マスコミの怖さ

 マスコミュニケーション、いわゆるマスコミですが、かねてよりその良いところと悪いところは指摘されています。いわば諸刃の剣というか・・・。過去、地震などの災害で、その速報性によって支援の手が素早く差し伸べられたり、かと思うと、デマをのせてしまって無用のパニックを引き起こしたり、というのがいい例でしょう。

 私の仲間内で合い言葉のように使われている言葉に「速い!しかも正確だ!!」というのがあります。かの有名な「機動戦士ガンダム」からの言葉です。他にも「赤いやつ」とか「マチルダしゃぁぁぁんんん」とか・・・話がそれました。ともかく、マスコミに求めるのは「速いこと」と「正確であること」であるのは衆目の一致する事実だと思います。

 しかし、この様な記事を見たとき。「正確であること」の失われたマスコミの怖さを感じてしまいます。1つ目は、asahi.comのこんな記事。

指導力不足教員289人に、3人が初の分限免職

 授業をきちんとできなかったり、保護者との意思疎通が十分はかれなかったりして教育委員会から「指導力不足」と認定された公立学校教員が、昨年度は289人だったことが12日、文部科学省のまとめでわかった。うち3人は初めて分限免職処分を受けていた。今年度中には都道府県と政令指定都市の全60教委で認定の仕組みが整う予定で、人数はさらに増える見通しだ。

 文科省は00年度、教員の任命権を持つ各教委に対し、指導力不足教員を学校現場からはずして研修させ、欠勤の連続や能力に問題がある場合、本人同意がなくてもできる分限処分も含む人事管理システムづくりを指示。各教委は、弁護士や医師など第三者を入れた判定委員会の設立や、それぞれの判定基準の検討を進めてきた。

 289人は、昨年度までにシステムの運用を始めた23教委で認定された。00年度は5教委の計65人、01年度は9教委の計149人で、運用の広がりに伴って大幅に増加している。都道府県別では神奈川県が51人で最も多く、東京都31人、京都府30人と続いている。

 こうしたシステムの手続きを経て、19人が指導力不足を理由に分限処分を受けた。神奈川県、京都府、徳島県で、それぞれ1人が免職。ほかに1人が降任、15人が休職にされた。指導力不足を理由とする依願退職は56人。研修は226人が受け、現場に復帰した教員は94人だった。指導力不足教員を都道府県職員に転任させた事例はなかった。

 文科省は、校長や教頭が自ら望んで降格する「希望降任制度」の実施状況も調査した。今年4月現在で制度があるのは19教委。昨年度は16教委で計49人が利用した。校長から教頭への降任はいなかったが、校長から教諭への降任は2人、教頭から教諭への降任は44人、その他3人だった。

 同省初等中等教育企画課は「指導力がない教員がいることが児童生徒の教育を妨げ、学校への信頼も損なっている。対応システムが出来てきたので、今後は定着に向けて各教委を支援していきたい」と話している。 (09/12)

 そして2つ目。nikkansports.comです。

指導力不足の学校の先生が倍増!

 都道府県と政令指定都市の教育委員会が02年度に「指導力不足」と認定した公立の小中高校の教員は289人となり、前年度の149人からほぼ倍増したことが12日、文部科学省のまとめで分かった。3人は教員の適格性を著しく欠くとして分限免職処分になった。指導力不足を理由とする分限免職は初めて。

 子どもと会話できなかったり、一方的な授業をしたりする指導力不足の教員は、学級崩壊の広がりに伴い問題化。文科省は00年以降、各教委に対し指導力を判定する「人事管理システム」づくりを求めてきた。システムの整備が進み、指導力不足と認定される教員も増えている形だ。

 02年度に指導力不足を理由に分限処分を受けたのは19人で、内訳は神奈川県、京都府、徳島県の3人が免職、降格1人、休職15人。依願退職した教員は56人で18人増えた。

 指導力向上のために研修を受けたのは226人で前年度からほぼ倍に増えた。研修後に学校現場に復帰したのは94人。管理職が希望して一般教員に戻る「希望降任制度」を利用したのは校長2人を含む計49人で前年度の25人の倍。

[2003/9/12/17:12]

 さて。2つの記事の違いに気がついたでしょうか。

 大まかなところは同じなんです。指導力不足と認定された公立の小中高校の教員数が、前年度は149人で今年度は289人であったこと。指導力不足と認定するのは、各教育委員会であることなどです。しかし、決定的に異なり、そしてそれが誤解を生む大もとになるのではないかと思えるのが、次に上げる点です。

asahi.comでは、『289人は、昨年度までにシステムの運用を始めた23教委で認定された。00年度は5教委の計65人、01年度は9教委の計149人で、運用の広がりに伴って大幅に増加している。』と書いてあるが、nikkansports.comでは、『システムの整備が進み、指導力不足と認定される教員も増えている形だ。』としか書いていない。その挙げ句、『指導力不足の学校の先生が倍増!』と見出しをつけている。」

 どうでしょう。これでは、nikkansports.comを目にした方はただ単に、「そういう教師が増えてるってことか」と判断してしまうのではないでしょうか。asahi.comを見れば、システムを運用している教育委員会が増えたのでそれに伴って認定数が増えていることが分かるのですが。つまり・・・
年度 認定数 認定教委数 計算 1教委あたり
2000 65名 5教委 65÷5 13.0名
2001 149名 9教委 149÷9 16.6名
2002 289名 23教委 289÷23 12.6名
ということですね。割合としては、そうたいした変化ではないのでは?

 『指導力不足の学校の先生が倍増!』と書かれて、149名→289名という数字だけ見せられたら、確かに倍増だよな、と思ってしまいます。でも、これって倍増ですか?確かに数字上は倍になりましたが、これを見て「おぞい先生が増えている」と判断されたら、それはおかしいというものです。

 nikkansports.comに、どのような意図があってこの様な書き方をしたかは分かりません。しかし、こうしたことが学校への不信へとつながりかねないということは分かってもらいたいと思います。ただでさえ、公務員の不祥事報道が多く取り扱われているこの頃です。それがマスコミ界の流行りかもしれませんし、正確な情報であれば、それが取り扱われるのは公務員の特性上、当然のような気もします。しかし、不正確な情報や、間違って伝わる可能性のある情報が取り扱われるのは納得がいきません。

 まぁ私たちも、入手した情報を正確に取捨選択して判断するという力を身につけていかなければいけないんでしょうけどね。

(03/09/14)

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