かざぐるまのページ [D」

かざぐるまの由来

静岡県の天竜川沿岸は 昔から洪水の多い地方で 毎年起こる大洪水に悩まされ 治水の工事は大変だった。その堤防作りに使われ 長さ2,3メートルの竹網の中に大きな石を入れた 蛇籠が 当時 盛んに作られた。その蛇籠の編み方が かざぐるまに応用されたようである。

 一方 志太郡大井川町藤森地区は 昔 大井川の中洲にあった島で 毎年起こる洪水のため 川守神を祀り「田遊び神事」を奉納した。ここでも 大井川の護岸工事のため 竹の蛇籠が作られていた。また 隣の大洲村では 昔 「竹行李」が盛んに作られた時代があった。これも 竹細工である。

 こうした竹細工の人たちが 子供のために 籠目編みのかざぐるまを作り与えたのである。

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天竜川沿岸の浜北市に住む 松下定男氏は それを伝える貴重な人である。大正4年生まれで 奥様のさださんが(大正7年生まれ) 手伝っている。氏は小学校1年生の頃 実父の椋本妻吉から その作り方を教わったのが かざぐるまとの最初の出会いだった。そして 高等小学校卒業後 浜松市内の雑貨商へ奉公に行ったが 隣が桶屋だったので竹のタガ編みの廃材を貰って練習したという。

 その後 25歳のとき 松下家の養子に迎えられ 農業に従事したが 細工が好きなので独自の手法で 今のかざぐるまを完成させたのである。浜北南幼稚園に通う長女が第1回卒園式を迎えたとき 氏は 卒園児童全員にお祝いとしてかざぐるまをプレゼントしたそうだ。これが縁で 近隣から是非作ってほしいと言われるようになった。

 昭和37年7月発行の日本郷土玩具の会の機関紙「竹とんぼ51号」に 浜松の中村健治氏が「籠の風ぐるま」と題して紹介し 全国から注文が増えてきた。

 かざぐるまを作るのに用いる竹は 最初は真竹を使っていたが その後淡竹(はちく)に変えた。淡竹は中国が原産地で 質が強くて細く割りやすいので 竹細工には適している。

 かざぐるまの作り方は次のとおり・・・

 長さ30数センチの竹を 縦5ミリ幅位に割る。使用する皮の面を厚さ0,4ミリほどになるように剥がす。この竹皮を4本使って籠を編むと 両端合わせて8本の足が出る。この足を八方に広げ その先に四角い和紙を貼って一つ出来上がる。

 松下氏は それを大小サイズの異なったものを 5連にしている。昭和44年7月に皇太子殿下(現天皇陛下)と浩宮親王(現皇太子)が遠州路へお出でになったとき これをお土産に差し上げたのである。 この5連のかざぐるまの足の長さは 大から小へ 8,5 7,5 6,5 5,5 4,5センチで これに 5色の色紙を貼る。大の方から 赤 緑 橙 紫 黄色である。これが 足の長さと色が一番綺麗だと氏は言う。

 因みに 虹の七色は 赤 橙 黄 緑 青 藍 紫・・・。この内 5色を使っているのだ。何故この5色なのか、 かざぐるまが廻るときに 虹を見るような色具合になったのではないかと  思います。おそらく 氏は 風を受けてくるくる回る風車を見て 眼を細めて 童心に還ったのだ。

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 (参考 「郷土玩具職人ばなし」坂本一也著、「ふるさと百話」より郷土玩具について 望月茂氏)

 伊藤桂一著「風車の浜吉捕物綴」(新潮文庫)の主人公浜吉親分が 籠風車を作って売り 生計を立てている。伊藤氏は 前述の松下氏に会って その仕事場を見学したという。そして 著作の中にかざぐるまの作り方まで書いている。この捕物綴は 親分が人情家で 風采が渋くて筋骨が整っている。苦労人なので人情に脆く 法や掟一点張りに物事を考えないのが特徴なのだ。

 かって 浜吉は 法を犯して罪を問われた後 5年の間 諸国を流浪した。当時 江戸で1,2といわれた十手持ちであった彼は 或る時 追い詰めてお縄にしようとした相手から金を貰って見逃したため自分自身が縄をかけられる破目になったのである。それは 女房の長患いと子供の病気が重なって借金が嵩み 魔がさしたのであろう。その後 女房と子供は死んでしまい 空しくなって諸国を流浪し 天竜川の人足になる。そこで 風車を教えてもらったのだ。

 そして 江戸に戻り伝通院の境内で風車を売っていて 子持ちのある女性に会う。昔見たこの風車を 我が子の松太郎にやると聞いた親分は くしくも亡くした子供の名が松太郎だったので ふたりは 互いに親しみを持ち、 小料理屋で働いている このお時という女と一緒になる。このお時には ヤクザがついていて 親分はそいつと大喧嘩をして彼女を救うのだ。 

 私は このかざぐるまに魅せられ 実物を買って来て 籠の作り方を調べたが解からず ついに 松下氏に逢いに行った。平成9年春のことである。松下氏ご夫妻は 初対面の私に 気軽にお話してくれた。それから3回お邪魔をして 籠の編み方を教えてもらったのである

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