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オニのおにぎり

5才のケンくんの町に、おにぎり屋さんが開店しました。
今日は開店記念で、おにぎり1個50円です。
小さなケンくんは、おかあさんに50円玉をひとつもらって、走っておにぎり屋さんに行きました。一人で買い物するのは初めてです。
お店は小さな一軒家で、赤いのれんに白色で「おにぎり」と書いてありました。小さなショーケースがあって、中におにぎりがたくさん並んで…いるのですが、小さなケンくんには見えません。
お店の前は、おにぎりを買いにきた町の人でいっぱいだからです。
「おかかのおにぎり3個ください」
「うめぼしおにぎり2個ちょうだい」
「わたしは鶏飯おにぎり」
「赤飯1個」
いろんなおにぎりがあるんだなあ、と、ケンくんはお客さんたちのおしりの後ろで思いました。
ぼくはなににしようかな。
中でも人気は天むすというおにぎりのようです。天むすください、という声がたくさん聞こえます。
小さなケンくんはごくりと喉をならしました。天むすってどんなおにぎりなんだろう。小さなケンくんは天むすを買うことに決めました。50円玉を握りしめて、じっと順番を待ちました。
「天むす3個ください」
また誰かが天むすを頼んでいます。
「はい。天むす3個ですね」
太い声が答えました。お店のおじさんです。
小さなケンくんが、お客さんたちの頭の上を見上げると、ぬうっと大きな腕が見えました。大きな手が、おにぎりの包みを持っています。
「はい、おまちどうさま」
大きな太い声が言いました。
小さなケンくんは、3歩下がってよく見てみました。大きな手の向こうには、大きな顔がありました。太い眉毛の大きなおじさんです。小さなお店の中で、体を丸めて、おにぎりを差し出したり代金を受け取ったり、大忙しです。頭には、白い手ぬぐいでほっかむりをしています。お店の奥のほうに、時々何か言っています。奥には別の人がいて、おにぎりを作っているようです。
小さなケンくんはワクワクしました。お腹がぐうぅと鳴りました。
お客さんのおしりがだんだんと減ってきて、とうとう誰もいなくなりました。
やっと、小さなケンくんの番です。
「あのー、ぼく……」
ショーケースを見上げて、小さなケンくんは小さな声を出しました。
「おい、全部、売り切れたぞ」
それに気づかずに、大きなおじさんは奥に声をかけました。
「早く次の米を炊いてくれ」
「えっ、もうないの?」
小さなケンくんはおもわず叫びました。
「おや、小さなお客さん」
ショーケースの上から、大きなおじさんが顔をのぞかせました。
「全部なくなっちまったんだよ」
太い眉で赤ら顔の大きなおじさんは、すまなそうに言いました。
「ぼく、天むすっていうのが食べたかったんだよ」
小さなケンくんはがっかりしました。お腹が、またぐうぅと鳴りました。
そのとき、
「ご飯炊けたよ」
奥から女の人の声がしました。
「はいよ。小さいお客さん、ちょっとお待ちください」
大きなおじさんはそう言うと、大きな体を折り曲げて奥に入っていきました。
小さなケンくんは目をパチパチさせながら待っていました。
「おまちどうさま」
大きなおじさんの大きな声がしました。
「特製天むす出来上がり。大サービスで、えび天2個いりだよ」
「うわあ、すごい、オニみたい」
小さなケンくんは目を丸くしました。
それは、三角形のおにぎりで、てっぺんのあたりからえびの尻尾が2本、向き合うようにつきでています。まるで、オニの頭に生えた2本のツノのようです。
「じゃあ、特製オニのおにぎりだ」
大きなおじさんは大きな口でガハハと笑って、おにぎりを包み、ケンくんの前に差し出しました。
「50円です」
「はい、これ」
小さなケンくんは、小さな手に握りしめていた50円玉を渡しました。
「ありがとうございました」
おじさんはにこにこと答えました。
小さなケンくんは、おにぎりを抱えておうちのほうへ歩き出しました。
「よし、わしらも昼ごはんにしよう」
大きなおじさんの声が聞こえたので振り返ると、おじさんは、手ぬぐいのほっかむりをつかんで頭からはずしていました。その、短い縮れた髪の毛の中に、きらっと2つ、何かが光って見えました。
何だろう、とケンくんは思いましたが、おじさんがこっちに手を振ったので、バイバイと叫んで、またおうちに向かって歩き始めました。

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