4:Pronounce[宣告]
人気の無い路地裏に着くと、リースは後ろを振り返る。
「ここなら落ち着いて話ができそうね。」
「で、こんなところでどんな話をするんですか?」
半ば呆れ気味にソーマが問いかける。
「ダーク化」
「へ?」
唐突に聞いた事の無い単語を言われ、唖然とするソーマ。
「心の一部が魔力に汚染されること。」
ソーマの様子にお構い無しに、リースが淡々と述べる。
「初期症状は、破壊、殺戮等の衝動に見舞われることと、毎夜人を殺す夢を見ること。
末期になると人格の変貌をきたす。」
そこで一息入れる。そして普段の口調に戻る。
「ソーマちゃんの悩みの元よ。
魔術の適性のある子に時々見られる現象なんだけど、
ソーマちゃんの場合は普段自分を抑えてるから、人より強く症状が出ちゃったみたいね。」
「どうすればいいんですか!?」
ソーマがリースに詰め寄る。
「もう…ソーマちゃんったら、襲っちゃ…い・や(はあと)。」
「あの…10年に一度有るか無いかの真面目な場面なんですから…。」
思いっきり呆れるソーマ。その反応に、リースは少し拗ねる。
「わかったわよぉ…。でも、このくらい軽くあしらえないようじゃ、ラルフさんみたいな良い男にはなれないわよ。」
「お父さんは関係ありません!」
リースの表情が急に真剣なものに変わる。
「ま、冗談はこれくらいにして…これから治療に入るわよ。」
そして苦笑気味に、
「って言っても、対処療法でしかないんだけどね。」
と言う。
「で、どうすのですか?」
「その前に…私が何故、ソーマちゃんのことわかったと思う?」
リースの問いに黙って頭を振る。
「答えは、これよ。」
そう言ってリースは右の掌を上に向ける。
すると、掌に小さな竜巻が発生し、やがて、その中から全長10cm程の小さな妖精が現れる。
「風の精霊よ。この子が最近のソーマちゃんの様子を教えてくれたから、こうやって来たのよ。」
風の精霊はソーマに微笑みかけるとそのまま消えてしまう。
「ま、正確には私が契約している精霊の眷属なんだけど…ってそんな事はどうでもいいわね。」
「それが…一体…。」
リースの意図が掴めず、困惑するソーマ。
「ソーマちゃんにも精霊使いになってもらうのよ。」
「え?」
「で、精霊の力を借りて魔力を押さえ込むのよ。そうすれば、症状も抑えられるはずよ。
どう?やる?」
悪戯っぽい笑顔を浮かべながらソーマに問いかける。
「…はい!」
リースの問いに力強く答える。
「良い返事ね。じゃあ、準備するから、アッチを向いて頂戴。」
「何でです?」
「何で…って恥ずかしいからに決まってるじゃない。」
リースの台詞に呆れるソーマ
「…見られて恥ずかしいことをするつもりですか?」
「それとも、ソーマちゃんは私の恥ずかしい姿を見たいの?…えっち。」
「…本気で怒りますよ。」
いつもより低い声で呟くソーマ。
その瞳には、殺気すら浮かんでいる。
「もぅ…冗談よ。本当にソーマちゃんはこの手の冗談に乗ってくれないんだから…。」
「はぁ…。」
思わず、ソーマの口から溜息が漏れる。
「もういいです。それより、早く準備してください。」
「判ったわよぉ。…もぅ、ソーマちゃんはせっかちさんなんだから。」
そういうと、指を鳴らす。
途端、リースの背後の地面から土煙があがる。
「これで良し。じゃあ、早速始めて頂戴。」
「始めろって…どうやったらいいか、知りませんよ。」
ソーマが困惑の表情を浮かべる。
「そんなの、気合で補わなくっちゃ。」
右腕で力瘤を作る…格好をする。
「気合でどうにかなるものなんですか?」
ソーマが呆れ顔で突っ込みを入れる。
「仕方ないわねぇ…じゃあ手短に説明するわね。」
3:Ries[リース]  目次  5:Contract[契約]