第52話    2004.07.15


『カネゴン』―ウルトラ怪獣解剖図鑑―

 6月末に上記の「ウルトラ怪獣解剖図鑑(バンダイ)」が発売された。カネゴンのほかに「バルタン星人」「エレキング」の3種。価格は500円。ブラインド・ボックスではないので、ババをつかんで自己嫌悪に陥る心配がない。出れば買おうとコンビニなんぞをのぞいたが、一向に姿を現さなかった。
 いささか心配になり、酒屋の若旦那で、ウルトラマンと仮面ライダーと戦隊モノに命をささげる若い友人に問い合わせたところ「すみや」にあるという。
「すみやって、レコード店(なんとも古めかしい言い方だが)のすみや?」
「そうです。こいつは食玩じゃないのでコンビニでは扱わないんじゃないですか? バルタン星人なら余計にありますから譲りますよ」と、若い友人。
 私はカネゴン一個が欲しかったので、その日の午後にクルマを走らせ、函南町のすみやへ行き、お目当てのブツを捕獲。最後の一個だったのでちょっと肝を冷やした。
 HMVでもそうだが、今日のレコード店はレコード(CD)だけでなく、ビデオやDVD、雑誌、食玩なども販売している。またすみやではビデオ等のレンタルも行っていた。私は目から鱗の感に打たれた。
 カネゴンはウルトラQ・第15話「カネゴンの繭」に登場した人気怪獣。付属のミニブックによると「お金好きな少年、加根田金男が、不思議な繭に呑み込まれて変身した姿で、頭は金入れ、身体は火星人、口は財布のジッパー。全体に垢光りし、尻尾にはギザギザがついている。お金を食べないと死んでしまい、身長2メートル、体重200キロ」とある。
 カネゴンの体色(茶色)は垢の堆積であったかと、私は合点した。
 カネゴンが放映された1966年(昭和41年)、私がピカピカの小学一年生当時、1958年から始った「岩戸景気」に池田内閣による「所得倍増計画」が追い風となり、さらには64年に開催された東京オリンピックの建設ブームに乗り、戦後最長の好景気「いざなぎ景気」を迎えていた。
 カラーテレビ、クーラー、カー(自家用車)が「新三種の神器」と呼ばれ普及した。とはいえ、私の家では箪笥と見紛うほどのカラーテレビがあるきりだったが……。
 そのカラーテレビで私は「サンダーバード」を見たものの、あのマリオネットの動きに馴染めなかった。昨年からNHKで再放送が始まったが、やはり、あのマリオネットのなんとも不気味な動きに馴染めず、何度かテレビをつけては途中でチャンネルをかえていた。
 この年には「バットマン」も放映された。私にとってのバットマンはこれに尽きており、近所のガキがそのバットマン・カーのミニカーを持っていたのを今も忘れない。いつか手にしたいとときどきヤフ・オクをのぞくけれど、未だ再会は果たされていない。
 当時の物価を見ると喫茶店のコーヒーが一杯77円。映画館の入場料は大人500円で子供は250円だった。私が親から貰ったお年玉は500円で、近所は100円。大家さんだけが200円くれたので今でも道で会えば挨拶を忘れない。
 ガソリンはレギュラー1リットルが51円。ところが、付属のミニブックによるとアイスクリームは150円とある。 いったいどんなアイスクリームなのか? 私は5円のあずきのアイスキャンディーを知っている。万引きしてつかまり、喰いかけを投げ捨てた森永の棒付のアイスは10円だった。心底うまいと思ったやはり森永の「バニラエイト」は100円だったと記憶している。無論、私の小遣いで買える代物ではなく、年に何度か年長の中学生の相伴にあずかったのである。
 彼は「エー坊」と呼ばれ、祖父母は日光で旅館を営み、両親は竹笛を売る香具師だった。中学を出ると東京は四谷の料亭に板前修業として入り、何年かは帰省の折に会ったけれど、その後の行方は杳として知れない。父親の葬儀にも顔を見せず、あるいはコンクリート詰めにされ、海の底に沈んでいるのかもしれない。そんな危ない橋を渡るようになったと、風の便りに聞いていた。
 私にとってカネゴンは、こうした当時を見開く鍵のひとつである。

(写真解説)
 ウルトラ怪獣解剖図鑑「カネゴン」全高約10.5センチ。これは大伴昌司の怪獣解剖図を開田祐治のイラストで再現し、それをもとにフンギュア化したものである。「かつて大伴昌司の名は、子供にとって神の名に等しかった。その著『怪獣大図鑑』は、浩宮さま(現皇太子殿下)が書店で買われた最初の本として名高い」と、荒俣宏著『奇っ怪紳士録』収録の「ウルトラの父」にある。

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