act.3 17年前


 「・・・行って来ます!」
 元気に叫ぶのは蓮。蓮に手を引かれて楽斗も外に向かう。
 「・・・行ってらっしゃい。蓮・楽斗・・・」
 父親の茶々丸である。二人が出掛けるのを悠然と見つめる・・・。
 「・・・そう云えば・・・もう・・・17年か・・・」
 生まれて間も無い楽斗とその母親に出逢ったのは。当時、彼女はまだ狂人では無かった。茶々丸に云った言葉・・・『神威とだけは呼ばないで!この子は・・・その名前で呼べば連れてかれてしまうわ・・・』『神威』――――――。楽斗の本名なのだろうか?・・・そして茶々丸に楽斗を託してすぐに彼女は狂人になって発見されたのだ・・・。
 「追われてたな・・・あの時。何故・・・?」
 茶々丸は考え込む。類稀なる容姿を持つ楽斗。奇妙なほど。・・・17年。彼女はこうも云っていた。『・・・17年したらあの子の中で何かが壊れてしまうかも知れない・・・』と。
 「・・・あかん。わからへんくなってきた・・・。舞紗のトコ行くか・・・」
 『神官』である舞紗に告解を聞いて貰うべく茶々丸は外へ向かった・・・。

 「あろあろ、舞紗〜」
 「あ、おはよう、ガクちゃん。蓮も」
 『神殿』の傍にある学校。楽斗・有羽・舞紗・蓮の4人は同じ学校である。楽斗・有羽が3年生。舞紗と蓮が1年生。
 「・・・あれ?有羽は?」
 いつも楽斗・蓮と一緒に登校して来る有羽が見当たらない。
 「・・・『後継者』の件で缶詰。2限目には来るって」
 「・・・そっか」
 舞紗は呟いた。『後継者』になる事を拒んでいた有羽。しかし、楽斗の秘密を護る為に有羽は『後継者』に名乗りを上げた・・・。
 (・・・有羽が『後継者』になれば・・・ガクちゃんを護れるかも知れない・・・。だけど・・・希みもしない状況に有羽を追い込んで本当によかったんだろうか・・・)
 「・・・さ・・・、舞紗!」
 「え?」
 考え込んでいた舞紗は蓮の声で我に返った。
 「・・・もう〜、何ボ〜ッとしてるんだよ」
 (そろそろ・・・『時』が来たのかも知れない・・・)
 そして舞紗は向き直った。真実を告げる為に。
 「・・・ガクちゃん、蓮・・・。講義が終わったら・・・有羽も連れて・・・『神殿』に来てくれないかな・・・?」
 「え?」
 楽斗が驚いた様な表情を見せる。
 「・・・いいから、二人とも絶対来るんだ。・・・そうしないともう時間が無いんだ・・・ううん、有羽が来たらすぐに来て!」
 「・・・わ、判った・・・」
 迫力に負けて楽斗が答える。普段の穏やかな舞紗からは想像もつかないくらい激しい声・・・。
 「・・・ありがと、ガクちゃん」

 1限目の講義中、楽斗はずっと考え込んでいた。舞紗のあの表情は尋常では無かった。そして講義も終盤を迎えた頃・・・。
 「・・・おはようございます・・・」
 有羽が教室へ入ってきた。教師に何事か云っている。
 「・・・おはよ、ガク」
 「おはよ」
 楽斗と有羽の席は隣である。
 「・・・舞紗がすぐに『神殿』に来いって。僕と有羽と蓮」
 「・・・舞紗が?」
 すぐに表情が消え失せる。
 「・・・ガク、講義終わったらすぐに行くよ」
 「え?」

 講義終了後、すぐに有羽に腕を引っ張られる様にして荷物を持って『神殿』に向かった。
 「・・・ねえ、有羽!手、痛いってば!」
 「そう云った問題じゃない!!」
 「え?」
 いつも穏やかな有羽。怒鳴る事なんて滅多に無いのに・・・。そう云えば舞紗もそうだった・・・。
 「・・・何かあったの?有羽も舞紗もおかしいよ・・・」
 「・・・時間が無いんだ」
 「え?」
 「舞紗のトコに行けば判る」

 舞紗は蓮に手伝わせて書庫の文献を漁っていた。『刻と光』の文献を。
 「舞紗〜・・・本当にあるの?資料なんか」
 ピンポ〜ン・・・インタ−ホンの音。
 「告解かな?」
 「かも」
 「・・・すいません、今日は・・・!?茶々さん・・・?」
 茶々丸である。
 「・・・『秘密』を話したいんです・・・」
 「・・・蓮、ちょっと隠れてて」
 聞き取れるか聞き取れないかの声で舞紗は蓮に云った。
 「・・・17年前の・・・秘密です。私と今は亡き妻しか知らない・・・」

 「・・・私は17年前・・・ある秘密を隠し持ちました。・・・楽斗の母親は誰かに追われていた・・・。私が彼女に楽斗を託された時・・・まだ、彼女は狂っていなかった・・・」
 「!?」
 「え・・・?」
 「彼女は・・・こう云った・・・。『この子を神威と呼ばないで・・・呼んだら連れて行かれてしまう』と・・・」
 「『神威』?」
 「・・・きっと・・・楽斗の本当の名前だったんだと・・・思います。それともう一つ・・・『17年経ったらあの子の中で何かが壊れるかも知れない・・・』とも、云われました・・・」
 ガシャンッ!『神殿』のドアが開いていた。そこに居たのは有羽と・・・楽斗だった・・・。
 「ガクちゃん!?」
 「・・・なに、云ってた・・・の・・・?」
 怯えた瞳。揺らいでいる。
 「・・・ガク!?」
 そのまま彼は・・・『神殿』の入り口で意識を失った・・・。有羽がくずおれる身体を寸での所で抱き止めた所までで彼の意識は完全に・・・途絶えた。

 「・・・ん・・・?」
 額に冷たい感触がして楽斗は目覚めた。
 「・・・ガクちゃん、大丈夫?」
 覗き込んでいたのは舞紗だった。
 「・・・舞紗・・・」
 「・・・ずっとうなされてたよ。・・・無理も無いか・・・。・・・あれは本当だよ」
 「・・・僕は・・・何者なの?」
 「・・・まだ、ハッキリした事は判らない・・・。だけど、ほぼ、間違い無く予想はついてる。・・・ガクちゃんは・・・『刻と光の狭間に生まれた者』だよ・・・」
 「狭間に・・・?」
 バンッ!ドアが開く。有羽と蓮が慌てて部屋に入って来る。
 「・・・父さんの許可が下りた。今から行こう」
 蓮である。
 「何処へ・・・?」
 「17年前の総てをこの世でただ一人、今の俺たちに告げる事が出来るかも知れない人・・・。楽斗の本当の母親に・・・逢いに」
 「・・・僕の・・・母親・・・?」
 「彼女しか知る人は居ない。17年前に何があったのか、ガクは本当は誰なのか。・・・総てを知り得る可能性があるのは彼女だけだ」
 「でも、僕の母親は・・・!」
 「狂ってるから?それは関係無い。逆に隠してた事も総て話してくれるかも知れない。そうだろ?」
 「・・・うん・・・」


      第3話!ガクの正体がついに明らかに(笑)次は秘密が少しだけ明らかになる・・・かな(笑)『神威』も初登場するし(笑)茶々さん書けて楽し
      かった〜♪MALICEはもう少し待ってて(笑)


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