散歩

じーっと。見つめているようで実は何も見ていない。
チョッパーの調合作業を見つめるルフィの目。瞬きさえ忘れたようにじっと、だが何も見ていない。
ごりごりと。音をたてて何かをすり潰している手は実は力がほとんど入っていない。
調合と称して乳棒を動かし続けるチョッパーはチラチラと扉の方ばかり気にしている。
ごぉごぉと。大いびきで寝ているようで…本当にぐっすり眠っている。
扉の近くの壁に寄りかかってゾロは昼寝の真っ最中だ。



ゾロ起きて。お・き・て!
買い物行くからつきあってよ。いいから。黙ってついてくる。わかった?
チョッパー、何か買ってくるものある?
アンタのお肉に払うお金は一ベリーもありません。
ああ、うん。大丈夫。メモどおりでいいんでしょ?買ってくるわね。
じゃ行きましょ、ゾロ。

こっち。はぐれないでね。探さないわよ。
ヤガラじゃなくて歩いていきましょ。近いから。この町入り組んでるけど歩いてみるのもなかなかオツよ。迷子にさえならなければね。
なにが?別に?怒ってないわよ?
そうね。アンタと散歩なんて珍しいかも。
でも珍しいのはそっちなんじゃない?
あたしがもし「ウソップがあんたのせいで戻って来れなかったら私がこの一味抜けてやるわ!」て言ったらどう思う?ヒステリーな女だって煩わしいと思うでしょ。
そのくらいヒステリックだったもの。珍しいっていうか…らしくないのよ。
あたしも一度一味を抜けたことあったわよね。抜けたっていうか元々手を組んだだけって言い訳は一応あったけど。戻ってから別に謝ったりしてないんじゃない?いいの?
…まァそうだけどね。嘘も吐いたし。ウソップとは意味が違う。
わかってるわよ。あんたが正しいのは。でも正しいのと受け入れられるのって違うじゃない。あたしはルフィがダメって言わなければ今すぐ迎えに行きたいって思ってる。あたしに言わせれば筋を通すだのケジメをつけるだの。下らないもの。価値観の相違ってやつよ。本当に大事なものを真っ先に手に入れてから端々を処理した方が後悔しない。合理的でしょ。
男って面倒ね。
あ、このお店。待ってて。買ってくる。ウロウロしないで。探さないわよ。


「おれのこれ、見てて楽しいか?」
「…んぁ?ん、面白いぞ。いつ食えるんだ?」
「食いもんじゃねェよ!飲み薬じゃないからいつまで見てても食えねェ」
「えぇー」
「…おれ、ウソップが何か発明してるの見てるのは楽しくて好きだ」
「うん」
「見てる間ずっと面白いこと言ったりやったりしてくれるんだ。すごく面白いんだ」
「うん」
「…ルフィ、おれの調合見てて…楽しいか?」
「んん。なかなか美味そうだ」
「おれを見んな!」


お待たせ。全部買えたと思う。薬の材料だからこれは必要経費で落とします。一番使うあんたからお金もらいたいくらいだけどね。仕方ないわ。
買い物?うん。チョッパーに頼まれた分だけよ。ついでみたいに言わないと頼みにくいでしょ。
アンタあの部屋に居たいの?居たくないかと思って連れてきてあげたのに。
二人があそこにずっといるのは居たいからで。あんたは義理で一緒に居る必要ないと思うけど。責任とか感じちゃってる?
…。あ、そ。好きにすれば?
あ、待って。水水肉買っていくから。
おばさん、三個…いえ五個ちょうだい。十個で一つおまけ?ありがとう、でもいいわ。五個下さい。彼こう見えて小食なの。
…なによ。だって一歩も外に出ないルフィなんて見てられないんだもの。トイレに行く時だって「10秒で出してくるから見張っててくれ!」なんて。異常だわ。あんたが厳しく育ててる間はあたしがちょっと甘やかすくらいじゃなきゃ。
すいません、おばさん。やっぱり十個もらうわ。彼おすごく腹空いてるんですって。





あら、剣士さんお目覚め?フフ、そんなに睨まないで。本を見に行きたいから少しつきあってもらえるかしら。また私が姿を消したらややこしいから見張っていた方がいいんじゃない?
何か欲しいものはある?
お肉ね。水水飴もね?ええ、忘れないようにするわ。
…そうね、この辺りの医学書ならこの町にもあるんじゃないかしら。最新号が出ていたらこっちもね。わかったわ。
じゃァ剣士さん、行きましょうか。

ごめんなさいね。起こしてしまって。夜は剣士さんが代わりに待っててあげてるんでしょう?…そう?それならそういうことでいいけれど。
ヤガラでいきましょう。この町で水上散歩もしないままだったから一度乗ってみたかったの。また誰かに脅されて姿を消さないようにちゃんと見張っていてね。
…素敵な町ね。活気があって。この町の人たちにも迷惑をかけた張本人なのにこんなのは不謹慎かしら。
長鼻くんのこと?…それは私が口を挟めることじゃないわ。だってメリー号や長鼻君と船長さんがそんなことになってるなんて知りもしないで。私はごく個人的で些細な事情で一味を勝手に抜けようとしていたのだし。そのあとも沢山迷惑をかけたんだもの。だから待つ権利も迎えに行く権利も私にはないと思う。だからこうやって町をフラフラしているのよ。ええ、とても楽しいわ。
私もルフィにはっきり別れを告げて別れたんだから…「ありがとう」じゃなくて「ごめんなさい」の方がよかったのかしら。
…あら、そんな風に言ってくれるなんて。フフ、だって剣士さんは私のことずっと仲間って認めてくれなかったじゃない。嬉しくて。
でも…だったら何故長鼻くんのことは許せないのかしら。私は決闘を知らないけれど、そんなことがあったなんて信じられないくらい迎えに来てくれたときの貴方達はいつも通りの仲間≠セった。
船長を立てるのは勿論大事だし。剣士さんの言うことは正しかったと思うわ。でもなんだか言った本人が一番長鼻くんを信頼しているみたいで不思議だったわね。謝罪してくると確信してなくちゃ言えないもの。あんなこと。
フフ…そんな顔しないで。苛めるつもりじゃないの。気持ちは皆同じ。そう言いたかっただけ。
あら、もう着いたのね。賢い子。剣士さんは本に興味ある?
そう。なら申し訳ないけれどそこで少し待っていて。私を置いて帰らないでね。今度いなくなったら皆に叱られちゃうから。


「なァ、ルフィ」
「ん?」
「三人で釣りをしたりさァ…」
「うん」
「盗み食いとかさァ…」
「うん」
「おれ、すごく楽しくて」
「…うん、おれも毎日楽しいぞ」
「…うん。これからも毎日楽しいよね」
「モチロンだ!今までなんて比べものにならねェくらい楽しいぞ!」
「そうだよな!」
「おう、そうだ!」
「…だよな」
「…おう」


思ったより医学書が沢山そろってて見繕っていたらちょっと時間がかかったわ…待ちくたびれたかしら。ごめんなさい。重たいけれど大丈夫?…愚問だったわね。え?船医さんの本だけよ。私が欲しい本は航海士さんと一緒に来た時にもう買ってあるの。
あら、剣士さんとデートしたかったからという理由じゃいけない?…そんなに怒らないで。冗談よ。
水水肉と水水飴も忘れずに買わなきゃね。
一日中部屋の中にいるのって船医さんにとってはきっとそんなに苦痛じゃないと思うの。本も読めるし。部屋の中で出来ることはたくさんあるわ。私もどちらかというと部屋でじっとしてるのが好きだから誰かが欲しいものを調達してくれるなら何日でもじっとしていられると思うわ。
なぜ剣士さんがそんなに焦ってルフィを船長らしくしたいのか私には分からないけれど。ルフィには今の状態はかなり辛い状況だと思う。彼はじっとしてるの得意じゃないでしょう。待っているのも好きじゃなさそうね。
だからお土産は多めに。頑張っているご褒美にこのくらいはいいでしょう?
すいません、水水肉を十個いただける?…まぁオマケがつくの?ありがとう。ええ、彼は水水肉が大好物なんです。嬉しそうでしょう。水水飴はどちらで買えるのかしら?…わかりました。ご親切にありがとうございます。
…今の奥さん変な顔して貴方のこと見てたようだけど…。そう?ならいいのだけれど。じゃあ飴屋さんに寄って帰りましょう。
楽しいデートだったわ。…怒らないで。冗談だから。





オラ、起きろクソマーリモ。ん?なんかそんな奴いたような…まァいいか。買出し行くぞ。つき合え、荷物持ち要員。
チョッパー、何か欲しい物があるか?
テメェは肉食いすぎだ、馬鹿。
なんで増えるんだ。「じゃァ」の意味が分らん。
ああ、これならこの島でいいのが手に入るから買って来てやるよ。ついでだ、気にすんな。
ほら来い。るせェ。いいから来い。

はぁ〜。なにが悲しくて美しい水の都を男と水上デートかねェ。死にてぇ気分だ…。
あーあー。煩ェな。おれだって好きでお前なんか誘うかってんだ。ナミさんやロビンちゃんなら万倍喜んでお出かけだっつーの。
…そりゃあのときはお前が一方的に正しかったからそう言ったけどな。お前が黙ってればおれはルフィを止めなかった。
何故ってそりゃお前…船長≠ェそれでいいならそれでいいんじゃねぇか。言っとくが…あの時点で一番船長を立ててなかったのはお前だぞ。
お前のご高承なプライドとはちょっと違うがそれもアリだろ。あの時船長が迎えに行こうとしたのをお前が許さないってのは。それはそれで筋が違わねェのかよ。
…ま、おれも気持ちが分らんじゃないから賛同したんだけどもよ。船長が船長らしくなきゃその下のおれ達はもっと低く見られる。あいつはもう三億の首なんだからこのくらいの筋の通し方くらい分ってた方がいいだろう。いや分ってくれなきゃこっちが困る。
…ああ、おれも言ってて寒気がする。お前と意見が会うなんて最悪だ。
お、あそこの店だ。お前そこでヤガラ見張っとけ。迂闊に動くなよ。迷子のお尋ね放送流されたくねェだろ。


「ウソップはさ」
「ん」
「いつも面白いこととか言うよな」
「ああ」
「そんで、すごい情けないことも言うよな」
「おう」
「嘘も吐くし」
「ウソップだからな」
「…もし、ここに来てウソップがいつもみたいにしゃべったら…」
「なんだチョッパー、お前そんなこと心配してんのか?」
「だってゾロが言ったろ!?ウソップが最初に謝罪しなかったら…!」
「だーいじょうぶだって」


おう、待たせたな。
ああ、チョッパーのメモにあったのだけだ。
あ?テメェそんなこともまだわからねェのか?レディ達の気遣いも植物の脳みそにゃ理解不能か。嘆かわしいなァ全く。
お前が毎日あそこにいるのは単にあいつらと一緒に待ってるだけかもしれねェが。あの二人にとっちゃ見張られてるようなもんなんだよ。
ウソップが帰ってきて、第一声が「ごめんなさい」な訳ねェだろうが。大方「ただいまー諸君!元気だったかね!なんだなんだ?元気がねェなァ?こんなところでゴロゴロしてないで一緒に釣りでもしようぜ!」だの「そうかそうか…みんながそこまで言うのなら…副船長としてなら戻ってやらないこともない!」とか。そんなんだ。多分。
そこにお前が居たんじゃあの二人だって誤魔化しようがねェじゃねェか。理想の船長像押し付けるのは勝手だけどな。無理難題ふっかけすぎだ。
だからお前を連れ出す必要があったんだよ。何も光合成させたくて外へ出したわけじゃねェ。
なんだよ。大丈夫って。あのウソップに開口一番ごめんなさい言わす方法でも知ってんのか?


「心配しなくてもおれ達の耳に届くウソップの最初の言葉は深い謝罪≠ノ決まってんだ」


…あァ。なるほど。そうか。そうだな。ハハ。違いねェ。
じゃあ光合成も済んだところでお部屋に帰りましょうかね。水水肉でも買って…。
あ?ルフィに肉くらい普通だろ。は?なんであそこはだめなんだ?あそこで買うと十個に一個オマケしてくれていいんだぞ。一個分けてやるからいい子にしてろ。
こんにちはマダム。今日も一段とお美しい。水水肉を食べるとそんなにきれいな肌が保てるんですか?…じゃあその水水肉を十個いただけますか。ええ、僕はそんなに食べきれませんよ。こいつが食べるんです。この筋肉を維持するのにマダムの水水肉が一番だと言うので買い与えてるんですが。マダムのように綺麗になるかどうかは…元がこれですからね。どうでしょうか。何か吠えてますがうるさい犬みたいなもんですからお気になさらず。いつもありがとうマダム。
…やけに見てたがお前も知り合いか?なに凹んでんだ?分らん生物だな…。
じゃあ帰るか。もうお前を散歩に誘わなくて大丈夫だとナミさんたちにも言っておく。好きなだけ昼寝するがいい。もう誰もお前を無理矢理散歩させたりしねェから。
…散歩はもうしたくても出来ない???なんだそりゃ。
意味が分らんが。とりあえずこんなに綺麗な町を散歩も出来ないとは…お気の毒に。



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20061220 某ブログにて公開
20100303 本サイトにて公開