ひさびさ海外
《TRAVEL4》
香港、マカオ、中国 2006/8/12-16
141.チケット求めて
オレの働いている会社はとにかくいい加減だ。夏休みがいつからいつまでなのか? 7月の終わりだというのにそれすら決まっていない。
今回オレは「そろそろどっか行こうかな」的な考えでいるのだが、その予定も立てられないのだ。第2の故郷バンコクに行こうかな? まだ行ったことのないフィリピンか台湾も良いかな? 本当はインドとかスリランカとかネパールあたりに行きたいけど・・・。
などと旅の妄想ばかりが先走る。
やっと夏休みの予定が決まった。9連休! 思っていた以上に長い。
しかしもう夏休みまで10日ほどしかない。チケットなど取れるのだろうか?
インターネットでも、HISでもチケットは見つからなかった。こんな時期だし当然だ・・・。半ばあきらめつつも、最後の望みを託してJTBへ。
「バンコクに行きたいんですけど、まだ空席あります?」
対応してくれた女性はパソコンをいじるとすぐに答えを出した。
「ちょっと今からですと難しいですねー」
「ですよね・・・」
だがここは最後の希望。ここであきらめては旅の神サマ、「タビガミ様」は微笑んではくれない!
「じゃあ、どこでも良いんですけど、東南アジアあたりでどこか行けますかね?」
「はぁ」
タチの悪い客だ。「どこでも良い」なんて言うヤツがいるのだろうか? だが実際オレはどこでも良かったのだ。外の空気さえ吸えればそれで良かった・・・。
「あっ、クアラルンプルならありました。ですが・・・正規料金になってしまうので20万以上してしまいますが・・・」
「ですよねー・・・、はい、ありがとうございました」
今までにも何度か長期休みの直前にチケットを探したことがあった。とうてい空席などないことは百も承知だった。今回も「タビガミ様」には呼ばれなかったのだ・・・。
142.新たな一歩
あさってから夏休み。仕事もあと2日とあって、みんなすでに休みモード全開。チケットが取れなかったにもかかわらず、オレもなぜかバカンス気分だ。
そんな仕事中。携帯が鳴った。「タビガミ様」からだ!!
この前、「どこでもいいから、どっか行きたい」と言ってオレが困らせたJTBの女の人からの電話だった。
「香港行きのチケットに空席が出ましたのでいかがかな? と思いまして連絡させていただきました」
「えっ! マジすか?」
「あさって発になりますが、ご予定はいかがでしょう?」
JTB! なんて親切な会社なんだろう。行きますよー! オレは行きます!! あさってだろうが明日だろうが、今からだって行きますよ!
値段もこの時期にしては安かったし、オレは迷わず香港行きを決めた。4泊5日。短い旅だが香港ならこのくらいでちょうど良い。
と、それからわずか48時間後。オレは成田を飛び発った。新しいパスポートでの最初の海外。あの旅を終えてからの最初の旅。オレにとっての新たな旅の一歩だ。
香港に着いたのは夜。前のオレだったらバスにのっただろうが、今のオレはバリバリのバックパッカーではない。高くてもその分速い地下鉄に乗って九龍を目指す。
ところが、どこで降りれば良いのかが分からない・・・。今回はガイドブックはおろか、カメラさえも持たずに日本を出てきたのだ。オヤジに借りたちいさなリュックひとつに最小限の着替えのみ。香港ならまだオレの記憶にも新しい町だし、漢字も読めるので大丈夫だろうと思っていたのだ。しかし、初っ端からこれだ。やはり失敗だった。
オレは地名の記憶を頼りに地下鉄を降りる。
これがとんでもない間違え! 「分かんねーなら、誰かに聞けよ!」と思ったが、駅を間違えた今となっては後の祭り・・・。この列車が終電だったからだ。
オレの目指すは重慶(チョンキン)マンション。安宿が集まっているビルだ。
この駅からチョンキンが近いことは確かだった。ビルの景色に見覚えがある。しかし、地図は持っていないし、人気のない夜。それに今回は金もある。オレはタクシーに乗ることにした。
「あー。何やってんだ。完全に旅のカンが鈍ってる・・・」
前に香港へ来た時には「ラッキーハウス」という日本人宿に泊っていた。オーナーのおっちゃんはキャラが濃く、楽しい宿だったが、「日本から来て日本人宿もどうか?」と思った今回はチョンキンへ行くことにしたのだ。
こちらの方が有名で、ビルの中には無数の安宿が詰め込まれている。地上階には両替屋、土産物屋、安食堂がこれまたひしめき合い、いろいろなものが混ざり合った独特の匂いを発している。そんなゴチャゴチャなビルで生活をするのは、出稼ぎのインド人、アフリカ人、アラブ人、フィリピン人、そして各国の旅行者。とにかくこのビルは無国籍地帯、そして無法地帯なのだ。とりあえず怪しげな雰囲気は満点!
ビルへ入るなり、宿の客引きにつかまる。彼について行くことにしたが、待てども待てどもエレベーターはやって来ない・・・。夜なので行列も短かったが、このエレベーター待ちがチョンキンの風物詩でもある。
やっと降りてきたエレベーターに乗り、紹介された宿へ。少々高いがTV、エアコン付きなので悪くはない。それに何よりも、これ以上このビルで宿を探すのは面倒だ。オレはここに宿を決め、夕食を食べに外へ出る。またしてもエレベーター待ちにえらく時間がかかった。ほんの少しの外出だけでも一苦労・・・。
「もっとエレベーター増やせよ!」
143.リベンジ!
朝になって香港の街を歩く。
「香港ってこんなにつまんなかったっけ?」
前に香港へ来た時に、オレはこう感じていた。
「香港は楽しい。日本みたいで楽しい。・・・日本みたい?? そうだ、1年半以上も日本を離れているオレだからこそ、この日本のような街を楽しいと思えるんだ。日本から来たら、たぶんつまらない街なのだろうな」
で、今回オレは日本から香港へやって来た。
残念なことに予想どおりだったのだ・・・。日本から来てみると、この街は恐ろしくつまらない・・・。
「よしっ! 今日のうちにマカオへ行こう!」
香港はもういい。このままマカオへ行ってカジノで遊ぼう! そう考えたオレは宿に戻ると荷物をまとめ、フェリーに乗って足早にマカオへと向かったのだった。
マカオへ着き、宿を決めるとすぐにカジノへ足を向かわせた。勝負だ! 前回は大金を失ってしまったが、今リベンジの時が来た! ステージはやはりここ。リスボアホテル! そしてゲームは「大小」!!
「大小」とは、3つのサイコロの出目を予想し賭ける。そんな単純なゲームだ。3つのサイコロの合計は3〜18。10以下が「小」で、11以上が「大」。「大」か「小」あるいは合計数の3〜18に賭けて、それに応じた配当を得る。合計数を当てれば高配当なのだが、「大」か「小」を当てた場合には倍率は2倍。そしてゾロ目の場合はカジノ側の勝ちとなる。
つまり簡単にいえば「大」か「小」かを予想し、当たれば掛金が倍になる。というものだ。
このゲームで重要なポイントが2点。ひとつはゾロ目がカジノの総取りになるということ。たとえば1と1と1の3の場合、10以下なので「小」なのだが、ゾロ目はゾロ目。「小」に賭けても「負け」なのだ。
そしてもうひとつ、最大のポイント。それは出目がカジノに操作されているということだ。それではつまらないと思うだろうが、そうではない。出目が操作されているからこそ、カジノ側と客側との駆け引きが展開されることになる。
極論でいうと、「大小」は確率や偶然を当てる運試しのゲームではなく、カジノとの心理戦なのだ。
1年半前。普段ギャンブルなどしないオレは、このゲームのそんな側面に気付くことなく大敗を喫した。ギャンブルそのものには熱くなったが、心理戦に熱くなったわけでもなかった。
だが今回は違う。常にカジノ側の立場を考え、どんな目を出すのかを推理する。確率論にまかせたセコい掛け方もしない。金儲けが目的ではなく、ゲームを楽しむのが目的。
この考え方がズバリ的中した! 過去に負けた7万円をすべて取り戻すまでには至らなかったが、その半分以上は取り返すことができたのだ!! まだ貸しは残っているが、それ以上に楽しむことができた。これでリベンジ達成ということにしよう。
144.こんなんなってたの?
マカオの旧市街が世界遺産に登録された。前に来た時にはまだ登録前だったので、オレはもう一度観光し直してみることにした。
「ふむふむ、なるほど、やっぱたいしたことねーな」
結局マカオはカジノだったという結論に至る。
マカオから香港に戻り、チョンキンの同じ宿へチェックイン。早くも明日の早朝には空港へ向かわなければならない。やはり長旅と、短期の旅行は勝手が違いすぎる・・・。
ところで日本を発つ前からずっと迷っていたことがある。それは前の旅で友人になったウィングたちに電話をしようか、ということだった。
彼らに会ってからもう1年半が過ぎている。日本に帰ってから1度だけメールをやりとりしたが、それ以来は連絡を絶ってしまっているし、なんとなく電話するのは気が引けた。それに今は日本でこそ盆休みだが、香港では単なる平日。仕事もあるだろうし、時間をとらせるのも悪いかな? などと考えているうちに、時間が過ぎてしまった。
「もうオレの時間もないし、また次の機会にしよう」
最終日、オレは中国のシンセンへ向かった。カジノで勝った金を持って、物価の安い中国で買い物だ。
シンセンは1年半前とほとんど変わらない風景だった。これは意外だ。中国は近年急速に近代化し、特に経済特区であるシンセンは建設ラッシュに沸いていた。しかしオレの記憶にある限りではほとんど変化がない。中国の急激な変化も、一段落したということなのだろうか? それともオリンピックに備えて他の部分の整備に力を注いでいるのだろうか?
オレは前に歩いたことのない方面へ足をのばした。すると・・・。
「なにーっ!! この町の中心街はこっちだったのか!!」
今回もそうだが、前回もこの街の情報はおろか地図さえも持たずに旅をした。そのため前回は街で一番賑やかなこの地域には来ていなかった。「やはり情報は必要なのだ」改めてそんな基本的なことを感じた。
旅が長くなると、自分の「旅の経験」に自信過剰になって「情報なんかなくても旅くらいできるさ」と感じるようになってしまう。情報なしで旅をすることが「旅の技術の高さ」だと勘違いしてしまうのだろう。無意味な見栄だった。
シンセンの中心街は予想以上に面白かった。半日で香港へ戻るつもりが、1日に。結局今回の「香港の旅」は、マカオとシンセンの旅になってしまった・・・。
「でも、これもアリでしょ! これだから旅は面白いんでしょ!!」
145.またあの日
朝、早起きして空港へ向かうバスへ乗る。あっという間の旅だった。初日は夜に着いて最終日の早朝に帰るのだから、実質3日間という旅だった。時間は短かったがそれなりに楽しめた。新しく感じたこともあったし、相変わらずなオレの旅だった。
やはりオレには旅が必要だ。今のオレにとって旅は日本で働く活力のようなもの。日本へ帰ってからまだ夏休みは4日もあるが、その後は仕事もガンバレそうだ。
長い旅も当然良いが、こんな仕事の合間のつかの間の旅も良いかもしれない。これからは「リーマンパッカー」でいこうじゃないか!
ところで今日は8月16日。4年前に旅に出る決断をし、3年前に旅に出たあの日。つまり旅人としてのオレの誕生日だ。旅人生4歳。これからもガンガンいこうぜ!!