第6話  2003.03.22


『サイレンス・ラヴァー』―2003冬・ワンフェス―

 2月23日東京ビッグサイト東4,5,6ホールに於いてワンダーフェスティバル、通称「ワンフェス」が開催された。入場者数3万有余人、出展数1400以上。同様の催事では日本最大の規模を誇る。
 手許に210ページにおよぶそのガイドブックがある。パラパラとめくって目に付くのはボインちゃんの美少女フィギュア(モデルはアニメのキャラクター)。春画に描かれる性器の誇大に似て作者の飛躍と憧憬が感じられる。乳首を造りこむ造形師の真摯を想うと微笑がこぼれるし、性器の皺を丹念に彫りこむ横顔には解剖学者の写実を想う。
 春画はかつておひいさまの輿入れ道具にしのばされたものでもあった。が、ボインちゃんの美少女フィギュアはけして交わらない。また、けして交わってはならないし、交わりこそが唯一のタブーだし、交わりを許されるのはその所有者唯一人である。
 ポルノ・フィギュアかエロス・フィギュアか?
「ポルノは閉じられた社会の産物で、タブーを犯す快感を目的につくられたもの。エロスは開かれた社会にあって、表現の自由の下でつくられたもの」と、スウェーデン革命的政府の民はいう。
 つまり、猥褻(ポルノ)と芸術(エロス)の違いは、時の体制や風潮によって右往左往するというのだ。
 ならば、ボインちゃんの美少女フィギュアはどうか?
 昨年五月、場所はニューヨーク。マルチ・アーティスト村上隆氏の等身大美少女フィギュアが約5500万円で落札された。開かれた社会にあっては、オタクのセックス観をあらわにしたような超ボインのHIROPONちゃんも、エロスとして認知される。
 一方、ワンフェス会場で目撃された大股開きのボインちゃんは、同好の士のうだるような沈黙にさらされていた。
その眼にはポルノでもありエロスでもあり、なによりラヴァー(恋人)ではなかったか。
 彼等は徹夜もいとわずに、美少女との恋を求めてやってきた。彼等にとってワンフェス会場は、物言わぬ恋人との出逢いの場である。彼等は愛らしくも悩ましい美少女フィギュアを前にして、ひとり人生の不条理を語り、ひとり世間の無理解を嘆き、ひとりこの恋の成就をささやきつつ射精の後のまどろみに沈む。変態である。
  私も然り。が、相手はボインちゃんの美少女フィギュアではなく、少年の日に映し出された特撮やアニメのヒーローたちだ。だから、彼等のように手相撲に励み、汚れたちり紙をトイレに流す虚しさを噛みしめることはない。たぶん、私と彼等の違いはその点だろう。
 私も含め、彼等は養老猛氏(解剖学者)のいう「脳化人間」である。これは彼等に限らず、肉体を忘れつつある現代人、殊に都市生活者の特徴であり、マニアはその傾向がはなはだしい。人間嫌いとでもいおうか。

(写真解説)
 ワンフェス会場限定で販売された「ワンダちゃんひなあられ」のオマケ、ワンダちゃん&リセットちゃん。彩色版2種とクリアー版1種。他に黒髪のシークレット。クリアー版の衣装を着せるとご覧のようになる。「こうするとオモチロイよ」と、海洋堂がいった。

 

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