第51話    2004.07.01


『オタクの視線』―ウルトラQ・その2―

 6月26日、大怪獣シリーズ・ウルトラQ(RIC/X-PLUS)の「カネゴン」と「ナメゴン」がトイザらス店頭にて発売になった。
 これにはST(スタンダード・カラー)とモノクロの2種があり、STは先月ザラスドットコム(トイザらスのネット通販部門)にて予約受付があった。またモノクロも店頭発売日にドットコムにて販売された。
 カラーとモノクロの2種を通販で同時に発売しないのがトイザらスの販売戦略である。そんな策に乗ってたまるかと、当初は買いに走ることさえためらったが、年々出不精になる自己への警策としてクルマを走らせた。
 といって、ただそれだけを買いに行くのは癪にさわるので、仕入れのついでに足をのばすということで自身を納得させたのである。
 朝の8時半に家を出て、駿東郡清水町の食遊市場にて肉や野菜の仕入れ。途中、酒屋で日本酒を積み込み、長泉のトイザらスには開店(10:00)20分前に到着。
 広い駐車場にぽつねんとグレーの軽自動車。運転手は三十代中頃のヒゲの濃い、おそらくは独身で恋人もいないであろうオタクだった。
 彼はクルマを下りると、ださいウエスト・バックを腰に巻き、早々出入り口に佇んだ。他に母親に付き添われた少女がひとり。彼女はこの日発売の「たまごっち」を買いに来たようだった。
 私はクルマのわきにいて、缶コーヒーをすすりつつタバコをくゆらしていた。ヒゲの濃いオタクはその嗅覚で以て私を同好の士と看て取ったらしい。私を意識しているようすがありありとうかがえた。
 なにか魂胆でもあるのだろうか、そのださいウエストバックから何度か携帯電話を取りだしては、誰ぞとみじかい会話を交わしていた。
 開店間際に、赤い制服を着たトイザらスの店員が来て「本日は限定商品の発売がありますが、ならばれている方もすくない(10人ほど)ですし、数もありますので、整理券はお配りいたしません」といった。
 以前には整理券を配ったことがあったのだろう。あるいは茶飯事なのかもしれない。
 10時にドアが開くと、オタクは小走りに店舗入口に向かった。負けてはならじとまでは思わなかったが、私も小走りに彼の後につづいた。
 彼は正規の通路ではなく、売場までの最短距離であるレジを逆走した。唖然とする店員の前を、私もつられて通り過ぎた。
 その瞬間、彼は抜かれてはならじど猛然とスパートし、私が売場に着いた時(数秒の間)には、すでにカネゴンST1個とモノクロ3個を手にしていた。もし、さらに彼が買いつづけるようなら、私はガツン一発お見舞いしてやろうと思った。が、彼は私を見るなりすぐによけてくれたのである。
 私はカネゴンとナメゴンのカラーをそれぞれ1個ずつ買うつもりだったが、彼が手にしたモノクロ3個を見て、衝動的にモノクロ1個をつかんだ。その後、おそらく私と同世代とおぼしきおっさんが二人、正規の通路を通って売場に駆け付けてきた。ナメゴンは私が手にしたきりだが、カネゴンのモノクロは残り2個。それを二人が買うところまでは見届けなかったけれど、早々売切れてしまったのではないだろうか?
 今年の正月に、私は同シリーズの「ゴロー」と「ガラモン」を買いに(第35話参照)ザラスに来た。また先月30日には、前日発売された「トドラ・ST」を。この時には最後の1個で、えらく肝を冷やしものだから、今回は発売当日に、しかも朝一番で赴いたのだった。
 レジは私が一番だった。するとすぐにカネゴン・モノクロ3個とST1個を手にした彼がならんだ。顔を見合わせたがことばを交わすことはなかった。
 3個のうちの2個は友だちにでも頼まれたのだろうか? それともさっそくヤフ・オクにでも出品するのだろうか?ならばこういう手合は「転売業者」として、コレクターからは蔑まれているのである。
 開店前の数十分、私は彼の警戒と敬遠をこめた視線に嫌悪感をおぼえた。それはきっと、私が軽蔑してやまないバーゲンセールに殺到する衆愚の視線を髣髴するものだったからだろう。

(写真解説)
 カネゴン・ST(RIC/X-PLUS)。定価2299円。全高約23センチ。カネゴンは先に「空想特撮シリーズ」としてメディコムトイから。またビリケン商会からは彩色済みキットとして発売されているが、私はこのカネゴンがもっとも気に入った。

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