『冷たく暖かい雨』
司:「(ブゥゥ・・・・バシャッ)」車が水溜りを跳ね上げ、まともに被る
魁:「司君、どうしたんだい?」>通りすがったずぶ濡れの司君を見て
魁:「ほら、傘・・・」司君を傘に入れる
司:「……(ずぶ濡れで魁さんを見る)」
司:「……どうしたんですか、こんな雨の日に」
魁:「それはこっちの台詞だよ。こんな雨の中で傘も差さないでさ」
魁:「ともかく、どこか温まれるところ・・・お寺の風呂にでも」
司:「…大丈夫です」
魁:「大丈夫じゃないよ、このままじゃ風邪を引く」
司:「……大丈夫、ですから」傘から出ようとする
魁:「まったく、何があったか知らないけど見過ごすことはできないよ」腕を掴みつつ
司:「……離してくださいっ!!」ぱん、と手を跳ね除ける
魁:「せめて、事情だけでも話してくれないか? 人にはなすことで楽になれることもあると思う」無理に掴もうとせずに淡々と
司:「……」
司:「(ふと、街路樹に目をやり)…散っちゃいましたね、桜(ぼそ)」
魁:「あ? あぁ、そうだね・・・」同じく目をやって
司:「綺麗な花ほど、散るのが早いんですね」
魁:「・・・」無言で言葉を待つ
司:「散っちゃったんですよ・・・目の前で。みんなの目の前で」
魁:「そうか・・・」何かを悟ったかのように
司: スッ、と頬をこぼれる一筋の光。でもすぐに雨と混じる
薫:「────司さん」
司:「……薫くん」
司:「……どうしたの、こんな、雨の日に」
薫:「少し、気になりまして…。────花は、咲くために生まれて来ます」
魁:「そうだね、今は散っていても来年はまた美しい花が咲く」
司:「……」
薫:「鬼隆先輩と居る時の鈴鹿さんは、確かに咲き誇って居ました。────花は、枯れても又、咲くんです。」
司:「散る為に咲いて、咲いてはまた散る・・・・・悲しいね、なんだか」
薫:「そうですか?…僕は素晴らしいと思いますよ。踏みつけられても、泥にまみれても、何度でも咲くんです。────咲こうとする限り」
司:「……和哉は・・・・和哉は・・・・待つのかな・・・・鈴鹿さんが『また咲く』のを」
薫:「…ええ。待つでしょう、鈴鹿さんの土となり、太陽となってね。……司さん、貴方は、枯れたままで良いんですか?」
魁:「太陽と土・・・鬼隆君を良く表してる表現だと思う。だったら、君はそれを潤す雨になるといい」
司:「雨・・・・・・」それを見上げる
魁:「俺には、鬼隆君にかけられる言葉はない。でも、君には、いや君にしか出来ないことがあるんじゃないか?」
司:「僕は・・・・」
魁:「しみ込むように、一緒にいて、一緒に泣いて、一緒に苦しんで・・・そして一緒に笑うこと それが、君が鬼隆君にして上げられる一番のことじゃないかな?」
司:「僕が一緒にいてもいいんですか。彼女を救えなかった僕が・・・?」振り返る。その顔は雨と涙に濡れて
魁:「だから、だよ。同じ苦しみを知る君だからこそ、分かち合えるんじゃないか」もう傘は投げ捨てて共に雨に濡れつつ
薫:「居てあげなくては駄目なんです。犯した過ちは、償わなくてはなりません。」
魁:「苦しみは分かち合い、喜びは倍にして・・・それが、本当の友人だろう?」
司:「本当の・・・・友達」
魁:「君が、支えにならないと・・・本当に苦しいのは、鬼隆君だろうから」濡れながら、黙って見送る
薫:「共に、歩いて行けば良いじゃないですか………貴方達には、それが出来ます。」
司:「……(再び歩みを進める)」
司:「(立ち止まり)魁さん、薫くんありがとう…」そういうと、雨の町に消えていく
薫:「……………親友、ですか」空を見上げ、ぽつりと
魁:「あぁ・・・いいもんだな」後姿を見送りながら
薫:「…さぁ?大切な物程、失う時には辛いものですよ。────戻って来れなくなるくらい、ね。」
魁:「あぁ、そうだな。・・・俺も、覚悟はしておこう」そう言うと、振り向かずにその場を去る
薫:「────戻るべき、場所、か………」雨に打たれながら、ゆっくりとした足取りで立ち去る
黒く厚い雲の張った空は只、大粒の雨を降らせ続ける─
しかし今は、乾いた心にしみ込むような、そんな優しい雨に変わっていた――
どんな雨もいつかは止む。雲が流れ、再び空が顔を出したときには、今度は――
「人と妖怪と……想いを抱く全てのものは悩み、苦しみながら歩いていく。その先に更なる苦難が待ち受けていようとも……我らは、生きていくしかないのだ」