとってオモチャはゲームであり、勝ったり負けたり(手に入れたり入れられなかったり)のうちにもたのしみを見出しているのである、というのは本心だろうか?
 蒐集とは底無しの穴を埋めるがごとき作業で、その闇はまるきり自己のこころの闇である。陽が射さないだけに影も落とさず、とらえようのない不気味さに朦朧とするばかりである。

(写真解説)
 「鉄人28号ジオラマシリーズ第1話・28号誕生編」まんが宿製。奥左・鉄人28号全高約10センチ、手前右・金田正太郎全高約4.5センチ。シリアルナンバー・201。ソフトビニール製なので床部分などは波打っているけれど、これもまたソフビの味わいである。外箱は放映当時の白黒テレビを模したデザインになっており、そのブラウン管(窓)からのぞくも情景や好し。
 

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