日本でも、最近「ISSUE」をホームレスの人たちに配り、自主的に収入を得る機会を作ろうという試みが、一部地域で始まったそうです。まだ実験段階のようですけれど。

Londonの街中を歩くと、必ず建物の影に身を寄せている、住むところが無い人たちに出会います。
不思議と、犬を連れて毛布に包まっている人が多い。
どういうわけか、こぎれいな彼女がぴったり寄り添っている若者もいます。
ISSUEを配る人もそれぞれ、まるで号外でも配っているような勢いのある人もいれば、人から隠れるようにしゃがみこみ、ごく近くを通った人だけに、ささやくように「ISSUEいりませんか」と言う人も。

私は、あまり若いホームレスには寄付をしたいとは思いません。年をとった女性や、子連れで、本当に貧困にあえいでいる様相の人にしか寄付しません。
イギリスの失業率の高さは知っていますが、それでも、若い男性が人からの施しだけで生きていこうという姿勢には、どうしても納得がいかないからです。

ですが、何年か前に出会い、ずっと心にひっかかっている青年のホームレスが一人います。彼は、人が集まるCovent Gardenから少し外れた、Neal's Yardのごく細い通路に座り込んでいました。

私はNeal's Yardのアロマセラピーのお店が大好きだったので、その旅行中も何度かその通路を通ったのですが、そのたびに彼は「小銭ありませんか」と消え入りそうな声で聞いてきました。
本当に、狭い通路なので、私は彼のすぐ目の前を通るわけですが、いくら若者のホームレスだといっても、その前を当然のように無視していくのは気が引ける。そんなわけで、きわめて日本的な動作ですが、軽く頭を下げて、目を合わせない会釈のような感じで足早に通り過ぎるのです。

そんなふうに、逃げるように立ち去る私に、彼は必ず「Sorry」と言いました。
その、「Sorry」を聞くたびに、もう心が締め付けられるようになるのです。
いったい、なんに対しての謝罪なのか。施しもせず立ち去る私には悪態こそついて不思議はないのに、なぜすみませんとつぶやくのか、まったくわからない。わからないのだけど、無性に辛かったのです。

それは、今になって思えば、彼のいくばくかのプライドだったのかもしれないし、自分への嫌悪だったのかもしれない、人にものを乞う事への、寂莫感だったのかもしれません。

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