タイは若いうちに行け


《TRAVEL1》
タイ(1ヶ国目) 1998/3/11-17







1.いしだ壱成

 1998年、オレは生れて初めての海外旅行でタイへ行った。大学の卒業旅行で、男友達と3人での旅行だった。
 なぜタイに行くことに決めたのか? 理由は 「いしだ壱成」 だ。

 当時、彼が出演していたタイ航空のCMが放送されていて、そのキャッチフレーズの
「タイは若いうちに行け」
 という言葉が、妙にオレたち3人には説得力のある文句に感じられたのだ。とりあえず海外には行きたいが、特にどこかに行きたいわけでもなかったオレたちは、いしだ壱成を信じてタイへ行くことにした。
 そして早速旅行情報誌 「ABロード」 を見てツアーを申し込む。
「ユナイテッド航空で行く、首都バンコクと古都アユタヤ8日間」
 ツアー日程にある 「ローズガーデンにてタイスキの夕べ」 というのがなにやら良い響きだ。1人7万円ちょっと。タイはもちろん海外や旅行についてなんの知識もなかったわりには、今考えてもなかなかのツアーをチョイスしたと思う。

 ところが! この5年後にバックパッカーとなってからトラブル連続の旅をすることとなる 「Mr. トラブルメーカー」 のこのオレの旅人生は、しょっぱなからトラブルだった!
 初海外で、初めて異国の地を踏んだ瞬間にトラブルに遭ってしまう旅行者はけっこういるが、オレたち3人の場合はそれ以前の問題だ。
 なんと! 日本を出る前にトラブってしまった・・・。

 ツアーを申し込んだ旅行会社がつぶれたのだ!!
「マジかよ!」
「やられたーっ!!」
「おい! 壱成たのむよー」
「なにが若いうちに行けだ!」
 と、やり場のない怒りを壱成にぶつけてみても7万円は返ってこなかった・・・。本当に倒産なのか? はじめからサギだったのか? 真相は闇の中だ。

 それでもオレたちは壱成を信じた! 旅行会社がつぶれたその日のうちに新宿のHISへ行き、成田バンコク往復チケットを根性でGETしたのだ!! 翌日のフライトが3席だけ空いていたという奇跡!
 ・・・と、当時は思っていたが、今思い返してみると奇跡ではなく必然だったのだ。オレはこの時すでに、 「タビガミ様」 に呼ばれていたのだろう・・・。たぶん・・・。



2.オバチャン

 海外に特に興味がある訳ではなかった。
「卒業旅行だし、やっぱ海外じゃねー?」
 というノリ。ただそれだけだったし、行く寸前でさえ、目的地タイのことは何も知らない状況だった。某有名ガイドブックを3人で1冊だけ持ち、それを読んだ記憶はなし。
「ツアーだから大丈夫。」
 何が大丈夫か知らないが、事前にタイの情報を入れておこうという概念すらなかった・・・。

 ところが状況は変わったのだ。

 急に焦りだしたオレたち3人。最悪、初日のホテルだけでも。ということになり、なぜかオレがタイまで国際電話をかける。当時のオレは英語など大の苦手で、成績も良い方ではなかった。
「大丈夫、ガイドブックに載っているくらいのホテルだから日本語くらい話せるスタッフがいるはず。」
 のはずが・・・。

「Can you speak japanese ?」
 とオレ
「No ! English no ! 」
 ・・・。

 お手上げですぐに電話を切ってしまった。
「空港に着いたらまたホテルに電話しよう。」

 日本で電話をしてどうにもならなかったものが、空港から電話して状況が変わる訳がないのだが・・・。
 今考えると 「若さ」 とは恐ろしいと思う・・・。
 がしかし・・・、なんと・・・、結果、本当にどうにかなったのだから 「幸運」 以外の何物でもない。

 空港から近くの宿へ電話してみる。オレがなんとかかんとか英語で会話し、空港まで迎えに来てくれるということになった。よく話が通じたものだ。
 しばらくして本当に迎えが来た。車に乗り、土地勘のない暗闇をしばらく走った。小さな宿に着き、車を降りた。今でも鮮明に覚えている。ひとり500バーツを支払い、
「1500円か〜安いな〜。」
 などと本気で言っていたオレたち3人。実際には1部屋500バーツでも高いような宿だったが、そんなことを知る由もなく・・・。

 翌日からは、 「カタコト日本語使い」 のわけのわからん怪しいオバチャンにツアーに誘われ・・・、右も左もわからなかったオレたちは、そのオバチャンに着いていくことにした。やりたい放題に金を吸い取られてしまったのだが・・・。
 その事実に気付いたのは、この4年後のことになる。2回目のタイでその事実に気付いて愕然としたのだった・・・。

 まさにカモがネギしょって3匹も現れたのだ・・・。

 当時は何も知らなかった。知らな過ぎた。
 だが、それが幸せだった。楽しかった。若かった。青かった・・・。

 でも今は、そんなオレが羨ましくもある。



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