二重奏(ジュエット)

頭が痛い。
なにをどう戦ったのかよく覚えていない。
敵の武器には毒が仕込んであったのだろう。どこに傷を負ったのか分からないほど全身が痛む。
意思とは無関係に引き攣る筋肉。痛み以外の感覚が他人事のように遠い。
息が苦しくて咳き込むと夕焼けよりも真っ赤な血が出た。
これが死かと思うと痙攣とは違う震えが全身を襲う。
頭が痛い。
見回せば周りは仲間の死体だらけだった。
先に逝ったやつらはいいなぁ。
毒で死ぬのは苦しい。
怖い。
苦痛のあまり仲間の骸にそんな感想しか出てこない。
頭が痛い。
思い出したように双子の兄弟の姿を探す。自分と同じように起き上がってくる者の中には見つからなかった。
頭が痛い。
頭が痛い。
頭が痛い。
頭痛に呼ばれたような気がして振り返る。
そこには頭に剣をつき立てた自分が倒れていた。
自分がそこで、死んでいた。
思わず痛んでいた頭に手を置いた。
双子は意思が通じるとか、離れていても互いに何かあると胸騒ぎがするとか。そんな噂は本当かとよく尋ねられる。
自分たちの答えはいつもノーだった。
姿かたちも人が言うほど同じとは感じていなかったし、性格もそれぞれ違うところがあるとよく話した。
他人と比べれば気はあうし、意思も通じる。でもそれは双子だからというより、普通の兄弟となんら変わりのない、家族だからというのと同じことだと思っていた。
頭が痛い。
あの噂本当だったんだなァ。
自分の死体に話しかけた。どうせなら生きているうちに知らせて欲しかった、と。そしたら一人で逝かせやしなかったのに。苦しいことはいつも二人で半分に薄めてきたのに、水くせぇな。
なんて。今更だから言える戯言。
きっと戦ってる間は必死で気づかなかっただろう。
自分がここで死んでいる。
生き残った自分は・・・じゃァ、どっちだったかな。
「唄いませんか?」
ブルックがそう言うと駆け足で死に向かっていた体が少しだけ熱くなった。
自分の死体から離れて重い体を引きずるように少しだけそちらへ移動する。
たった一言で急に死が恐ろしくなくなった。
あいつが船長代理でよかったよ。
まったくだ、きっとヨーキ船長だっておんなじこと言った。
性格も見かけも全然違うのに。
なんでかあの二人おんなじこと言ったりするよな。
どうせ死ぬなら楽しくなんて。だから唄おうなんて。こんなときに。
船長かブルックしか言わねェよな。
おれたちより双子らしい。
違いねェ!
頭の中で二人で笑う。
側にいた仲間が肩を貸してくれた。血塗れのどの顔も少し呆れたようで、それ以上に誇らしげだった。
この船に乗れたことを嬉しく思う顔だった。
「唄うってよ。やれそうか?マリィ・・・いや、マディか?目が霞んじまって」
「唄うさ。ラブーンにミズータ兄弟の声を聞かせてやるんだ」
どうせ死ぬなら楽しい方がいい。
楽しいことはなんだって一緒にやって二倍にしてきたんだ。
最期も一緒に唄おう。
なぁ、兄弟。


履歴

20090415 某ブログにて公開
20100228 本サイトにて公開
タイトルはこちらからお借りしました。