年中行事みきのくち3




6 甲子祭り

大黒天出現の図 みきのくち
即席耳学問

寛政2年(1790)

市場 通笑 作   北尾 重政 画

 甲子(きのえね)祭り甲子待ちともいい、甲子の日の夜、大豆、黒豆、二又大根などを供えて大黒天を祭り、子(ね)の刻(午前0時ごろ)まで起きていて、福運を祈る行事です。

 画像は、ある商家の正直を旨とする律義者(りちぎもの)の主人が、甲子祭りの大黒天を怠りなく祭り、いついつも、商売のことより息子の無事の成長ばかり祈っていると、掛け軸の絵像より大黒天が現れ、姿が隠れ鳥獣の言葉が分かる、「隠蓑、隠笠」をお貸し下る場面です。
 その後、主人が鳥獣魚の世界を見聞して家に帰って来ると、大黒天が再び現れて、「鳥獣も正直だが、正直だけでは人間の詮がない。人に上下の差別はあるが、心に上下はなし。兎に角、息子には、(孝経大学の)本を読ませて、人の道のあることを教えてやれ」との仰せで、息子の相伴の耳学問ながら、親子とも上々の人になりそうなので、いついつよりも目出度く春を迎えたというお話です。




 初巳(み)

聖観音宗浅草寺(東京都)弁天堂 弁財天とミキノクチ
弁財天には、伝来の違いにより、8臂(ヒ・腕)像と2臂像があり、浅草寺の弁天様は後者です。毎月の日に御開帳され、僧侶の読経があります。この弁財天は、白髪のため、「老女弁財天」とも呼ばれています。折り紙のみきのくちが、灑水器(しゃすいき)に結わえてありました。

初巳。新年初めての巳の日に、弁財天に参詣し福運を祈ることです。
巳待ち(みまち)。干支の己巳(つちのとみ) の日に、福神である弁財天を、夜遅くまでお祭りします。
巳成金(みなるかね)大祭。上野不忍池弁天堂で、9月の第2巳の日に、秘仏の弁天様(8臂)を年に一度御開帳し、実の成る金とみなして、「巳成金」の小判や福財布を授与するお祭りです。



7-2 巳待之説

磯田湖龍斉 画 ミキノクチ・蝶花形
 古状揃(★)  安永5年(1776) 西村屋与八版

弁ざい天女をまつる所也。十六童子ありてみなくわざい(家財)の名なり。みなふくをまもり給ふ。そのはじめは、天ぢくのししつう王よりかんじやう(勧請)して日本にては空海のときにいたりて巳待といふことをしれり。さいしやうわう経(最勝王経)にくはしくみへたり。惣じて世俗火をあたため、くもつをそなへて、仏神をまつる。



8 天神講
(真艸)世話千字文(★) 刊年不明
天保5年(1834)初刊
天満宮御神詠(ごしんえ)

宵の間や 都の空に住みもせで 心づくしの 有明の月

「この歌をとなえて拝すれば、手跡上達するといへり」

 菅原道真公(天神様)を祭るお祭りです。江戸時代、寺子屋が隆盛になり、天神信仰が一般庶民の間にも広がりました。寺子屋では、教室に天神様(天満大自在天神)の掛け軸を掛けて、読み書き算盤(そろばん)などの、手習いによる学習を行いました。寺子屋では、道真公の命日の2月25日と毎月25日には、天神講が行われました。本図は、家庭での様子で、子供の健やかな成長と、学問の上達を祈っているところです。