激突後のこと

を知りたいとの要請があったので、記憶をたぐりながら書いておきます。

1.顔面地面へ
 「ガシャー」という音のあと、一瞬目に映る画像が急展開したかと思うと、次にそれが落ち着いたときはメガネのレンズが飛んでいくのが見えた。それと同時に左目の周りに衝撃と痛み。心の中の第一声は「あ〜、やっちまった〜」だった。やってくれたのは中学生か高校生か、一瞬のことなのでどちらとも判断はつかなかったが、それよりも「おいおい、運動会どうすんだよ」の思いの方が強かった気がする。
 なんにせよ、意識ははっきりとしていた。ぶつかってきた相手の「大丈夫ですか?」の声もちゃんと聞こえる。しかし、こういう時にまず恒例となっているのは骨の確認である。過去に何度か自転車ですっ転んだときもまず確認したのは手足が通常通り動くかどうかであった。何にもさしおいてそれをやる。これまで、幸いにして骨折をしたことはなく、今回もおそるおそる手や顔を触ってみたものの骨に異常があるようには感じられなかった。そのかわり、手が妙にヌルヌルする。「ああ、か」と思ったが、さすがに目の周りを打っただけあって左目からは涙が出てしまい、その上メガネも壊れてしまったのでちゃんとした画像をとらえることができない。
 まずは何をすべきか、相手の「大丈夫ですか」の声に「大丈夫・・・じゃないかもしれない」などとあいまいな返事(ちょっとだけ脅しも入っている。本当に大丈夫かどうか分からなかったし。)をしながら考えた。まずを止めるべきであろう。それと、自転車と荷物を横に除けなければならない。擦り傷・かすり傷ですめばいいが、これだけが出るとなると相手の住所や名前も聞かなければならないな。
 あまり無言でいるのもなんだなと思い(過去にそういう相手とぶつかったことがある。よそ見していて自分からぶつかってきておいて、こちらの「大丈夫ですか?」の問いに答えもせず目も合わさず走り去ったギャル風の女がいた。非常に気分が悪かったが「ああ、あれは逆ギレだったのだろうな」と5分後くらいに気付いた。)、「どの辺が切れてる?」「目の周り腫れてる?」などと問いかけながら(ずっと無言もいやだけどこんなこと聞かれてもいやか)やるべきことを整理していた。こういう時にはカッカとならず、あんがい醒めているから不思議だ。
 とりあえず、自転車とバッグを道の横に除け、バッグからティッシュを取り出して、聞き出したケガのあたりを押さえるようにした。そのあいだにも、左の頬がみるみる腫れてくるのが手の平を伝わってくる。そうしながら今度はバッグから筆箱を取り出し、ペンと紙を相手に渡して「とりあえず、連絡先・・・住所と電話番号を書いて」と伝えた。それを書かせながら聞いてみると、相手は高校生。サッカー部の練習に向かう途中だという。さらにぶつかった場所が場所だけに聞いてみると、何の因果か、今働いている小学校の卒業生だということが分かった。なんの縁もゆかりもないやつよりはその方が話が通じやすそうだと少しだけ安心。また、ケガはないかと聞いてみると特になく大丈夫だとの答え。「じゃあ、部活に遅れるとうるさいだろうから今は行っていいよ。連絡はあとでするから。」と、いい人ぶりを発揮して彼を現場から去らせ、自分も学校に向かった。

=続く=

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