珍しいね、おれとマリィを別扱いなんて。
そうだよ、船長だけじゃなくて、みんなそうだけど。
大丈夫なのかよ、面会謝絶だってドクター言ってたのに、なんで?
そ、そりゃ…侵入しようとしたのはおれ達だけどさ。
起きてていいの?
無理してる顔。…うん、分かるよ、そのくらい。船長のことだもん。寝てなよ。
は? おれ? 別に?
これは…ああ、ゆうべ、マリィと遅くまで話してたから。
……まぁ…そんなところ。
みんな、そうなんじゃないかな。そりゃ、怖いし、心配だし…。だって…。…。船長には言えねェ。だって一番それ思ってるのきっと船長だろ。…そう、そうならいいんだけど。
そうかな? 船長に比べたら全然だよ。どう見たって一番重症じゃん。
思ったより元気でよかった。
でも、無理しないでよ。
ちゃんと寝ろはこっちのセリフだっての。
◇
大丈夫じゃない。寝て。早く。
はいはい、いいから、寝る。ねーてーくーだーさーい。
痛い? ドクター呼ぶ? …意地っ張りだなァ…。
まったくもう…ドクターが「船長が呼んでる」って言うから何事かと思ったら…意外に元気なんだね。無駄に元気なフリするの体に障ると思うけど?
…そ、そんなわけないでしょ。おれは何なの? 船長の嫁か何か?
ハハ、よかった、まだ、笑えるんだ。
ん? 船長が、ですけど。あァ…まァ、そうかな。おれも、かな。
人の心配してる場合じゃないでしょう。
ちょ、眼鏡…。返してください。怒りますよ。
別にこんなの、いつものことだから…。
え? あ…そういうことか。そうだね、みんな…痛い人も痛くない人も、そのほうがいい。
いいと思いますよ、みんなで考えて…間に合えば今夜にでも。
でも、なんで、おれ?
…だって、ブルック辺りに直接言うかと思って。
え、ちょっと、なにそれ、失礼。
おれが一番なの? え? 二番…? び、微妙だなぁ…。一番じゃなくて喜ぶところ?
はいはい、船長は眠れる曲をご所望だって、みんなに伝えますから。
今の船長は寝るのが仕事。
◇
あ、寝てなきゃだめなのに。
それ…痛い? …そうか、うん、でも無理しないで欲しい。
ああ、あの曲、聞こえる?
眠れるようになった? なら…よかった。
うん、みんなで考えた。おれ、作曲はよく分からねェけど…優しいのがいいって思ったから。適当に弾いたのをちょっと使ってもらえた。
あ! そう、そこ、おれが作ったところ。なんで分かるの?
そ、そうかな…。あ、ああ、ありがと…。へへ、なんかくすぐったい。
すごいなァ…船長は。やっぱり船長だなァ…。
おれ? おれは元気が取り柄だから。大丈夫。
…本当は、眠りたくなんか…ないって思った。船長が苦しいのに、何もできなくて、時間が寝てる間に過ぎちゃうのが怖くて。
でも、それじゃダメだから、あの曲作ったんだろ?
あれ弾いてると自分も落ち着いてきて、眠れる。船長も寝たかなって思いながらいつの間にか寝ちまうんだ。単純だって思うけど…でも、みんなもそうみたい。おんなじだ。
あとは…昼寝の人数増えたかな?夜寝れないから、昼間寝ちゃうのかもしれない。
おれは枕代わり。うん、いいんだ、おれ、役に立つなら枕でも。
…うん、そうだな、そうなる、きっと。
船長のところは空けて待ってる。
◇
起きてていけないんだー。ドクターに言いつけちゃうぞ。
マディだけ呼ばれておれを呼ばないってどういうことだよ。セット扱いはヤだけどよ、ハブキはもっとヤなんだよ。船長だってそうじゃん。
うん、寝てるよ。みんな。あの曲効き目抜群。
マディも目を覚まさなくなったみたい。おれが寝てて知らないだけかな? おれ鈍感だからぐっすり快眠。
てか、船長時々一人ずつ呼び出すの怖いんだけど。
…だって、なんか、お別れとか言われたら…とか、さ。思うよ。そりゃ。
笑うところじゃないだろ!? あれ!? なんか面白いこと言っちまったか!?
まったく…あのキザ眼鏡はなんか知ってるみたいだけど、知ってるって事以外言わねェし。病人の船長も面会謝絶のくせに元気だし。なんだこれ!?
…船長こそ、本当に寝てる? いや、そーゆーことじゃなくて。
眠れてる?
痛いし、苦しいんでしょ。…いいよ、無理して笑うのやめてよ。
心配くらいさせてよ。仲間の心配して何がいけないんだよ。それともおれ達仲間じゃなかったのかよ。まだお荷物のまんまかよ。
………ごめん。
…分かってるよ、ごめんてば。
何度でも謝るから。怒らないでよ。船長、疲れちゃう…。そうだけど、悪いのおれだけど。
…おれってホント馬鹿だよな。船長怒らせて、どーすんだっつーの…。せっかく顔、見れたのに。
…? さぁ…ホントに夜はあの曲始まると寝ちまうんだよ。
昼寝?
ああ、そうだな、メンバーは大体決まってるかな。
夜、あの曲弾くやつは昼間寝てるって感じ? 他にも何人か…そうだな、夜寝てなさそうな顔色のやつかな。
あー…でもブルックとかは昼間も寝てないかも。あいついつ寝てるんだろ?
じゃなくて、船長は人のことより、自分がちゃんと寝ること!
◇
おいおい、起きてるよ、この人…。重病人は寝ててくれないと説得力がねェ。
で、何の用?
ああ、おれは夜も昼も眠れてる派だけど。
眠れてないやつ、ね。ブルックとドクターじゃないか?
あとは船長?
いや、ドクターがね、言うんだよ。病人が苦しんでるのに何時間も寝てられるかってね。二時間寝たらいいほうみたいだな。
ん? だから、おれは夜も昼も寝るから、変な時間に目が覚めちまって、だから寝てないやつらと顔合わすって訳。
実際、眠れないほど苦しいんだろ?
クスリとか、ねェのかね。治療じゃなくても、眠れるやつとか。…それで眠れりゃとっくにドクターが船長に一服盛ってるか。
おれも毎晩弾くけどさ、痛みと音楽って…勝ち目あるとは思えねェなァ。
次の島にいい薬でもありゃいいんだけど。
…分かってるよ、おれ達が弾けば船長は眠れる。そう思わなきゃ誰も眠れない。言わねェよ、誰にも。
そうやって強がってる暇があったら、ちょっとでも眠ってくれよな。
◇
そう、ドクターとブルック。
ブルックはほら…こんなときだからこそしっかりしなくちゃって空回ってる感じかな。心配で、でも信じたくて、いてもたってもいられないって、ぐるぐるしてるみたいですよ。
船長が見たら笑っちゃうかもしれない。それくらい、くるくる、本当に忙しなく動いたり騒いだり。
あの曲を仕上げたのは彼なのに…彼だから、かな。ブルック自身には効果が薄いのかもしれないね。
ドクターは…そう、見ての通り。正直船長より、ドクターが先に倒れるんじゃないかって…。
ああ、そうですね。プロだから、そういうところはちゃんとしてるとは思うけれど。
…ドクターとブルックは…弱ってしまいたいのかもしれないですね。そうしたら伝染するかもしれない。
うん、うん…。そうなんですよね…。
みんな、同じ気持ちなのにね。
私だって、そう。みんな口に出さないだけ。
船長についていきたいって、どこまでも。
ふふ、そうですね、馬鹿なんです。だから海賊なんてやってるんじゃないですかね。
…? これは?
へぇ…なるほど? うん、いいと思いますよ。やってみましょう。お疲れの二人に船長からの愛情たっぷりの紅茶でも差し入れますよ。
でも船長は飲まなくていいんですか?
…それはどうでしょう。眠れている人の顔はもう少しクマが少ないものです。
船長が今飲んで、眠ったのを確認してから、ね。
嫌がってもだめ。手伝いましょうか? …そう、いい子。
私ですか?
大丈夫ですよ。よく寝てよく食べなきゃこの体型は維持されてないはずです。
子守唄でも唄いましょうか。
冗談です。
眠れるまで何か話でもしましょうか。
…あの夜に弾く曲、あのタイトル、考えるとか。
ええ、みんな夜の曲とか、おやすみの曲とか、そんな名前でしか呼んでないんです。
優しくて、単調で、繰り返す…でも退屈じゃないあの曲。
私も少しお手伝いしましたよ。…ありがとうございます。
さて、なんてタイトルがいいでしょう?
―眠り歌・フラン