[その一]
上の家・井上家旧邸跡
天城湯ヶ島町の天城温泉会館駐車場に車を停め、前を通る国道をわたり少し右手の 信号を左に折れすぐの旧道と交わる角に、まずこの物語に何度も登場する「上の家」が 目に入ってきます。この家は主人公「洪作」の本家に当たる家で、ここには祖父と祖母、 そして洪作の母の弟妹たち、つまり叔父叔母に当たる男の子や女の子がいた家です。 洪作と同い年の一番末の「みつ」や、幼い恋心を寄せた「さき子」の住んでいた処です。 物語りの時代には、この二倍ほど大きな屋敷だったのですが、続編の「夏草冬濤」では 帰省した洪作が「家が半分になっている。」と驚きます。理由は読んで調べてみましょう。 |
[上の家] |
そして次に、上の家の角に立って南北に延びている道が旧道で、右が伊豆森林管理所。 これが物語に出てくる子供達の遊び場だった帝室林野管理局天城出張所で、現在に 至っています。 反対の左側へ行くと井上靖旧宅跡と「しろばんば」の碑があります。物語には、この界隈 の雑貨屋・牛小屋・洪作が毎朝顔を洗った家の端を流れている小川などの描写があり、 それと照らし合わせて近辺を歩くと、感慨深いものがあります。 また、夕闇のたちこめ始めた空間を綿屑でも舞っているように浮遊している「しろばんば」 と言う白い小さな生きものを追う子供たちが、それぞれの家の人からの帰宅を促す声で 一人また一人と、順番に駈け去ってゆくと言う小説冒頭の情景も浮かんで、ノスタルジッ クな気持ちにもさせられます。 さてその井上靖旧宅跡の入り口から見て左側が旧邸跡、右が部落で一番庭らしい庭’と 書かれている当時を偲ばせる庭です。そして「しろばんば」の冒頭を書き写した碑と、 その後ろが洪作とおぬい婆さんが暮らしていた蔵が建っていた場所があり、そこは現在 広場になっています。 おぬい婆さんと洪作は血のつながった肉親ではありません。医者をしていた曾祖父の妾 だった人です。この曾祖父は本妻にも子供が出来なくて本家には兄の子を養子に迎え、 そして自分は近くに一軒構え晩年その兄の子の長女「七重」を分家させて、その養母と して、「ぬい」を籍に入れたのでした。その本家が上の家で、旧宅が分家と言うことです。 七重は軍医の妻となり全国を移り住み、洪作を頭に4人の子を産んでいます。 旧宅は現在、昭和の森会館へ移築保存されいます。井上家によって寄付されたので しょうか? 蔵は井上靖氏の妹氏が郷里に移り住んだ時分、老朽化が甚だしいため 取り壊されてしまいました。 蔵の在った広場に立ってみると、物語に出てくる様々に絡む伊豆の田舎の人間模様や 洪作とおぬい婆さんとの生活の様子が目に浮かび、胸をつかれることでしょう。 |
[井上靖旧邸跡] [小川は今は用水路に変わったが清冽な水が流れている] |
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