クラリネットの話

7   
 管楽器奏者の「息」の練習は、ヴァイオリン奏者やチェロ奏者のボウイング(弓使い)の練習に当たります。しかしその根本的な違いは息を使うところにあります。自分が吸って吐いた空気が楽器の音色、音楽となって人の耳、心に届くということに、僕はなにか神秘的なものを感じます。
 息をすることは生きる源であり、私たちは感覚の諸機能を失っても生きていられますが、呼吸は絶対に止めることができません。この事実から、管楽器は決定的な意味を持ってくるわけです。この楽器が呼吸に直接結びついているからです。
 しかし、残念なことに管楽器を吹く大部分の人たちはこのたいへん重要な現象に気づいていないのではないでしょうか。
 もちろん、この神秘的な現象を深く知らなくても確かに上手く楽器を吹くことはできますが、音楽的な素質を持った人たちにとって、この呼吸のテクニックを身につけることは非常に有益であり、当然なことだと思います。
 
 僕は生徒に「常にいい音を出しなさい」「体を使って楽器を吹きなさい」とよく注意します。ほとんどの生徒はアンブシュアや指にばかり気をとられて、最も重要な呼吸が疎かになってしまっています。これは一つの考え方だと思うのですが、楽器は道具ではなく、自分の音楽を表現するための手段でなければならないと思います。たまたま自分の楽器がクラリネットであるだけで、根本的な、もっと大切なものはもっと他にあるように感じます。具体的な息の使い方に関しては、『呼吸』で話をしたいと思います。大事なのは「息を使って演奏しているんだ」と自覚することです。それだけでも楽器を吹くということに対して意識が変わってくるはずです。

8    呼吸
 呼吸の問題から開放され、まったく自由に吹いている管楽器奏者はいません。「腹式呼吸」という言葉を聞いたことがあると思います。その呼吸法の基礎となる原則を簡潔に説明したいと思います。練習の手がかりにしてください。
 
<基礎的な原則>
@息を吸う A息を吐く B口腔とアンブシュア
 
 まず、管楽器を吹くために必ず守らなければならないことは、できるだけ自然な姿勢をとることです。体をまっすぐにして、首や胴、胸などの力を抜き、空気を最大限にいっぱい吸えるように肺の動きを楽にしてあげます。「背筋をのばそう」と思うと、どこかに力が入りがちになってしまうので、「腰骨の上のあたりの背骨を前に押し出す」感じがいいと思います(立っているときも座っているときも)。
 
@息を吸う
 管楽器奏者は腹式呼吸をしなければなりません。胸が動かないように(膨らまないように)肺が下に向かって膨らむように空気を入れるようにしましょう。つまり、横隔膜を引き下げることで肺がいっぱいに広がって空気が流れ込むのです。腹式呼吸をするときに、お腹、横腹、背中(腰の上)が動いているか注意してください。
 次に、腹筋のようにしっかりした腹部の力で空気を圧縮するように支えます。息を吸うときは鼻からではなく、口から吸うようにします。このとき舌の状態は口の奥まで平らになっています。喉を発音で言う「オ」の形にして大きく開き、ゆっくり深く息を吸いましょう。この発音は「イ」や「エ」になってはいけません。横隔膜はできる限り低く下げて、凸ではなく凹になるような感じにしましょう。
 
A息を吐く
 ゆっくりと深く肺の底まで息を吸ったら、しばらく息を止め、そのまま空気をためておきます。次に、吸うときと同様に「オ」と発音する要領でゆっくり息を吐きましょう。喉が開いていることと舌が平らになっていることは先に話したとおりです。楽器を吹くときには、暖かい息をたっぷり楽器に入れてあげます。ガラスがくもるような「ハァ〜」という息です。熱いものを冷ますときに使う「フゥー」という息ではありません。この練習を何度もしていくうちに息を吸ってから息を止めなくてもできるようになります。
 正しい体の使い方(呼吸法)ができているときは、声質も違っているはずです。太くて響きのある声が出ます。歌い手さんが使う「ベルカントモード」という発声法なのですが、自分の声質がそのまま楽器の音色に影響してしまうのです。あくびのときの声を思い出してほしいのですが、地声ではないはずです。
 
B口腔とアンブシュア
 口腔は息が楽器に入る前の大切な通り道です。絶えず息が流れていて、しっかりとした圧力で一定に出ているかどうかは息の排出量によって決まってきます。ただし、息の圧力が強すぎないように注意しましょう。
 両唇は横に引きすぎないように軽くマウスピースを包むようにします。下唇はリードのクッションの役目をしていると考えていいでしょう。頬はリラックスさせて、顎の力は抜くようにしましょう。
 詳しいアンブシュアの説明は別項目でしたいと思います。
 
 音を出すために最初にすることは、とにかくロングトーンを練習することしかありません。ロングトーンの練習をしている人はたくさんいると思いますが、重要なのは、以上のことをしっかりと頭に入れてロングトーンをすることです。どの練習でもそうなのですが、その練習にどんな目的があるのかを理解して練習することはとても大切なことです。ただ音をのばしているだけではその意味は半減してしまいます。
 

9    アンブシュア
 両唇は吐いた息が管の中に良く通るためのパイプ役をしています。下唇は張り過ぎないようにして、「適度に」両側に引き、軽く歯の上にかぶせましょう。リードとマウスピースが離れるあたりの位置に下唇がくるようにして、上あごの歯はマウスピースの先端から8mm〜1pくらいの位置にのせ、マウスピースが口の中で動かないように固定します。マウスピースを包んだ両唇は横に引き過ぎないようにして、充分にマウスピースを支えなければなりません。下唇はリードがのっかる柔らかいクッションだと思ってください。
 
 両唇を横に引きすぎてしまうと、リードを圧迫してしまう恐れがあります。その結果、リードの響き、楽器の(音色の)響きを止めてしまう事になります。
 
 アンブシュアを引きすぎないための良い方法を紹介します。楽器からマウスピースだけを抜き取って、マウスピースだけで音を出してみてください。B♭管で高音域のD(レ)の音が出ると思うのですが、次に、アンブシュアを緩めて「オ」「ホ」と発音して息を入れてみましょう。C♯(ド♯)の音が鳴るはずです。
 
 C♯の音が出ているかどうかを聴きながら音程を決めます。これがアンブシュアの基本的な形になります。このアンブシュアなら楽に出るコロンデール(息の柱)を作ることができます。音色を柔らかく響かせることもできます。頬を膨らませてはいけません。また、唇の間から息がもれないように注意しましょう。
 
 それから、マウスピースが当たる上の歯に常に力が加わっているのを感じながら吹くといいと思います。楽器をもっている親指を使って上の歯の裏側にマウスピースをしっかりと押し当てるということです。そうすることによって下唇からリードにかかる圧力を減らすことができます。そのぶんリードが自由に響いてくれます。マウスピースを支える役割のほとんどをアンブシュアの上半分が引き受けるようになると、下唇は単にリードを押し付けるだけではなく、より一層微妙なニュアンスを出すための柔軟性ができてくるのです。下唇に力の余裕を持たせることによって、音色にデリケートな変化をつけたり、微妙な音程のコントロール、自在なピッチの変化などをまじえた演奏も可能になります。
 
 上下の歯(唇)は、できるだけそろった位置にくるようにしてください。そうするためにはあごを前にスライドさせるように押し出さなければならないと思います。こうすることによって、下唇と上唇の位置関係は、前髪を息で「フッ」っと動かせるような形になります。マウスピースをくわえる力をゆるめることによって、あごの力を上のほうではなく前のほうへ押し出すのに使えば音の反応が自由になるでしょう。
 
 以上のことを参考にアンブシュアを作ってください。とにかくリードの振動を妨げないように注意しましょう。息に敏感に反応してくれるようなアンブシュア(リード)が理想です。



BackIndexNext

HOME