5:Contract[契約]
「じゃあ、今言ったとおりにやるのよ。」
「判りました。」
リースの言葉に答えると、ソーマは魔法陣の中の小円に移動する。
そして、魔方陣の中心、大円の方に体を向ける。
「…ふー。」
呼吸の速度を落とし、精神を統一させる。
「水の界に属するものよ…」
定められた動きと共に詠唱を行う。
「我は汝との契約を望む者。」
魔法法陣の中心、地面から1.5m程の高さに、周囲から水が集まりだす。
「我の資質を見定めんが為…」
空中の水球が、徐々に大きくなっていく。
「古の法に基づき…」
そして、
「その姿を我が前に示せ!」
詠唱の終わりと共に弾ける。
ザー
弾けた水がそのまま魔法陣の中心に落ちる。
全ての水が落ちたとき、そこに、ドレスを身に纏った黒い長髪の女性が居た。
(私との契約を望むのは、あなたですか?)
ソーマの頭に、直接声が響く。
「はい。」
未経験の出来事に多少戸惑いながら答える。
(では、古の法に基づき、貴方が私の主に相応しいか、試させていただきます。)
そういうと、精霊はソーマの額に手を当てる。
「!」
まるで氷を直接当てられたかのような余りの冷たさに、一瞬反応してしまう。
「…大丈夫ですか?」
思わずソーマは声をかける。
(貴方に危害が加わる事はありませんから、御安心ください。)
「いえ、そうではなくて…こんなに手が冷たくて貴女は大丈夫なのですか?」
「え?」
全く予想していなかった言葉に、水精霊は思わず声を出して驚く。
そして、
「くすくす。」
声を上げて笑い出す。
(私は水の精霊、人とは異なります。ですから、心配は無用です。それより、目を瞑ってください。)
どこか納得できないところもあるが、ソーマは水精霊の言葉に従う。
少しして。
(もう、結構です。目を開けてください。)
声に従い、ソーマはゆっくりと目を開ける。
(貴方を、私の主と認めます。)
水精霊がソーマに微笑む。それは、子の成長を静かに見守る母のような、優しく、温かい笑みだ。
(では、最後の仕上げをお願いします。)
水精霊の思念にソーマが頷く。
「我が名はソーマ。汝の主となる者。
契約の証として汝に名を与えん。汝の名は…。」
そこで一呼吸置く。
「水姫。」
契約を終え、ソーマが魔法陣の外に出る。それを、リースが笑顔で迎える。
「成功したようね。そんなソーマちゃんにご褒美よ。」
そういうと、ソーマに腕輪を放り投げる。
「なんですか、これ?」
契約者の腕輪よ。ソーマちゃんが精霊使いになる記念に、この街の職人さんにつくってもらったのよ。」
「…ちょっと待ってください。」
「え、何?」
「今、精霊使いになる記念って言いませんでした?」
「ええ、言ったわよ。」
「誰が精霊使いになるって言いました?」
「ソーマちゃん。」
満面の笑みを浮かべ、リースが答える。
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