螺旋を描く者たち
act.1 狭間の少年
「・・・ガク!」
自分を呼ぶ声に楽斗は振り向いた。秀麗な美貌。澄んだ淡く碧い瞳。茶色掛かった短めの髪。17歳。まだ幼さを存分に残した少年は幼い頃にこの街に来たのだ。
「・・・何だ、有羽か・・・」
「『何だ』って・・・。酷いよ、ガク・・・」
幼馴染みの有羽である。楽斗と同じく17歳。楽斗も長身だがそれより5cmは大きい。短めのアッシュカラ−の髪を掻き上げて苦笑する。
「・・・ねえ、有羽、蓮見なかった?」
「蓮?見てないけど・・・」
「さっきから姿が見えなくてさ・・・」
楽斗が困った様な顔をする。
「・・・あ、もしかして『神殿』に居るんじゃない?あいつ、舞紗と仲良いでしょ?」
「・・・あ、そうか・・・。ありがと!・・・有羽もおいでよ!」
「・・・いいよ。ウザい連中の相手も飽きたし」
「・・・何?また『後継』の話?」
「・・・うん。俺なんかに『風の世界』統治させようなんて無理に決まってるじゃん?」
「確かにね。有羽、マイペ−スだからすっごくゆっくりになりそう」
そう。有羽はこの『風の世界』の支配者の後継者候補だった。『風の世界』『地の世界』。それから『刻と光の世界』。この3つから世界は成り立っていた。支配者は『神託』で選ばれる。有羽は『神託』で選ばれた幾人かの一人だった。
「・・・楽斗も『神託』出たんだろ?この前」
「・・・ああ・・・」
楽斗の『神託』は謎が多かった。『刻と光。どちらでもなく。其は刻と光を抱く・・・』と云う『神託』だ。
「・・・あれ、どういう意味だったんだろうな・・・。舞紗も判らないみたいだったし。・・・普通は皆、『刻』か『光』に関わるのに」
「・・・蓮は『光』が強かったらしいよ・・・。僕は・・・元々、何処で生まれたのかも判らないし・・・。もしかしたら『向こう』で生まれてたりして(笑)」
「ガク・・・」
楽斗の弟――――――蓮は楽斗の『血の繋がらない』弟である。幼い頃に楽斗はこの街で拾われたのだ。正確には母親らしき女性は心を病み、彼は蓮の両親に育てられたのだ。
「・・・『地の世界』かも知れないじゃん・・・。僕の母親・・・狂ってるんでしょ?」
「・・・な・・・っ!?」
「皆、知ってるよ!優しい顔して『狂人の息子』って陰で云ってるもん!」
「ガク・・・」
知ってたのか、と思う。楽斗は柔らかく微笑んでは居たけれど・・・。
「・・・『地の世界』から来てないなんて誰にも云えないでしょ?・・・僕は誰の子供なのかも、何て名前なのかもハッキリしないんだから・・・」
「・・・俺は、お前を信じるよ。蓮や舞紗もきっとそう思ってる」
「・・・有羽・・・」
「・・・何処で生まれたのかとか誰かなんて関係無いじゃん?お前は俺たちの仲間。それでいいじゃん?」
「・・・ありがと、有羽・・・」
その頃、『神殿』には『神官』である舞紗と楽斗の弟・蓮が居た。
「・・・舞紗・・・その『神託』本当なの?」
「・・・うん・・・。ガクちゃんは・・・『刻と光』の狭間に生まれた者だ・・・」
幼い顔立ちの舞紗だが真剣な表情だ。まだ16歳だが『刻』を司る『神官』であるだけの事はある。反対に蓮は泣きそうな顔をしている。その秘密の重大性を知るがゆえに・・・。
「舞紗、もしガクの正体がバレたらガクはどうなっちゃうの?」
「・・・連れて行かれる・・・だろうね。『刻と光の世界』に・・・」
「有羽が後継者になったら逢えないって云うけど、そしたらガクにはもう一生逢えないよ!?」
後継者になったら有羽は『城』に押し込まれるが楽斗が『刻と光の世界』に行けばもう二度と逢えないのは判り切っていた。有羽の様に『城』に行くだけならたまには逢えるだろうが・・・。
「嫌だよ!舞紗!・・・ガク、連れてかれるなんて絶対ヤだ・・・」
「・・・蓮・・・」
舞紗も同様の気持ちはあった。楽斗が居なくなる?そしてそれを彼は希む?
「・・・蓮〜?居る??」
入ってきたのは楽斗と有羽だった。
「・・・ガクちゃん、有羽。いらっしゃい」
ニッコリと舞紗は微笑んでみせた。
「・・・ガク、有羽」
蓮が微かに応える。
「・・・有羽・・・、ちょっと来てくれるかな?少し話したい事がある」
舞紗が有羽を呼ぶ。
「・・・何?舞紗」
「・・・有羽、気付いてるでしょ?ガクちゃんの事」
「・・・何の事?」
「『神託』の意味だよ!!」
「・・・やっぱり気付いてたのか・・・まぁ、舞紗にはバレるかな?って思ってたけどね」
「・・・どう思った?」
「・・・正直云って驚き半分の納得半分」
「・・・納得半分?」
「ガク、容姿だって極端に綺麗でしょ?何処か人と違うし。雰囲気も。・・・それに・・・『刻と光を抱く』って・・・『刻と光』の混血児じゃないのか?」
「・・・それは・・・」
「だから、追われてたんだ。だから、母親は逃げて発狂したんじゃないか?どちらでもあるなら母親は・・・追及もされただろうし」
「・・・ほぼ、間違い無いだろうね。その推理は・・・」
舞紗が呟く。そして向き直った。
「・・・有羽、今から云う事は蓮にも云ってない。有羽の心にだけ納めておいて欲しい」
「え?」
「・・・もう一つ『神託』が出たんだ・・・。『地中より出る者たち。刻と光の能力求め、刻と光を抱く者を夢見るだろう。彼の夢、かけらとなって彼を求める』って・・・」
「・・・『地中より・・・』ってまさか!?」
「・・・そう・・・。『地の世界』からガクちゃんを探しに来る・・・」
「何で!?」
「ガクちゃんの『能力』が欲しいんだよ・・・。『夢のかけら』が無ければ『刻と光の世界』には行けない。ガクちゃんしかそれは作れない」
「・・・なるほどね」
「・・・それに、『神託』は僕の兄さんが・・・ガクちゃんを狙ってるって出た・・・」
「魔名が?」
「うん」
魔名は舞紗の実兄だ。『刻』に魅入られて数年前に『地の世界』へ向かった・・・。
「ガクちゃん、このままじゃ兄さんに連れ去られるかも知れない・・・」
第1話です。元々は携帯サイトのメルマガで配信していた小説です。名前は基本的に当て字(笑)第2話からはMALICE MIZERメンバーも登場。ハイ。mana様とMasaきゅは兄弟(爆)・・・イエ、只名前が似てたから・・・(ヲイ)