2:Dark Side[暗黒面]
がばっ!
余りの夢にソーマ=ランディールは飛び起きる。
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
冷や汗が額から頬を伝って落ちる。
汗を腕で拭うと、ベッドから降り立つ。
ふぅー
肺の中の空気を全て搾り出すかのように、長く、強く息を吐き出す。
すぅー
空になった肺の欲求を満たすかのように息を吸う。
父から学んだ呼吸法を5回程繰り返し、心を落ち着ける。
「…少し、頭を冷やしたほうが良さそうですね。」
呟き、壁にかけてある白衣を羽織る。
一人の散歩。深夜だけあって、人は疎らだ。
その所為もあって、ソーマはいつも見る夢について考えていた。
(それにしても、嫌な夢でした。)
最近、頻繁に見るようになった夢。
それは、自分が人を、殺す場面。
そして、いつも浮かべる笑み。
まるで、人の死ぬ様を楽しんでいるような…。
(思い出しただけでも吐き気がします。)
どんっ
考え事に集中したせいで、前方から来た男に気付かずぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさい。」
条件反射と思われるほどの速さでぶつかった相手に謝る。
ふんっ
その相手は、さも何も無かったかのように、そのまま歩き続ける。
(ま、いっか)
そのまま歩き始めようかと思った瞬間
(えっ?)
まるで、全ての感覚が一瞬で無くなるような、妙な感覚がソーマを襲う。
振り向くと同時に、ぶつかった男の肩をつかむ。
「ぶつかったのに謝罪の一つも無いなんて、いけませんよ。」
「あん?」
男が不機嫌そうに振り向く。
ソーマは、懐にしまっていたメスを取り出し、相手の頚動脈に押し付ける。
「な、何の真似だよ!」
刃物を喉に突きつけられた所為で、恐怖に声が震えている。
「わからない人ですね…今言ったじゃないですか。」
ソーマが顔を上げる。
その口元は笑っているが、瞳には冷たい殺気が篭っている。
「…ぶつかった謝罪をして欲しいって。」
「!」
少しだけ右手に力を込める。途端、痛みに顔を歪める。
「わ、悪かったよ!」
「はい。」
ソーマは、この上ない微笑みと共にメスを仕舞う。
「でも、素直な方で助かりました。」
笑みを崩さずに言う。
「もし謝ってくれなかったら、麻酔無しで手術するつもりでしたから。」
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