私がイギリスのことを人に話すとき、「なんかコワイ」と言われる事があります。
思い入れが強すぎて、言いたいことが山ほどあるのに、その100分の一も表現できなくて、
でも、どれだけイギリスの事が好きなのか判って欲しくて、だけどうまく言えなくて…
と、喋りながら、もうワケわからなくなっちゃうんですね。
相手の表情を見て、あっ、わかってくれてないと思うと、
自分の表現力のなさがくやしくて、目が潤んできてしまうほど。

このHPでは、イギリスで見つけた「もの」についての内容が殆どですが、
本当に私が宝物だと思うのは、イギリスで出会った人たちとの会話や、ふれあいの思い出。
…なのですが、これを書いている今も、もう定石どおりの陳腐な表現しか出来ない自分に
がっかりしています。
けして、感傷的になりたいわけではないのですけれど。


たとえば、Somersetでの出来事。
Somersetは、そのカウンティー自体都会とは言えない場所なのですが、
私のステイしていた所は草原の中にぽつぽつと家が見えるような場所でした。
だから、ちょっと買い物に出かけようと思うと、地元の人に頼ることになります。
いつ来るか判らないものの、行きのバスは終点がまちなかなので、まず安心。
問題は帰りのバスなのですが、これが延々と続く草原の中のバス停で降りる事になるので、
何度行ってもどこで降りるのか判らないのです。
日本のようなアナウンスはありません。

そんなわけで、バスに乗り込むとすぐに、そばの席の人に「ピカデリー(地元のバス停)についたら
知らせていただけませんか?」と頼むのですが、
どの人に頼んでも、本当に気持ちよく請け負ってもらえます。

その日も、後ろのおばあさん二人組みにお願いして、一安心していたのですが、
おばあさん達は、とても重要な任務を背負っているかのように、ずいぶん力が入ってしまったらしく、
バス停を一つ通るたびに、二人がかりで私の両肩をがっしりつかみ、
「大丈夫よ、まかせておいて!」と勢いよく頷いて見せてくれました。

その姿に、通路を挟んだ席のおじさんが、「なになに、どこで降りるの」と身を乗り出し、
今度は彼の奥さんと思しき女性に「ピカデリーで降りたいんだってさ」と話しかけ、
奥さんはさらに後ろの席の人につつかれて、「ピカデリーで降りたいんですって」と、
まるで伝言ゲームのように話はバス中に広がっていきました。

これだけ話が広まれば、運転手さんに聞こえないはずはありません。
かくして、目的のピカデリーに着いたときにはバスのあちこちから、
「ここで止まって!ピカデリーで止まって!」「ここよー!」「日本人の子が降りたいの!」
と、何人もの声があがり、同時に運転手さんも「ピカデリー到着!!」と大声で知らせてくれるのです。

もう誰にお礼を言えば判らない状態で、昇降口で振り返り「ありがとう!」と
言って降りると、見上げた窓から、皆ニコニコしながら私に手をふって見送ってくれました。


Londonでは、大きなスーツケースを運んでいると、必ず誰かが声をかけてくれました。
とりわけ地下から階段を上るときには、体中にピアスやらチェーンやらじゃらじゃらの
パンクヘアーの男性や、こちらが逆に手伝ってあげたくなるような、たどたどしい歩きのおじいさんまで、
みんな「手伝おうか」と一言かけてくれるのです。


住宅街を歩いていると、庭仕事をしている人が「おはよう!今日は晴れるってね」と
声をかけてくれ、ごみ収集トラックのおじさんが、踊りながら「どこからきたの〜?」と歌いかけ?てくれました。


イギリスの子供は、よく「誉める」ことをすることにも感心しきりでした。
服装に関しては、まっさきに気がついて「その指輪きれいね」「キレイな色の服」
などから始まって、私の髪をさわりながら、「ステキ!とっても硬くてブラシみたい!」
……いや、ホントに誉め言葉なんです。

Somersetの草原に子供達が頭を寄せ合って、
「黒くてツヤツヤしてて宝石みたい!」「かわいいね」「つるつるしてて気持ちいい!」と
また何かを誉めていました。
覗き込んで「何見てるの?」と尋ねると、
「コックローチ!」
そして、それをご親切にも私の手に乗せてくれようとまでして…


イギリス人の、気さくなユーモアセンスも大好きです。
駅の荷物預かり所にスーツケースを取りに行った時、係のおじさんがため息をつき、
「いいニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちが聞きたい?」と尋ねて来るのです。
何事かと思って、「えっ、じゃあいいニュースから…」と言うと、彼は
「いいニュースは、君はここでボクと出会えたってことさ。悪いニュースは、
君はもう荷物を受け取ってここを去ってしまうってこと」と、ニヤリとしながら答えました。



こんなちいさなエピソードが、数え切れないほどあります。


どれも、些細な出来事です。
確かに、当事者以外には、つまらない話でしかないかもしれません。





それでも、私はそんな日常が楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。

















Love Letter to England

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