第46話    2004.05.02


『追悼 横山光輝』―鉄人28号・その6―

 4月16日「鉄人28号」をはじめとする人気漫画家・横山光輝氏が死亡した。原因はたばこの不始末による全身ヤケド。つまりは焼け死んだのである。
 おなじ日、「イラクから自衛隊が撤退しなければ焼き殺す」と脅された日本人三人の人質が、こちらはヤケドどころかかすり傷も負わずに解放された。
 私はほんの数年前まで、横山氏は既に鬼籍に入られているとばかり思っていた。それはきっと、氏が先に亡くなられた手塚治虫氏と人気を二分した漫画家であったから、おなじ頃にやはり亡くなられたと思い込んでいたのである。
 氏の出世作であり代表作でもある「鉄人28号」は、昭和31年雑誌『少年・11月号』の付録として登場した。
 当時、氏は雑誌『少女』に少女漫画を連載しており、そのため訪れた光文社で『少年』の編集部から「なにか作品はないか」と声をかけられ、描きかけの「鋼鉄人間28号」をみせたところ、連載のはこびとなった。
 「鋼鉄人間28号」は「鉄人28号」と改題され、当初の構想では巨大で無敵なロボットが、悪人に操られるままに町を破壊していき、それに少年探偵・金田正太郎が敢然と立ち向かい、最後は溶鉱炉で溶かしてしまうという筋立てであった。
 鉄人は氏が少年の日に映画館で観た「フランケンシュタイン」のイメージであり、28号はやはり少年の日の巨大な爆撃機B-29に因んでいる。また、金田正太郎は国鉄スワローズの金田正一投手の名からの拝借であり、鉄人28号は「少年時代に驚きをもって見聞したものの積み重ねである」と、氏は話している。
 ベテラン漫画家が目白押しの『少年』で連載をスタートした「鉄人28号」は、号を追うごとに人気が高まり、ついには巨星「鉄腕アトム」を凌ぐほどになった。
 すると、鉄人は惡人の操るロボットではいられなくなった。操縦機は正太郎の手に渡り、ともに惡と戦う正義の戦士となったのである。これは「ゴジラ」も同様。原爆実験に対するアンチテーゼとしてスクリーンに登場したゴジラは、人気という魔物に操られ、ついには「シェー」をするという破廉恥に至った。
 映画「ゴジラ」は今年50作目をもってその幕を閉じるという。「鉄人28号」は連載開始より10年を過ぎたあたりから「くたびれてきた」と氏はいう。おそらく、手塚治虫氏がアニメの「アトム」を観て「これは私のアトムじゃない」といったのとおなじ心境だったのだろう。人気という魔物を盾に、後半はほとんど身過ぎ世過ぎで描き、また描かされてきたに違いない。
 昭和35年には「実写版」が、38年には「アニメ版」がテレビ放送された。私はこの「アニメ版」によって鉄人を知り、夢中になった。が、時に氏は「くたびれた」おもいでテレビ画面をみつめていたと思うと、少年の日の夢中がいささか色褪せて見えてくる。
 鉄人28号の他にも、私は「ジャイアントロボ」と「赤影」が好きだった。いずれも「実写版」としてテレビにかじりついていた。殊に「ジャイアントロボ」には愛着があり、そのフィギュアの蒐集にもお熱である。無論、赤影のフィギュアもいくつか所有している。エポック社のガシャ「赤影」の秀逸は多くのマニアが認めるだろうし、マーミットのビニパラ・ベビーに頬をゆるめたのは私一人ではあるまい。
 少女向け漫画では「魔法使いサリー」だ。こちらは「アニメ版」を観ている。最終回、魔法の国ヘ帰るサリーとカブ。それを見送るすみれちゃん、よしこちゃん、とんきち、ちんぺい、かんたの三つ子たち。妹と二人して涙をこぼしたのをおぼえている。
 4月に入り、深夜に平成版「鉄人28号」の放送がはじまった。今秋公開予定の映画の撮影も進んでいると聞く。氏が書き残しているように「鉄人は一人歩きをはじめている。当時ファンだった人たちがいまだに鉄人を懐しんでくれている。これは作家冥利につきる」のだろう。ならば、そしてなによりも、漫画「鉄人28号全集」の刊行が望まれる。

(写真解説)
 鉄人28号お座り貯金箱(ノスタルジック・ヒーローズ)全高約18センチ。これなどは「一人歩きをはじめた」鉄人の典型であろう。謹んで横山光輝氏のご冥福をお祈りいたします。
※写真をクリックすると拡大します。
 

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