神々の棲む場所
TRAVEL18》


ネパール、タイ 2018/12/30-2019/1/6






316.15年ぶりの風景


 前にも一度書いたが、もう一度書いておく。
 2014年の7月。友人のトモヒロくんに誘われ、日本で2番目に高い山、北岳へ登山をした。2人とも登山が趣味な訳でもなかったが、バックパッカーのいつものノリで、行ってみっか! という感じで登ったのだった。
 ところが・・・、2人ともこの一回の登山でみごとに山にハマってしまい、それ以来登山が趣味となっている。

 長く旅をしていた時代に、何度か海外の山に登った。が、どれも本格的なものではなく、あくまで旅のオマケだった。
 今回は初めて、登山が目的で海外へ行くことになった。目的地はネパール。トモヒロくんと2人での山旅だ。
 ネパールと言えばヒマラヤ山脈。ポカラ近郊からスタートし、標高4130mのアンナプルナベースキャンプを目指す。普段山を登っていない旅行者の場合は、ガイドをつけて9日間かけて行く工程だが、オレたちはコースタイムから計算して4泊5日、ガイドなしの計画で臨んだ。
 ただこのコース、登山というよりはトレッキング。つまり、山のピークは踏まない。深い谷合を登り詰め、登山のベースとなる場所まで行くだけ。いつかはヒマラヤで本格的な登山をしてみたいが、まだまだそのレベルではない・・・。
 いや、実際は充分にそのレベルにあるのかもしれないが、残念ながら金と時間がないのだ・・・。

 単なるトレッキングとは言え、場所は国立公園内。外国人が立ち入るには許可証が必要なのだ。オレよりも休みが長かったトモヒロくんが先乗りし、2人分の許可証を取ってくれた。登山口までのジープの手配その他もしてもらい、オレは楽ができた。感謝しています。
 休みが長いからあたりまえだ! というのが本音だが・・・。

 オレはバンコクで飛行機を乗り換え、ネパールの首都カトマンズへ、さらに小さなプロペラ機に乗り換えてポカラまで。一気に移動して、まるまる1日の移動時間。
 バンコクからカトマンズ、カトマンズからポカラ、どちらのフライトもヒマラヤの絶景を見ることができる。カトマンズへの便では世界最高峰のエベレストを含むヒマラヤ東部の大パノラマがひろがり、オレは感動と興奮で最高のテンションだった。
 そしてポカラへの便はさらにヒマラヤに近いルートを飛んでいく。当然、さらなる絶景なのだが・・・。オレは運悪くヒマラヤ側に席が取れなかったため、乗客越しの小さな窓に切り取られた、パノラマの一部の絶景しか見ることができなかった・・・。
 
 ポカラの空港でトモヒロくんと合流し、そのままの足で夕日を見るために丘の上に建つ日本寺へ向かった。

 この寺からの眺めはまさに絶景だ! ポカラのシンボルであるフェワ湖と、ポカラの街の全景を見下ろすことができ、さらにその遠景にはヒマラヤ山脈が広がっている。
 オレは15年前にもこの景色を見ているが、当時の山に全く興味のなかったオレでさえ、ヒマラヤの山々に感動したものだ。当然のことながら、今回はその何倍もの感動だった! しかもこの夕暮れの風景! 登山業界ではアーベンロートと呼ばれるが、夕日が山を赤く染め、斜面に残る雪が赤く輝く。

 夕日に赤く染まるヒマラヤは本当にすばらしかった。

 日本寺のある丘から下山し、待たせていたタクシーでポカラの街へ向かう。
 丘の上から眺めていても、変わり果てたポカラを充分に感じられたが、実際に街を走っていると、さらに驚く風景の連続だった。
 かつてはのんびりできる小さな街だったのだが、今では高い建物も増え、夜の街は明るくなり、店は増え、便利になり、都会とまではいかないものの、大きな街に変貌を遂げていた。
 何度も何度も同じことを日記に記しているが、静かでのんびりできるのが売りだった観光地が、観光産業の発展、国の発展により、違う方向へ向かってしまった場所をいくつも見てきた。その度に昔を懐かしんで、残念に思うことしかできないのが悔しい・・・。

 日本寺からの風景は別サイトで

   
カトマンズへ向かう機内より / ポカラの日本寺より



317.トレッキング

 翌朝、宿で早めの朝食を食べながら待っていると、手配していたジープが約束通りにやって来た。トレッキングのスタート地点まで、山道を2時間走る。
 途中のトイレ休憩で立ち寄ったレストランからの風景がすばらしく、この後の山旅にも期待が膨らむ。特にここからのマチャプチャレは最高のアングルと距離感だった。
 マチャプチャレとはこの山域で最も目立つ存在の山のことで、三角錐の山容が美しい。そのため、ヒンドゥー教では聖なる山とされ、登山は禁止されている。

 もともとはシワイという村からトレッキングをスタートする予定だったのだが、現在では地図にない道が伸びていて、さらに奥まで車が入れるようになっていた。少しだけ工程を短縮できて、ブドゥという場所からスタート。ここは村とも呼べないような、民家が数件あるだけの場所。良くこんな所に地名があるものだ、と驚いてしまうほど。
 ただし、トレッキングの帰りに知ることになるのだが、本当はさらに奥のモッキュまで行けたのだが・・・。

 ということで、4泊5日のトレッキングがスタート!

 アンナプルナ山系から流れ出る川に沿って登山道がついていて、徐々に標高を上げていく。途中、いくつもの村が点在しているので食べ物や宿に困ることはない。
 この川は急流で、長い時間をかけて山肌を激しく削り落とした。その結果、この場所はとんでもない角度で見上げるほどの大渓谷となったのだ。その底を歩いていく。

 初日の道中が、最も上りが激しかった。普段から山で鍛えているオレにとっては大変なものでもなかったが、ツラい理由は他にあった。基本的には谷底を歩いていくので山はほとんど見えず、風景が単調・・・。精神的にキツいのだ。
 が、この日の宿泊地、ルート上にある最大の村、チョムロンの絶景がすべてを忘れさせてくれた! この村は、アンナプルナとマチャプチャレの最高の展望台だった。
 宿のバルコニーでチャイを飲みながら年賀状を書く。この絶景の中、すばらしく贅沢な時間だ。
 そしてこの日もアーベンロートによる美しい赤の絶景を見ることができ、ネパールの地酒のロキシーとチキンカレーで身も心も満たされた。

 2日目、チョムロンの朝は最高だったが、本格的に渓谷へと入っていったこの日は、初日以上に同じ景色の繰り返し。加えて午後から天気が崩れてしまったため、少し残念な1日になってしまった。予報では次の日も天気が良くないようだ・・・。この山行のメインの日なのに・・・。

 そのメインの日、3日目。予報通り天気は崩れてしまった・・・。雪が降り出し、昼頃には本降り、いや、大雪! ホワイトアウト!
 真っ白の中を歩き、目的地のアンナプルナベースキャンプにたどり着いた頃には、本当の吹雪になってしまった・・・。部屋は寒いので、レストランでひたすら温かい飲み物を飲んで過ごす。横では中国人のグループが、相変わらずの傍若無人ぶりを発揮し、オレたちや欧米人たちから冷ややかな目線を送られていた。
 この場所は標高4130mという高地、オレは少しだけ頭が痛くなってきた。過去にチベットの4800mくらいの場所にいた際、高山病で死を意識するまでの状況に陥ってしまった経験がある。そんな恐怖と、寒さに耐えながら朝を待つ。あまり良く眠れない、長い長い夜だった・・・。

 トレッキング中の詳細は別サイトで 1日目
 トレッキング中の詳細は別サイトで 2日目
 トレッキング中の詳細は別サイトで 3日目

   
聖山マチャプチャレ / チョムロンからの風景



318.白の絶景

 旅をしていて、数々の絶景を目にしてきた。ある時は期待を膨らませて、ある時はまったく期待もせずに、ドキドキしながら、ワクワクしながら、時にはハラハラしながら、そんな絶景に会いに行った。
 絶景が遠目に見え、それがだんだん近づいてくる。ほとんどの場合はこのパターンで、それはそれでもちろん感動するのだが・・・。
 角を曲がったら視界が開け、絶景に出くわした。扉を開けたら絶景があった。門をくぐったらその先は絶景だった。こちらのパターンの方が断然、感動の度合いが高くなる。
 そうでしょ?

 早朝、極寒の中、意を決して外へ出た。部屋のドアを開けてふと目を左に向けると、昨日はただただ真っ白の世界だったそこには山があった。
 まだ日は昇らず空は黒かったが、満天の星空のもとで白い雪山が浮かび上がっている。山小屋の光が視界に入らない場所まで歩き、その景色に見とれる。360°山に囲まれていたことを初めて知った。まさに全方位が絶景。
 今まで山で見た、どの景色をも凌駕した大絶景! 感動よりも興奮の方が大きかったのが印象に残っている。
 昨日は雪で景色が見れなかったからこそ、朝になっていきなり現れたこの絶景に感動が大きくなったのだ。そう考えると、昨日のこともまんざら悪くなかったのかもと思ったりもした。

 そして、さらに感動の絶景が次々にやってきた。
 白み始めた空が紫やピンクに輝き、雪山の輝きも光度を増していく。
 朝日が昇ると空は赤くなり、山も赤く染まる。
 最後に青空がひろがり、純白の山がさらに存在感を増した。

 いつまでもこの場所に留まりたい。いつまでもこの風景を見ていたい。そんな時間だった。

 本当にギリギリの時間までここに留まって絶景の写真を撮り、そして絶景を目に焼き付け、オレたちは下山を開始した。絶景が見えなくなる谷底まで下ってくると、またしても天気が崩れる。ツイていたのだろうか? それとも毎日がこうなのだろうか? 前者だと思うことにして、雪がちらつく寒々しい空の下、もと来た道を戻った。
 できれば村の規模も大きく、店や宿も充実し、景色も良いチョムロンまで戻りたかったが、2日かけて登った道を1日で下るのは無理だった。チョムロンの手前のシノアという小さな村で宿をとる。ここからチョムロンはすぐ目と鼻の先なのだが、その間には深い谷がある。思いっきり下ってから、思いっきり登らなければならない。すぐそこに見えているのに、2時間の時間を要するのだ。仮に橋が架かっていれば15分程度の距離だろうか・・・。

 ところで、オレたちはこの山行にあたって、心配な事がひとつだけあった。それは天気でもなく、寒さでもなく、高山病でもなければ、体力でも、登山技術でもない。もちろん宿や食事、言葉などでもなかった。
 帰りの車だ。
 来るときに乗せてきてもらったドライバーに、携帯を教えてもらってはいたが、連絡したところで本当に来てくれる保証はなかった。海外では良くあることなのだ・・・。それにこちらの携帯は海外では使えない。来てくれたところでうまく会えるのか? 他の車はつかまえられるのか?

 しかしその問題は、ラッキーな出会いによって解決した。
 シノアで同じ宿に泊まっていた欧米人のパーティーはネパール人のガイドを連れていたのだが、彼が車を手配してくれたのだ。欧米人のガイドという仕事中に他人とビジネスをするなんて・・・。こちらからすれば助かったから良いケドね。

 トレッキング中の詳細は別サイトで 4日目
 トレッキング中の詳細は別サイトで 5日目

   
絶景のアンナプルナベースキャンプ



319.帰路にて

 トレッキングも無事終わり、ポカラの街まで戻って来た。5日前にここに来た時には、日本からの長い移動の疲れと、翌日からのトレッキングに備え、街を歩くことはあまりしなかった。帰ってきて改めて街を歩くと、本当に変わり果てたポカラを実感できた。
 もうくどいので、変わったことについて書くことはしないが、ここまで変化した観光地もカンボジアのアンコールワットがある町、シェムリアップとここポカラが世界でも有名になっている。

 翌朝早朝、空港へ向かう。飛行機でカトマンズへ戻るのだ。
 ということは、ヒマラヤの絶景フライトリベンジだ! 往路では席が反対側だったので、今回は何が何でもヒマラヤ側をGETしたい。
 という願いが通じたのか、オレたちはヒマラヤ側の席に座ることができた。やったぜ! と
喜んだのもつかの間、離陸すると窓の外は曇り空に視界が遮られてしまった・・・。
 が、今回のタビガミ様はベースキャンプでもそうだったように、絶景を直前まで隠していたいようだ。
 飛行機が雲の上に出ると、一気に絶景がひろがった!!
 これで心残りなく帰ることができる。

 カトマンズではバンコクへ向かう便までの間に、市街地まで出る時間がわずかにあった。街での滞在はわずか1時間程度だったが、それでも市街地まで行くことにした。
 向かったのはタメル。カトマンズで旅人が集まっている地域だ。
 2015年の地震で崩れてしまい、少し変わった部分はあったものの、ほとんど15年前と変わらない街並み。中国語と、wifiという当時はなかった単語の看板が増えたくらいの変化だろうか。本当に懐かしい景色。空気。
 変わってしまったポカラと、変わらないカトマンズ。この対比がおもしろかった。
 タメルを一周して空港へ戻る。

 カトマンズの次はバンコクに寄り道。バンコクでは乗り換えに半日以上の時間があり、バンコクで1泊。
 フライトが遅れてしまったために時間が無くなり、飲んで食って寝るだけになってしまったが、それでも美味いタイの料理とビール、友人と2人ということもあり、楽しい時間を過ごすことができた。旅の打ち上げに満足。
 ところが・・・、なんとこの時、2人ではなく3人だったことに、オレもトモヒロくんも気付いていなかったのだが・・・。

 翌日も早朝から動きだし、屋台で最後の食事をしてから空港へ向かった。
 順調なフライトで名古屋に到着。そして空港で、旅の最後の最後で、面白い出来事が起こったのだった。

 オレたちが歩いていると、ある男に声を掛けられた。
 トモヒロくんが昔パキスタンで知り合った友人で、オレも良く話で聞いていた、Iくんだった。彼はなんと、バンコクの空港からずっとオレたち2人をつけてきたと言う・・・。ストーキングしていたのだ。

 カトマンズから到着して、バンコクの空港からオレたちがホテルへ向かう間、ホテルを出て街に出てATMで金をおろす間、そのあと飲む場所を探してぶらついている間、レストランに入って飲んでいる間、ずっと後に着いてきていたのだ! その後自分のホテルに戻り、翌日も同じフライトでバンコクの空港から着いてきた。そして名古屋の空港でネタばらし。
 スパイごっこは楽しかった。らしいが・・・。
 違うでしょ。タイミングが! バンコクで飲んでるときでしょ! 一緒に飲むのが正解でしょ!

 バックパッカーには変わった人が多い。いや、少し違うかな。変わったことをしたがる人が多い。ただ観光地をまわるだけの海外旅行では満足できなくなるのだ。
 自転車で旅をしてみたり、ボランティアをしたり、現地で何かを学んでみたり、手ぶらで旅をしたり・・・。
 オレもその気持ちは充分に理解できる。が、オレならスパイごっこ、日本でやりますケドね・・・。

   
懐かしいカトマンズの風景 / バンコクで打ち上げ



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