act.5 眩葉


 を小脇に抱えて向かった。蓮が出て来た。
 「有羽。どうしたんだ?」
 「・・・『刻と光の世界』と『神威』についての本だ」
 「え?」
 「『城』の封印書物だ。相当、ヤバいだろうな」
 「・・・いいの?」
 「今のままにしておけないだろ・・・それに、俺は『神威』よりガクの方がいい」
 「舞紗も来てる・・・。舞紗は3冊持ってた。でも、『神威』についての記述は無かったって・・・」
 「そっか。・・・載ってるといいな・・・」
 「あ、有羽も来たの?・・・ガクちゃん、眠ってる・・・」
 「・・・うん」

 書物を開く。有羽や蓮には理解できない文字の羅列だった。
 「・・・何だ?何て読むの?」
 「・・・古代・・・ウィンディ−グ語だ・・・。『これから、起こり得る総ての未来を記そう。我にはもう、時間が無い。・・・神威は・・・支配を希む。・・・神威を得る為に追い求める者は居る・・・』・・・ガクちゃんの事・・・?」
 「舞紗、読めるの!?」
 「流石、『神官』・・・」
 「でも、全部は読めない。アナグラムみたいな言語だからね。古代ウィンディ−グ語は」
 「・・・でも、読めるだけ凄いよ」
 「頑張って読んでみるね・・・」
 本をゆっくりと開き、解読を試みる。ところが、後ろから突然、本は取り上げられた。
 「ガクちゃん!?」
 「・・・『風の夜、総ての始まり。・・・刻と光の世界の女が下の世界の男との間に子供を設けてしまった・・・。女の子供を巡り、争いが刻と光を支配した。・・・女は風の輝く場所へと逃れる。・・・女は追われていた。女は子供を預ける。神威は風の輝く世界で幸せに暮らす。・・・来訪者がやって来る。もう一人の神威。刻も光も無い漆黒の王子。彼の者、これと対となる眠りの魔導書持ちし者。この嵐の魔導書。神威の傍で風と刻と光が護るだろう。・・・だが、神威を護りたいのではない。・・・神威の中の運命の悪戯によって生まれた神威を護りたいのだ・・・』」
 「ガク・・・ちゃん?」
 舞紗が呼びかける。
 「・・・『神威は・・・目覚める。総ての苦しみと悲しみと引き替えに』・・・」

 その時だ。有羽の中で何かが警告音を発した。
 「・・・?」
 神威も外を見る。
 「・・・見つけた」
 眩葉が微笑んでいた・・・。黒づくめ。髪も黒い。瞳だけが・・・蒼かった・・・。
 「誰・・・?」
 「・・・『眠りの魔導書持ちし者』・・・」
 「!?」
 「・・・それが・・・『嵐の魔導書』・・・?」
 「・・・!」
 有羽が魔導書を抱え込む。
 「・・・お前が『風の後継者』か・・・私は眩葉。・・・『地の後継者』であり・・・『眠りの魔導書』の後継者でもある・・・」
 「な・・・」
 「・・・その魔導書と『神威』頂くぞ!・・・結城!」
 「え・・・!?」
 眩葉の持っていた『眠りの魔導書』から『何か』が浮き出た。
  「・・・!?」
  「・・・行け・・・我が闇の眷属よ・・・」
  「影!?・・・あいつ、影使い・・・?」
  「・・・我が手に目覚めよ、光の壁。・・・打ち砕け!」
 舞紗の声。
  「・・・『神官』か・・・」
 眩葉が更に眷属を呼び出そうとする。
  「・・・『嵐の魔導書』では何も呼び出せないの?」
 蓮が有羽に尋ねる。
  「え?」
  「だって、あれは『眠りの魔導書』なんでしょ?『嵐の魔導書』はそれと対になるんだろ?・・・だったら・・・」
  「・・・なるほどな。・・・だけど・・・わかんないんだ・・・」
  「・・・『城』で何らかの言葉を教えてる筈だよ!呪文としてではなく!!」
 舞紗が叫ぶ。
  「え?」
  「『魔導書』関連は『後継者』以外には操れない。だから、『後継者』にだけ秘密の言葉として教えるんだ!」
  「・・・言葉・・・」
 思い返してみる。言葉を。
  「・・・『風の章』・・・とか・・・?・・・あ〜もうっ!どうにでもなれ!!『・・・鉄壁の砂塵、風を割れ』!!」
 覚えているフレーズ。風が走る。
  「・・・『嵐の魔導書』か・・・!」

  「・・・総ては・・・目覚める。・・・嵐も眠りもその時の一時の幻影に過ぎない・・・」
 神威が呟く。奥底で怯えている楽斗。これも幻影。自分の運命の一部。
  「・・・もうすぐ・・・『刻と光』が目覚める。・・・その時に総てに於ける幻影は無に帰す・・・」
 ――――――幻影?
  「・・・幻影だ。この世界も・・・あいつらも」
 ――――――此処にある感情は嘘じゃない。
  「・・・そう。嘘じゃない。だが、消える。この世界も、あいつらもお前も」
 ――――――やめろ!!
  「・・・もう、遅い。歯車は回り始めた・・・。残るのは『無』。・・・何もかも存在しない夢の破片・・・」
 ――――――違う!!
  「・・・間に合わない。お前がいくら抵抗したところで」
 ――――――なら、どうして・・・。
  「それが『運命の悪戯』って物なんだろう・・・。不完全な神威の『かけら』。螺旋を描く上では重要な存在」
 ――――――そんなのおかしい!描くだけ描かせてあとは消えろなんて!!
  「・・・なるほどな。一理あるな。・・・なら、やってみるがいいさ・・・。どうせ、まだ暫くはお前は螺旋を描き続けなければならない・・・」
 神威が微笑む。艶麗に。そして言葉を奏でる。
  「・・・総てを歪めよ」

 ゴゥン・・・。音がする。そして・・・砂塵も影も消え去る。
  「何!?」
  「神威か・・・」
 強大な魔力。『刻と光の狭間の者』。神威が微笑う。
  「・・・まだ、時間は残されているさ。・・・放っておいても変わらないと思うが・・・。『楽斗の願い』に敬意を表して・・・もう少しだけ・・・見届けてやるさ。・・・何処まで、護れるか・・・」
  「・・・ガクの・・・願い?」
 有羽が呟く。神威はそれには答えず、眩葉に視線を移す。
  「・・・運命の悪戯から生まれた『無』・・・。有形ではない無形の存在。・・・それが、お前。・・・楽斗の本質には限りなく近いのかも知れないな。最も、あいつは・・・運命の悪戯から生まれた『有』だけどな」
  「・・・私には私の希みがある。・・・操り人形になどならぬ!」
  「・・・あははははっ。方法は違えど、お前とあいつの希みは限りなく近いようだな。・・・面白い。滑稽なくらいだがな。・・・願いを夢見るのは」
 そして一通り見回す。
  「・・・もう暫く、楽斗を預けておくよ・・・。お前たちに。お前たちは螺旋を描く者たちだからな・・・」
 薄く微笑い、ふっと意識を失う・・・。倒れる彼を有羽が支える。瞳を薄く開き・・・楽斗が呟く。
  「・・・螺旋・・・夢・・・かけら・・・。そんな物に・・・惑わされるのか・・・」


     第5話。神威の思惑、ちょこっとだけ明らかに(笑)楽斗、最後しか出てきてないよ・・・(灰)魔導書に関してはそのうち(笑)次は・・・魔名様・
     紅司くん・右狂ちゃんサイドかなぁ?まだ、わかんないけど(笑)前回と間があいてしまってごめんなさい(死)


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