act.4 『神威』


 「・・・ここ、か・・・」
 『風の世界』の中でも西の外れにある、白い建物。檻で閉ざされている。
 「・・・ここに、僕の・・・母親が居るんだね・・・」
 楽斗が呟く・・・。
 「・・・210号室だって・・・」
 「うん」

 白い病棟内は異様なくらい静かだった・・・。
 「本当にここであってるの?」
 楽斗が蓮に尋ねる。
 「昨日、何回も聞いたじゃん?」
 「それはそうだけど・・・」
 階段を上りながら云う。
 「・・・ここだな」
 先頭の有羽が一つのドアの前で止まる。・・・『210』と書かれたプレ−トが付いている。・・・210号室だ。
 「・・・入ろう」
 楽斗が呟く。

 ドアの中は不思議な空間だった。白い部屋。何も無い。鉄格子が窓の所に取り付けられている。他にはベッドが中央にあり、白いテ−ブルと白い湯沸しポット・・・。そして、そのベッドの上には・・・一人の女性が座っていた・・・。
 「・・・似てる・・・」
 蓮が呟く。楽斗と女性の姿はよく似ていた。血の繋がりを意味するかの様に。
 「・・・だれ・・・?」
 澄んだ声。
 「貴方が・・・何処から来たのか聞きたいんです」
 「・・・どこから・・・?」
 「17年前に貴方は連れていた子供を預けましたね?その子の事を」
 「・・・貴方・・・『神威』を知っているの・・・?」
 「!?」
 初めて的を射た返答が返ってきた。
 「・・・貴方の云う『神威』かどうかは判りませんが・・・。子供は17歳になった・・・」
 「・・・そう・・・。あれから、『17年』経ってしまったのね・・・。『神威』が目覚めてしまう・・・。『神威』が『後継者』になる時が・・・」
 「『後継者』?」
 「・・・『刻と光の世界』・・・『神威』の支配すべき場所・・・。『神威』はもう・・・行かなければならないの・・・?どうして・・・!?」
 「どういう事・・・?」
 震えながら楽斗が問う。
 「・・・『神威』。これだけは云わせて。もうすぐ『彼ら』は『神威』を探しに来るわ。だけど・・・『神威』は『神威』になってはダメ・・・」
 「・・・それが、何だって云うんだ?」
 酷く冷たく楽斗が微笑む・・・。
 「ガクちゃん?」
 舞紗が不安そうに呟く。
 「・・・『刻と光』は俺の物だ。・・・『神威』の・・・。判っているんだろう?いつまでも、『楽斗』のままでは世界は狂うと・・・」
 艶麗に微笑いながら続ける・・・。
 「・・・俺の名前は『神威』。本来、あるべき姿の『神威』。『刻と光の世界』の後継者。お前たちの知っている『楽斗』は・・・消えゆく運命・・・」
 「な・・・っ!?」
 「・・・『神威』、やめなさい!」
 「・・・今はまだ、『楽斗』も抵抗している・・・。だが、暫くすれば完全に消える・・・。その日を楽しみに待つんだな・・・」
 クスクス微笑う・・・。
 「ガク!」
 「・・・嫌われている様だな。・・・暫し、眠りにつくとしよう・・・。だが、いずれ、『目覚め』は来る。・・・それまで、あいつが耐えられるかな・・・?」
 フゥッと楽斗の身体から力が抜ける。
 「ガク!?」

 「今のは・・・何なの!?僕はあいつに消されるの!?助けて!助けてよぉ!」
 悲痛な楽斗の声。不安を更に肥大化させてしまった・・・。大損か・・・否、収穫はあった。・・・そう。『神威』。『刻と光』の狭間に生まれた者。おそらく、有り得ない筈の存在だったが故に・・・。彼は二つに分かたれてしまったのだろう。『楽斗』と『神威』に。
 「・・・『神威』について調べれるか?舞紗」
 「え・・・?」
 「出来るか?」
 「・・・やってみる」
 「有羽。俺、取り敢えず、ガク連れて帰るよ。このままじゃ、不安に押し潰されちゃうよ・・・」
 蓮が云う。蓮の傍で楽斗は震えている。
 「判った・・・」

 戻ってすぐに有羽は『城』に向かった。『城』には『神殿』に匹敵するだけの資料がある。そして、入り込めるのは有羽一人だ。すぐに、書庫に向かう。書庫に入ると、ただ、奇妙な空間が拡がっていた。突然、声がする・・・。
 『何ノ資料ヲオ探シデスカ?』
 「・・・『刻と光の世界』もしくは『神威』に関する資料を・・・」
 『検索シマス。暫クオ待チ下サイ・・・アリマシタ。該当・・・1件。第12書庫。持チ出シ厳禁。封印処理ガ施サレテオリマス。オ読ミニナリマスカ?』
 「・・・ああ」
 『ワカリマシタ。封印ヲ解除致シマス』
 突然、空間に1冊の古びた本が現れる。本はくるっと回転して有羽の前に下りる。その本には呪符が貼り付けられている。有羽が手に取ると呪符は剥がれた。
 「・・・これだけか・・・」
 有羽はゆっくりと本を小脇に抱えて外へと飛び出した。
 『何スルンデスカ!?ソレハ持チ出シ厳禁デス!』
 「・・・これが絶対に必要なんだ。・・・用が終われば戻す!」
 有羽は楽斗と蓮の家に向かって走り出した・・・。


      やっと第4話・・・。有羽暗躍(?)神威も登場☆次は楽斗VS眩葉VS有羽です(笑)封印されていた本は実は・・・ってのが第5話の展開にな
      るかな(笑)


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