【杉花粉】

 近年、猛烈な勢いで蔓延している花粉症とアレルギー性鼻炎は今や大きな社会問題になっています。

 この原因は、何だろうか? 排気ガスによる大気汚染、食品添加物による人体汚染、乱開発による自然破壊等々、これらすべてのことが複合的に影響していることは、否定できないでしょう。

 しかし、これら花粉症とアレルギー性鼻炎で最も有名な原因は、杉花粉です。北遠地方には杉、檜が山全体に広がっています。春になると山火事と見間違えるほどの花粉が山を覆い、この花粉が風に乗って各地に舞っていきます。遠州灘の堤防の上が黄色に色づくことさえあります。

【花粉の大量発生】

 ではなぜ、このように大量の花粉が発生するのでしょうか?
 実は、これらの杉林は建築資材として活用するべく植林されたものです。戦前から植林はされていましたが、戦後に政府の奨励により特別補助金等により、いっそう活発に進められてきました。

 以前は、ほとんどの植林は手入れされていましたが、バブル崩壊と同時にほったらかしの森が増えていきました。人件費の高騰、安い輸入木材の影響で採算が取れなくなり、林業離れが進みました。

 手入れされていない森の木が、花粉を大量発生させているのです。なぜなら、手入れのされていない杉の木は、環境が悪化して絶滅の危機に瀕しているのです。このままでは、枯れてしまいます。それで枯れる前に花粉を飛ばし、別の場所に子孫を残そうとしているのです。手入れの行き届いた植林域では、花粉の飛散はごくわずかしか見受けられません。

           

【混合樹林の働き】

 北遠地方のほとんどの山々は、杉、檜等の栽培場になっているのです。本来この地方の山々は雑木と呼ばれている落葉樹林帯でした。落葉樹は、元々やせた土地に多く見受けられます。一方、杉、檜は肥沃な土地を好みます。 

 昔は、雑木は薪(たきぎ)にしかならない価値の低いものとされてきました。しかし、様々な分野の研究が進むにつれて、山の雑木林は自然環境保全にはなくてはならない存在であることが解ってきました。

 雑木林には、酸素の供給・CO2の吸収、雨水を保有する天然ダムとしての働き、川や海への栄養供給源、動植物の宝庫等々、ほんとうに素晴らしい働きがあります。

 長い間、針葉樹ばかり植えられていた山には、大切な栄養源である落ち葉が足りません。その為、山が次第に痩せてしまいました。また、日当たりが悪くなると草が生えなくなります。落葉や根、草は土を抱え込んで守ってくれますが、針葉樹の根だけではホールドできません。落ち葉や草がなければ、土(腐葉土)が造られません。森の中を歩いてみると、すでに土のない所が増えています。雨が降るたびに土が流れ出し、石がむき出しになっています。そこに大雨が降ると「森のダム」の働きができなくて、鉄砲水が出てしまいます。

【植林地帯の実態】

 いままでの植林事業は間違っていたのか?そうではありません。戦後復興では多くの木材が切り出され、我々の生活を支えてくれました。これからも植林は続けていくべきでしょう。

 それでは、どうすれば良いのか!? 本来、自然林では当然のことですが、混合林(針葉樹と落葉樹等)に戻せば良いのです。手入れができない場合は、約3分の1を針葉樹、3分の2を落葉樹に戻してやれば、雑木林の働きを活かした植林事業が一体化できます。
 しかしながらそんなに単純でないことも確かです。もうすでに自然林でないこれらの山は、さまざまな問題を抱えています。

 ましてや手入れがされていない人工林では、風通しが悪く、日光が当たらず、栄養がない森では、自然の営みが阻害され、すでに枯れ始めているところさえあります。

【植林保全対策】

 本来、人口林の場合、苗木を定植させてから成長に合わせて、間伐(適正な間引き伐採)をし、余分な枝を払い(節が少なく成長を早めるため)、下草刈り(草を刈り、引き詰めることで栄養補給になり、土の乾燥を防ぐ)をしてきました。これは大変な重労働を強いられます。

 しかし、そうして育った木が私たちの家の柱や板になって恩恵を受けてきました。自然林から材木として木を切り出しているだけではいつか無くなってしまいます。

 これからの対策としては、しっかりとした手入れがされている森はまだしも、植林したまま何も手入れをしていない所に対しては、国の指導のもと対策を講じなければなりません。手入れのできない森は、強制的に伐採(3分の2)することで、森を守らなければ絶滅の危機に瀕する事も考えられます。
 *手入れの仕方で針葉樹と落葉樹の適合割合は変わります。

 そうした山の手入れをすることで、花粉の発生はほとんど押さえられます。のみならず自然環境が守られ、私たちに大きな恵みをもたらしてくれるのです。
        
           

【政策提案】

 以上のことを検証してみましたが、ここで一つの提案があります。
 ぜひとも進めて欲しい政策提案とは、「山間地植林保全事業」(仮称)です。
 「山間地植林保全事業」とは、国策として国有林を初めとする私有山林を本来のあるべき姿に戻すべく、植林された針葉樹林を混合林に戻すことにより、花粉対策、自然環境保護対策、雇用促進対策、山間地過疎化対策、漁業対策、公共事業経済活性化、観光対策、大気汚染対策、等々の行財政改革の一端を担うことが可能です。

*手入れの行き届いた杉林からは、ほとんど花粉は飛散し
 ません。

*混合林にすることで、本来の山の自然環境が蘇ります。

*山の手入れをするための人材雇用促進が実現します。

*多くの人が山間部に入ることによる経済効果が見込ま
 れます。

*山の自然を取り戻すことにより、山の栄養が海産物に与
 えられます。

*山林事業による新たな経済効果が生まれます。

*山間農産物の収穫、キャンプ、釣り、新緑、紅葉など観光
 資源開発。


 森林保全事業は、私たちの生活には直接関係がない事のように思われがちですが、山と海に囲まれた環境の中で生活している私たち磐南地域の生活にも欠かせない重要な問題ばかりです。
 花粉症、鼻炎になった人であれば分かりますが、この季節は仕事に生活に多大な悪影響を与えていることは事実です。
 専門家の試算では、「花粉症、鼻炎における国民総生産の損失(2500億円)が見込まれる。」ということを発表しています。
 我々人間や自然界のあらゆるものが、長い間の「文明のゆがみ」に翻弄されているのかも知れません。
                                      

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