イギリス料理といえば、おいしくないというのは、もはや定説。たまに異論を唱える方もいますが、ごく限定されたメニュー、または店でおいしいものを食べた、という話が多いようです。

私は基本的に、無条件でイギリスの全てが大好きなのですが、それでも時として、「こりゃあ、まるで罰ゲームだよ…」と思わずにはいられない食べ物に遭遇する事があります。
そんな私の実体験から見えた「イギリス食文化」を思いつくまま。
とにかく、野菜のボイルは、形がなくなるまで茹で続けるのがイギリス流。
茹で汁の中に、栄養なんて全部出ちゃっているんじゃないかと思うんですが、そんなことおかまいなし。料理に時間や手間をかけることを嫌うわりには、茹で時間は無駄に多いんですよね。
Sussexの牧師さん宅に泊まったときのこと。その家の娘さんに、夕食前の散歩に誘われたとき、台所ではブロッコリーを茹でていて、その時すでに茹で汁はキレイな緑色になっていたのですが、一時間半ほど歩いて帰ってきたら、なんと、まだそのまま鍋は火にかかっていました。
皿に盛られたブロッコリーの残骸は、スプーンですくって食べる事に…
◆じっくり煮なくちゃ気がすまない

ステーキ、私は断然ウェルダンが好き。でも、イギリスではちょっとやりすぎ。
ウェルダンをずーっと遠くまで通り過ぎ、乾し肉みたいのが出てくる事があります。
これが、お呼ばれのときに特に多いのが、泣きたくなるところ。
お客さまという事で、はりきって牛肉のステーキ、それを、またご丁寧に、時間をかけてじっくりじっくり焼いてくれるんですね。
こちらも、せっかくのご馳走だから、どんな味でも食べなきゃという気合でいるのですが、なにせ乾し肉だから、噛み切れない!最初の一口ぶんをナイフで切り、口に入れた後、他の人たちの皿が空になるまで飲み込めなかったときには、まだ口に最初の肉片を残しながら、
「すみません、今日は食欲無くって…」などと、もごもご口ごもるのがせいいっぱいです。
あの肉、どうやって皆噛み切っているんでしょう。

◆肉だってじっくり焼く

イギリスの主食はジャガイモ。茹でたり(原型をとどめないまで)、オーブンで焼いたり、揚げたり、(一般家庭では、冷凍ものが主流ですが)時にはマッシュされたり。
それが、サラダとかフィッシュフィンガーなどと一緒に皿に並ぶのですが、たまに驚くのがクリスプスが夕食時に皿に乗る事です。クリスプとは、日本でいうポテトチップス。
フォークでクリスプを刺そうとすると、カサカサと乾いた音がして、物悲しい気分になります。
友人は、作ってもらったサンドウィッチにクリスプが挟まっていたそうですから、日本よりも地位が高いんでしょうね。ちなみに、サンドウィッチの具人気ナンバー1は、きゅうり。(地味)

◆ジャガイモバリエ


イギリス人は、あまり賞味期限にかまわない気がします。
一人暮らしの中年女性の家に下宿していたときのこと。彼女はイギリス人特有の吝嗇さで、しょっちゅう冷蔵庫に古いものを溜め込んでいました。
開封済みのヨーグルトを勧められたとき、こっそり賞味期限を確かめると、一週間も前。中を見てみると、チーズ状に固まっています。
「ヨーグルトは食べたことなくって」と、苦しい言い訳でその場は逃れたのですが、そのさらに2日後、私は見てしまった、彼女がそのヨーグルトをスープに混ぜ込んでいるところを…
鍋に落ちるヨーグルトは、トロリ、ではなくて、ゴロリと、固まって鍋に入りました。
そのスープを一緒に食べたところを見ると、別段私に毒を盛ろうという意図があったとは思えないのですが、その後数日、私は下痢に悩まされました。彼女は平気でしたが。
免疫できてるんでしょうね、きっと。

◆食べ物もアンティークが好き?


一点豪華主義とでも言うのか、イギリスでは一日一食「まともな」食事をすれば、それで満足といった雰囲気があります。
それが、平日なら夕食が比較的ボリュームのあるものになるのでいいのですが、辛いのはお休みの日。
昼食に、チキンなんか切り分けて食べた日には、もう明日の朝まで食いだめする覚悟でいないとなりません。夕食がクラッカー2枚で終了!なんてことが当たり前ですから。
夕方になると、おなかがすいて胃が気持ち悪くなってくるのですが、少しでも腹を膨らまそうと、紅茶を飲み続けます。
そうすると、カフェインで、ますます気持ちが悪く…

◆Sunday Lunch


あんなに「食」に無頓着なイギリス人ですが、さすがに紅茶に関してはこだわりがあるようです。個人個人でも好きな銘柄がはっきりしていて、人によってはメーカーも御用達があったりします。
お湯は、絶対沸騰直後、Strong Teaがお好みの方はじっくりむらして、そうでない人は早めに切り上げ、ミルクはMilk in before派と、After派に分かれるようですが、そのミルクの量にもこだわる人が多く見られます。
Somersetの家で、のんびりとミルクティーを飲んでいたとき、ホストファーザーが突然ソファーから飛び上がって、私のティーカップを指差し、声をあげました。
「そ、その紅茶、いつから飲んでるんだあ〜!冷えた紅茶なんて飲むなあ〜!」

彼は、そう言うなり部屋を飛び出し、私のために熱い紅茶をいれなおしてくれました。
ホストファーザーが取り乱した姿を見たのは、後にも先にも、その時だけ。

◆紅茶へのこだわり

日本から送られてきて嬉しかったのは、本や雑誌。それに次ぐのがカップヌードルです。イギリスでは、ポットヌードルと呼んでいます。
せっかく手に入った日本の味、ちゃんと味がついている貴重な食材なので、きっちり堪能したいのですが、これがイギリス人と一緒だと、なかなかうまくいかない。
お湯をさして3分だよと何度も言うのですが、どうもその3分、じっと黙って待ってるのが苦痛らしく、必ず何かをし始めてしまうのです。お湯をさしてから、庭仕事に出られたときには倒れそうになりました。
3分経って、すぐに呼び行っても「ここの草だけとっちゃったらすぐ行くわ」なんて返事で、その後長靴を脱いだり手を洗ったりで、あっという間に時間は過ぎていきます。
かくして、汁を吸い尽くし、きしめんみたいになったラーメンを、泣く泣く口に運ぶ羽目になるのです。その食感の気持ち悪さと言ったら。
でもありがたいことに彼らは「日本のポットヌードルはおいしいわね〜」なんて、喜んで食べてくれました。

◆ポットヌードル

クリスマスが近づくと、一年前から仕込み済みの真っ黒なクリスマスプディングをはじめ、さまざまなケーキが店頭に並び始めます。日本では考えられないようなショッキングな色合いのものも多く、(青いケーキなんて食べたいですか?)種類は豊富なのですが、食べてみると、どれも日本のものに比べてガサツな味のような気がします。
日本のように、甘さを抑えた大人の味なんて受け入れられないようで、「ケーキなんだから、とにかく甘けりゃいいんだろ!」とでも主張しているような、ディテールのまったくない、ストレートな砂糖味。
いやいや、それだけならまだガマンできるのです。本当に大変なのは、市販のケーキに一工夫されて出されるとき。
イギリスでは、家庭でケーキのデコレートをするとき、生クリームよりもアイシングを使うことが多いようなのです。アイシングとは、砂糖を練って卵白などを混ぜ、ペースト状にしたもの。
ペースト状になっていても、砂糖は砂糖。それを、イヤになるほど甘いケーキの上に、これまたイヤになるほどたっぷりと塗りつけるのです。その厚さ、1cm。
これをご家庭のお母さんたちは「私がこの飾り付けをしたのよ!」と、実に誇らしげにテーブルの上に置くのです。

ええ、私だって頑張りましたとも。紅茶をガブガブ飲みながら、笑顔を心がけ、一生懸命食べました。
でもですね、本当に、おかわりだけは出来なかったのです。他の家族はおかわりしてました。
これは、お母さんを思う家族愛なのか、本当においしいと思って食べていたのか、リサーチは出来なかった話です。

◆アイシング

Something About England

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