VOL. 24 
● さらばフルパワー車

 各メーカーから2009年モデルが発表されました。その中でも相変わらず1000ccスーパースポーツ車はプロダクションレースのベース車として、そして各メーカーの技術の粋を集めたフラッグシップスポーツとしてクラス最軽量・最高出力の覇権争いを繰り広げています。最高出力は180PSを超え、乾燥重量も170Kgを切るところまで来ました。750ccスーパーバイク時代のワークスマシン並みの性能が誰でも150万円程で手に入れられる凄い時代になっています。
 そんな中で国産メーカーの2009年モデルから、海外メーカーの一部は2008年モデルからある種の動きがありました。それはいわゆるフルパワー車の国内導入が各メーカー(正確にはメーカー系の正規インポーター)とも行わないと発表している事です。これは年々、厳しくなる排出ガス規制と騒音規制を受けてフルパワー車はこれらの規制をクリアできない事による措置だそうです。規制を先取りしてKTM社から発表されたRC-8の国内車は155PS→98PSにデチューンされています。現在、このクラスで唯一国内仕様を販売しているホンダCBR1000RRは178PS→118PSとデチューンされています。これらは排ガス規制よりも騒音規制をクリアする為の対策が効いています。ホンダCBR1000RRを例にとると、チェーンはOリングタイプ、吸気入口及び排気出口を絞り、エンジンは軽金属製ミッションケースカバーの上に更に樹脂製カバーで2重構造にするなど徹底的に遮音対策を施しています。本来、無駄な物を極力取り除いてコンパクト・計量化を図りたいこのクラスにあって、余分な部品を取り付けるスペースの確保や重量増は絶対に避けたい行為です。しかしここまで行わないとクリアできない程、厳しい規制なのです。
 ここでホンダ以外のメーカーからも逆輸入車導入が困難であれば国内仕様の導入を期待したいのですが、先に書いたように元々ミリ・グラム単位で無駄を省いて設計された車両には遮音部品を取り付けるスペースがなくて苦労しているそうです。ホンダは最初から国内仕様車を設定していたので、こちらを先に開発してそこから国内仕様部品を取り除いて海外仕様(いわゆるフルパワー車)を設計したと思われるフシがあります。しかし海外仕様では180PSを誇るエンジンも国内では120PSそこそこ、600ccフルパワー車と同等になってしまいます。600ccのフルパワー車も1000ccよりもエンジン回転数が高いだけに近いうちにパワーダウンを余議なくされるでしょう。これでは今までフルパワー車に乗ってきたユーザーを納得・満足させる事はできません。
 排ガス規制はバイクメーカーやJMCAをはじめとした業界団体やマフラーメーカーの努力や技術の進歩で、パワーを維持したまま規制をクリアする事ができるそうです。しかし新騒音規制は現在、ヨーロッパやアメリカで法に則って販売されている輸入車や逆輸入車までが違法となり、日本では購入できなくなる可能性があります。日本と欧米の騒音基準は現状でもかなり異なっていて現行の規制なら販売できる輸入車でも、新規制が導入された途端に違法になってしまいます。現在、160PSを誇るドゥカティの1098Sも2009年モデルから100PS程にデチューンされるかもしれません。(1098Rは既に98PS化されていて付属のサーキットパーツで180psを発揮するようになっています)Apriliaから発表された新型RSV4も同様です。もしかしたら国内導入そのものが難しいかもしれません。オートバイは車と違いエンジンが剥き出しになっており騒音が直に大気中に放たれます。車みたいに全てをカウルで覆う事になってはもはや、オートバイとは言えないし。こうなると最高出力争いとは関係のないネイキッドやツアラー、アメリカンなどに人気がシフトしていくのでしょうか?
 これらは全て一部の違法パーツの取り付けや危険・違法走行を繰り返しているライダー(主には250ccスクーターやモタード系が主)が発端ですが、彼らの自己満足のために多くの健全なライダーが迷惑を被っています。規制すべきは騒音を撒き散らしている一部のライダーであって一律ですべての250cc超のオートバイ(ライダー)が一律で規制される問題ではありません。日中、深夜を問わずとんでもない爆音とともに走りぬけていくバイクやライダーは、社会状況に適合しようとか人に迷惑をかけるのはまずいとか、一切思っていないメーカーが作り、そう思っていない人が使っているモノなのです。警察庁はそういう人達には車検制度が無い事を理由に目をつぶり取締りをせず、法律という伝家の宝刀でバイク業界に足枷を嵌めようとしています。
 グローバルスタンダードの時代を迎え、4輪車は自主規制撤廃で国際競争力を手に入れたのにバイク業界には冬の時代が目前まで迫っています。販売台数うが望めない海外メーカーからの外圧も期待できないので、フルパワー車を手に入れる事ができるのは今年モデルが最後かな?
 


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