第74話    2005.06.20


『がんばれニッポン!』―坂本龍馬&西郷隆盛―

 6月8日、我等がイレブンは北朝鮮を2−0で降し、8月の最終戦を待たずして3大会連続のワールドカップ出場を決めた。
 この勢いを駆ってイランを叩き、アジアのチャンピオンとして来年6月のドイツ大会へ乗り込んでもらいたい。
 健闘むなしく敗れた北朝鮮選手およびその関係者は「炭坑送り」になるという。かつてのソ連邦や共産諸国がそうであったように、独裁国家にとってスポーツは政治であり、その最大の発露であるところの戦争である。つまり彼等は戦犯として自国の指導者に裁かれ、哀れ過酷な懲役を強いられるのであった。
 このような国が未だ存在していることは、現代の奇観というよりない。かの地に囚われの身となっている拉致被害者を想うと怒りで身がふるえるし、この国家犯罪の裁きには相応の流血を覚悟しなければとも思う。
 A代表の試合の日は客足が落ちる。対北朝鮮戦もそうだった。ならばいっそ試合の間は客が来ないほうがいいと思うけれどもそうはいかず、男女二組の客があった。
 一組はまったく興味なし。もう一組は東京から来たという若者で、こちらはサッカーファンということだったが、こんな大事な日にいちゃいちゃと旅行なんぞしていてよかったのか?
   私はサッカーファンではない。だからJリーグの試合は観ないし、サッカーという競技にもさしたる興味はない。ただただ競技場が青色に染まり、君が代がこだまし、日の丸が打ち振られ、ニッポン・コールにつつまれる試合に熱狂するのみである。つまり、私はニッポンの大ファンであり、4年に一度のワールドカップでの活躍を期待する者である。
 昨夜、コンフェデレーションズカップ・日本対メキシコの試合が放映された。残念ながら我等がニッポンは2−1で敗れたけれど、私はこれをワールドカップに向けた強化試合と見做しているので、敗戦の悔しさで眠られなくなるということはなかった。
 私はメキシコオリンピック銅メダルをよろこび、釜本は王・長嶋にならぶヒーローで、テレビアニメ「熱き血のイレブン」をたのしみにしていた世代だけれど、敢えて申せば、日本サッカーの幕開けは93年のJリーグ発足である。その開幕戦となったベルディー対マリノスの試合を私はテレビ観戦した。
 マリノスが勝った。否、カズやラモスといったスター選手(という言い方はこの時点では相応しくあるまい)をそろえた王者ベルディーが負けた。
 痛快であった。この心理はきっと、この世の春を謳歌していた時分のアンチ・ジャイアンツに通じ、反骨、復讐、へそ曲がりといったものであろう。
 Jリーグにジャイアンツのようなチームが存在しないのは、ナベツネこと渡辺恒雄のような人物が存在しないからで、またそういう人物の存在を許さないJリーグの姿勢にある。ナベツネとは井の中の蛙の謂である。
 ナベツネにとっての大事はジャイアンツであって、日本プロ野球界でない。これは金正日にとっての大事が己一個の王朝であって、北朝鮮人民でないのと同様である。
 今シーズンのジャイアンツはボロボロだ。すると退席したナベツネが性懲りもなく復活した。ジャイアンツは挽回するかもしれない。とすれば、それはますますのファン離れと引換えにである。
 サッカーがそうであるように、野球もプロとプロとが己の名声と国の名誉を賭けてまみえる国際舞台を設け、能力を磨かなければいけない。イチローや松井の活躍は、野球少年の目標にこそなれ日本プロ野球界の発展とはならない。むしろ、彼等が活躍すればするほど日本プロ野球界は衰退していく。
 日本プロ野球界は最早、やれドラフトの見直しだ、やれセ・パ交流戦だといった国内問題では解決できないところに至っている。私の父の世代の熱狂を再び取り戻したいのであれば、サッカーを見習い、大規模な国際試合の開催に漕ぎ着けなければならない。
 それは、とりもなおさず戦争、火器を持たない戦争にほかならない。

(写真解説)
 幕末維新・其の一「左・西郷隆盛、右・坂本龍馬」全高約9センチ(キューブ)。ご存知明治維新の立役者。維新とは、物事が改まり新しくなるの謂。以前、大前研一の主宰する平成維新の会とやらがあったが、あれは単にお調子者の戯事であったか。

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