sanoの部屋4
CATの番外編です。
氷河ファンとしてはいつかやってみたいネタでした(汗)
蜘蛛の糸
「へえー、コレがそうか…」
星矢は差し出されたジャケットを手に取った。
「そう、グラード財団の繊維研究所が総力を挙げて製造した糸から造ったジャケットがコレだよ」
「スゲー、手触りだって普通のジェケッと変わらねーぜ」
星矢はジャケットの感触を確かめ感嘆の声を上げた。
「仕上がりとしてはシルクと大差ないんじゃあない」
瞬がジャケットに袖を通す星矢を見守った。
「でも、本当にコレが蜘蛛の糸で出来てるのか?」
星矢はジェケッとを脱ぐと改めてジャケットを点検し始めた。
「そう、遺伝子操作した蜘蛛の糸を更に加工して造った糸を織った繊維で造ったんだ。裁断だって普通の鋏じゃあ刃が立たないからダイヤで加工した特別な物をわざわざ造ったんだって」
「それは豪勢だな…」
紫龍の声は半ば呆れていた。
「それはそうさ、コレにはボクたちの命が掛かっているんだからね」
瞬がさも当然とばかりに応じた。
「でも、本当にコレが弾丸を遮るのか」
星矢の手にしている仕立てのよいジャケットを氷河は訝しげに見た。
「理論的にはね…」
そう問われれば瞬にも不安が無いでもない。
C カウンター A アタック T テロリズム
通称 CAT
この一見、愛らしい動物の名を持った組織に今この場にいる紫龍、氷河、瞬、星矢は属していた。星矢たちだけではない、CATに属している者たちは他にもいる、今は亡き前グラード財団総帥がある条件のもとに選び出し、鍛えぬいた者たちが東洋随一を誇るグラード財団の裏組織CATに配属されている。
CATに与えられた使命は一つ、グラード財産に害を及ぼす全ての出来事、団体から財団を護る事。その為なら法律も無視し場合によっては国、軍とも敵対する。故に銃を手にし銃弾に身を晒すことも多々ある。だがCATの存在はその特殊性故に財団中でも極秘中の極秘、その存在は一部の重役にしか知られてはいない。警察ではないから防弾チョッキなど纏っていては行動が制限される。そこで開発が進められていたのがこの特殊繊維により加工された衣服の製造であった。軽く、丈夫で柔軟性もある蜘蛛の糸には各機関が注目し研究をし続けていた。蜘蛛の糸は同じ比重なら絹糸の20分の1の細さで鋼鉄の5倍の強度がある。これを繊維とし衣類として身につけることが出来ればメンバーの負傷及び死亡率はぐっと低くなる。
「理論的にはって、完成じゃあないのか」
星矢が瞬を見た。
「まだ実験段階なんだ、一番に見せようと思って皆には内緒で借りてきちゃったんだ」
瞬が悪戯っぽく笑った。
「そんなコト、沙織さんにバレたら…」
今手にしているジャケットが社内機密と知り星矢の顔色が変わった。思わず現財団総帥の城戸沙織の顔を思い出しジャケットを取り落としていた。
「そう、だから汚さないでよ星矢」
瞬は床に落ちたジャケットを広い埃を払った 。その時扉が開き暇を持て余しパチンコに興じていた一輝が入ってきた。
「試してみよう」
氷河は瞬からジェケッとを取ると一輝に差し出した。
「財団の開発したジャケットだ。着てみろ」
あまりにも自然な氷河の口調と仕草に一輝は差し出されたジャケットを手に取ると袖を通した。
「どこが開発したジャケットだ、普段と何も変わらんぞ」
むしろこちらの方が着心地が良いぐらいだ。
「そうか…」
氷河は頷いた、頷いた時には氷河は手にした拳銃の引き金を引いていた。
乾いた音が紫龍の、瞬の、星矢の耳を叩き衝撃が一輝の胸を叩いた。
「なっ!」
まさかの銃撃に一輝が胸を押さえ呻いた。
「何するの、氷河!」
瞬が氷河の手から拳銃をもぎ取った。
「ジャケットの強度を調べてやったんだ」
氷河が平然と応じた。
「だからまだ実験段階だって言ったでしょう!」
「その実験の手間を省いてやったのだ」
「怪我でもしたらどうするんです、兄さんだって一応は生身の人間なんですからね!」
「大丈夫そうだぞ」
氷河の言葉も終わらないうちに一輝の手が瞬の肩に掛かった、掛かったと思った時には瞬の身体は一輝に押し退けられていた。
「実験とは、どういうコトだ…」
一輝は氷河の襟首を掴み上げた。
「財団の開発したジャケットの強度を、だ」
今日の天気を告げるかのような口調に一輝は肚を立てた。
「キサマ、オレにもしものコトが有ったらどうしてくれる気だった」
「さあな、その時はどうせ死んでいるんだ、お前が気に病むことはあるまい。
氷河は嗤った。
「紫龍…」
罵倒しあう二人を見ながら星矢は紫龍のジャケットを軽く引いた。
「…もしかして、氷河ってまだあのコト…」
「…根に持っていたらしいな…」
星矢の言葉を紫龍が継いだ。
以前、氷河はやも得ない事情でテロリストの人質になったことがあった。その氷河を一輝は爆弾を身体に巻いたテロリストごと撃ち抜いた事があった。
「…オレ、氷河は絶対に怒らせない様にする…」
星矢は過去、氷河にしてきた悪戯を思い浮かべもう手遅れかもと思い、次いでさっき不用意にその実験前のジャケットを羽織った行為に戦慄した。もし、一輝が入ってこなければ実験対象は…そこまで考え星矢は思考を中断した。
「お前は大丈夫」
ジャケットを握る手に無意識に力を込めた星矢に紫龍は声を掛けた、氷河の狂気の照準は一輝にのみ合わされている。
「ちょっと!」
掴み合いを始めた二人の間に瞬が素早く割って入った。
「コレは内緒で借りたモノなんだから汚さないでっていったでしょう!」
汚すどころか傷まで付きかねない行為に瞬は慌てて一輝からジャケットを剥ぎ取り銃弾を受けたと思われる箇所を丹念に点検した。
「ボク、コレ返してくる」
瞬は素早くジャケットを折り畳んだ。このままここに置いておいては強度実験の名の元に今度は兄がライフルを持ち出し兼ねない。
「オイ、コラ兄の心配よりジャケットの心配か」
一輝が嘆いた。
「待機中にパチンコなんかしていて状況判断が出来ない人の心配なんかしませんよ」
冷たい眸と言葉を残して瞬は部屋を出た。
「あれはそうとう…」
星矢は紫龍を見上げた。
「…キテるな」
紫龍は冷え切った緑茶の入った湯飲みに口を付けた。
CATのメンバーは仕事から日本にいることが少ない、その貴重な時間をパチンコに費やす兄に瞬は猛烈に肚を立てていた。
「流石のお前も瞬に掛かっては形無しだな」
氷河が嗤った。
「いいのか、お前…」
氷河に嘲られ一輝は己を取り戻した。
「…お前の銃、持ったままだぞ」
一輝は瞬の出て行った扉を顎で指した。
「あっ」
一輝に言われ氷河はそれに気づいた。日本では限られた職の者しか拳銃の所持を許可されてはいない。銃を入手には困難を要する。瞬は勿論そのことを承知して故意に持って出ていた。
「やっぱり瞬って…」
唖然とした面持ちで瞬の消えた扉を見つめる氷河の背を星矢は見つめた。
「ああ、瞬は怒らせない方がいい…」
言って紫龍は憮然とした面持ちのまま研究所に向かい車を走らせているであろう瞬の姿を脳裏に思い描いていた。
END
04.07.07