VOL. 20
● 1年戦争
第5話 【戦略】
『石原軍団損保』からの賠償金額の提示に納得できない私は、提示金額の根拠を求めると共にカスタム部品の賠償が全く含まれていない事を指摘しました。その後、車両本体の賠償金額は変わらないもののカスタム代金は請求金額の30%を保証するという旨の回答がありました。当然、この賠償金額及び過失割合も承服出来かねる為、再度、提示内容の根拠の説明を求めます。すると以下のような回答がありました。
車両は既にレッドブックに掲載されていない車両で発売後10年が経過しており、査定がゼロであるところを希少性を考慮して新車価格の10%を補償する。
カスタム代金は個人の趣味で行っているものであり車両そのものの価値には反映されない。被害者の請求金額は賠償交渉の常軌を逸している。
過失割合は判例タイムス151図(同一方向走行でのUターン事故例)より9:1とする。
当方の主張は弁護士判断によるものである。
この回答もFAXでのものでした。流石に礼を欠いた態度に直接、会って説明して欲しいとクレームを付け会社に山内さんを呼びつけました。説明にやってきたのは山内さんと上司である営業課長代理の山口さん(仮名)でした。
大将:「身体に傷を負って大事なバイクまで壊されて賠償が当方の希望にまったく届かず、そちらの言いなりでは私はやられ損ですか?」
山口氏:「こちらの提示金額は決して不当なものではありません。先日もご説明しましたが当社規定に沿って弁護士による精査を経たものです。」
「この賠償金額で車両を直すのも旅行に行かれるのも大将様の自由です。」
と言い放ったのです。紳士的に振舞ってきた私も流石に最後の一言にはカチン!ときました。
大将:「私は旅行なんかに行きたくはありません。お金が欲しい訳でもありません。バイクを元通りに直して欲しいのです。」
山口氏:「旅行へ言ってくださいは例として言ったまでです。言葉のあやです。揚げ足を取らないで頂きたい。」
大将:「例え話なんかじゃなくて、あなたにそういう気持ちがあったから出た言葉でしょ?」
「そちらがそういう態度に出るのであれば、こちらとしても裁判も考慮に入れなければなりません。」
山口氏:「それも大将様の自由です。」(不敵な笑み)
大将:「随分、自信満々ですね。おたくはいつもこういう態度で相手を脅して示談させているわけですね?」
「山内さんは一言も喋っていませんが今後は担当者が山口さんに代わるという事ですか?あなたも同じ考えなのですね?」
山内氏:「・・・」
山口氏:「担当はこれまで通り山内です。」
「こちらとしては最大限の賠償保証の提示をしています。今後、こちらから新たな提示をすることはありません。」
山内氏:「事故現場は走り屋の間ではUターン場所として認知されている場所と聞いています。」
「加害者はウインカーで後方に針路変更の合図は行いませんでしたが、ハザードランプはを点滅させ注意を促していました。」
「事故現場はUターン禁止場所とはなっていません。」
大将:「あなた方は、本気でそんな事を言っているんですか?」
「私は走り屋ではないし、Uターン禁止場所でなくても交差点内ではUターン禁止でしょ?」
「素人相手だと思ってなめた態度でのぞまないで頂きたい。」
山口氏:「大将様には内容を良くご検討していただき前向きな回答を頂けます様、お願いします。」
完全に交渉が手詰まりとなってしまった為、Force V4 Owners Club(以下、FV4)の会員向けに同様なケースで賠償交渉した事が無いか問い合わせてみる事にしました。すると数人のRC30&RC45の元、現オーナーから回答を頂きました。やはり最初の加害者側保険会社からの賠償金額の提示は、車両代金はレッドブックに掲載されていないと査定ゼロが基本との事。またカスタム代金は修理見積もりを提示したショップや交渉代理人の知識や交渉力で大きく差が出る事が分りました。多くの方は粘り強い交渉の結果、満額回答は難しいものの車両金額は中古市場相場、カスタム代金は請求金額の30%〜80%位を勝ち取ったとの結果となりました。興味深い事に誰一人として加害者側の最初の提示内容で示談した者が居なかったという事です。中には交渉の会話を録音して証拠として残していた人も居ました。
また日頃、お世話になっている『スクーデリア・オクムラ』様にも相談に行き、「お金が欲しいのでは無く、あくまでも車両を元通りにする事を要求する事。そして証拠を残すためにできるだけ書面で見解を提示して貰う事。」とアドバイスを頂きました。これはFV4メンバーからも同じ事をアドバイスされました。また、交渉のテクニックや請求内容、判例事例の参考として、【これだけ請求できる交通事故被害者の損害賠償:新星出版社(\1300)】を購入し『石原軍団損保』の主張を跳ね返すべく戦略を練ります。またインターネットでの判例事例や交渉方法等の情報も調べました。一番、役に立ったサイトは『石原軍団損保』でした。(笑)
続いて自身が契約している『損保日本』の代理店にも相談します。先方の侮辱的な発言も報告し、『損保日本』が行っている契約者向けの無料弁護士相談会で相談する事を勧められます。早速、予約を取ってもらって簡単な状況説明用の資料を作成して相談に訪れました。弁護士へは事故状況や先方の賠償提示内容,これまでの交渉状況を説明します。そして『石原軍団損保』の提示や交渉内容には「ヒドイ内容だねぇ・・・。」と弁護士の一言。
まず、車両金額の10%の提示については、レッドブックに掲載されている車両で行うのは保険業界では常識である事。しかし、これはあくまでも保険会社が査定するのに活用しているツールの一つに過ぎず絶対基準では無い。裁判等で中古市場相場の請求すれば充分、勝算があるとの事。次にカスタム代金についてはこんな例を出して説明をしてくれました。
ポルシェに1000万円の金の壷を積んでいて車両も壷も損害を被った場合、双方の賠償を請求できるが1000万円の金メッキをした車両のメッキ費用は補償されない。
つまり金メッキというカスタムは、オーナーが趣味で行っているもので走行上、必要な機能ではない。金の壷は物損で補償できるが金メッキは何にも該当しないので、カスタム費用の満額賠償を拒む『石原軍団損保』の主張も理にかなっている。しかし、最近は4輪車のアルミホイールやオーディオ代金等が補償される事例もあり、ようは交渉次第との事。また過失割合は先方主張の9:1は判例タイムスの主張通りであり、あくまでも加害者側の都合の良い事例を出して来ているだけで今回の事故状況では10:0主張でも充分、勝算があるとの事。交通事故の賠償交渉では加害者側の保険会社は賠償金額を少しでも少なくするように色々と策を講じてくるので、そのままで示談すると多くの人は取れるべき賠償内容を手にする事無く、相手の言いなりになってしまうとの事でした。そして今後の交渉上のアドバイスや交渉が暗礁に乗り上げて裁判を行うのであれば、弁護を引き受けてくれるとの事だったのでお願いする事にしました。
次回、いよいよ反撃に転じます。