[その四]

天城山隧道

物語中、天城山隧道のシーンは二回登場してきます。前編に一回、後編に一回です。


前編では、洪作の通っている小学校の代用教員になったさき子が中川先生と恋仲に

なり、そして妊娠、出産後結婚して直ぐに胸の病気を患い若くして死んだ、その葬式の

日です。居たたまれず、部落の子供たち二十人程を誘い、がむしゃらに歩いた時です。


後編では晩年間近の老いたおぬい婆さんが、生まれ故郷である下田へと、ふっと思い

ついて洪作を連れて一泊で訪れた時です。


下田や、おぬい婆さんの生まれ故郷の宿から馬車で一時間の近郊の漁村を訪れた

時のシーンも詳しく書かれていますが、大小の船で埋まった小さな入り江のある漁村の

場所は特定されてはいません。断片的な記憶と、おぬい婆ちゃんから聞いた想い出話

から書かれたものと言われています。 (作者推定:須崎)


おぬい婆さんはその約一年半後の正月の松が明けて直ぐに、ジフテリアを患ってこの

世を去って行きました。洪作が中学に進学する為に、両親の元へ行く日が間近に迫っ

ていた時のことでした。曾祖父の死後、洪作を愛の対象として生きたおぬい婆さんの

はかない人生が思い浮かんでくる場所でもあると思います。




[大正時代の天城山隧道−林 良平 撮影]




[その五]へ

[Back]


[Home]