どこか似ている。
そう感じたのは仕草や口調ではなく、最初にメガ豚まんLLセットを食べたとき。
そしてすぐにそれを打ち消した。
似ているはずがない。あの頃食べさせられたのは似ても似つかない不味い雑草粥だった。自分の好みど真ん中の豚マンを食べて、どうして彼を思い出したのか。少しだけ考えて、面倒になって止めた。
その後、笑顔が似ているだろうかとも思ったが、どこか意地の悪そうな、何か裏のありそうな。そんな表情ばかりでどこも似てなどいなかった。
闘っている間は彼を思い出したことなどすっかり忘れるほど、どこも似てなどいなかった。
二度目は差し入れのギガ豚マンを食べたとき。
豚の丸焼きを挟んだそれは革命と呼んで差し支えないと思った。そしてまた、彼の顔が浮かんだ。
美味い物を食べると思い出すのだろうか。
自分を笑わせるために、やりたくもない仕事を引き受けたのだ。もうすぐお腹いっぱい食べさせてやると、そうしたらきっと笑うと、確信を込めて言っていた。
あの惨事を目にするまでは、決して笑ってやるものかと、頑なになっていた。
その所為かもしれない。
美味い物を食べると思い出す。それだけだ。
丸く膨らんだ腹を撫でて自分にそう言い聞かせた。
三度目は。
「夜食だよ。さぁ食べて、食べて。たーんと食べないと傷がよくならないよ!」
やっと差し入れの分が片付いたという頃、本人が現れた。
「自分で殺しかけといてよく言うぜ」
「やー、それは勘弁して欲しいのよね。こっちも任務だったわけだし。お詫びってのも変だけど、こうして差し入れもするしね」
またもや大量に運ばれてきた豚マンに自分と大喰らいのメス以外はげんなりとしていた。
「いや…その気持ちだけでもう十分…」
「おいおい、坊ちゃん、しっかりガッツリ食べないとよくならないぜ?」
「食べすぎはむしろ毒です!君こそカロリーを気にするべきだ!」
そこで明るい笑い声が聞こえた。
「喧嘩する元気があるなら心配いらないみたいね!」
嬉しそうな笑顔が、昔見た笑顔と重なる。顔のパーツが似ているということはない。強いて言うなら男らしさがやや足りないという雰囲気が共通しているくらいだ。
「ん?どうかした?」
しくじった。似ていないだろうと確認したくて顔をまじまじと見つめすぎたのだ。
「別に…」
「そう?」
なぜこの絶品豚マンと、あの不味い雑草粥が繋がってしまうのか。作った本人に聞けば何か分かるだろうか。
「おたく…なんでこんなに食べさせたがるんだ?」
「? だって…食べると元気が出るでしょ?」
酒店をやってるくらいだ。料理は好きなのだろう。問いに答える笑顔は相変わらず誰かさんと重なっていた。
「美味しいもの食べると誰でも自然に笑顔になって、それを見ると私も嬉しいってわけ。料理ってそういうものなのよね」
笑って欲しくて作られた食べ物。
笑っておくれ。
死の間際、いつも以上ににこやかだった彼の言葉が蘇った。
同じ思いが込められた食べ物。それを作った相手。
そうか、だから。似ている、と。
「私のモットーは楽して楽しく≠セから。手っ取り早く自分が楽しくなるには、周りに美味しいもの食べさせちゃえばいいのよね」
納得しかけたところに、はぐらかすような言葉が重ねられた。
なんだ、やっぱり似ていない。
そう思いかけて。
打ち消す。
表面上はどこも似ていない。姿かたちも性格も。
自分も他人も笑顔でいられたらいい。
そういう根本が似ているのだと今度こそ納得していた。