君を抱きしめた

雨の降る夜の街
君は僕の腕の中
その瞳、僕を見上げ、「帰るわ」と一言だけ

僕は少しだけ強く、君を抱きしめた

雨に濡れた夜の街角
淡い灯りの中で
その瞳、見つめるだけ、何も言わず時が過ぎる

僕は少しだけ優しく、君を抱きしめた

あの時の君は、僕を振り払って
夜の中、水たまりを弾きながら消えて行った

優しく香る黒髪と、柔らかな頬を抱いて
今はもう、君を放すなんてできない

二人は夢の中、ひとつになって夢の中
その瞳、今だけは、僕だけを見つめていて

僕は少しだけ激しく、君を抱きしめた

僕はいつまでも、君を抱きしめた

(無題)

机に向かっている、暑さに疲れた僕に
そっと囁きかける優しい風

もう夏が終わる
少し手をとめて、窓の外を眺めてみて
思い出してあの人のこと

今までのことも、これからのことも何も知らない
「じゃあね」ひとことだけで別れた
不思議な人

あなたが見えなくなった時

世界が終わってしまうと思っていた、あなたが見えなくなったら

   一瞬戸惑い振り返る部屋に、もうあなたはいない

世界が終わってしまうと思っていた、あなたが見えなくなったら

   目の前にはあてもなく広がる、無限の青い空

二人の間にただひとつ残されていた言葉

    ただ一言が記憶の中にあなたを閉じ込めていた

   無意識の中、思い出す事を拒否し続けていた

あの日あなたが出ていったこのドアを、今日は私がひとりで出てゆく

   とおりから見上げるあの窓に、二人の影が映った日々を思い出す

いつもふたりで通った道、私たちの街が

   今からはだれか見知らぬ他人(ひと)の街になる

ドラマは終わり、ふたりを解き放つ

   ただ眩しく、冷たく、息もできないほどに広がる無限の自由

ただひとつ残されていた最後の言葉ね - さよなら

(2000/8)

思い出花火


夏の香りが少しずつ薄くなってゆく帰りの道で
遠くに聞こえる、一瞬夏を呼び戻す音に
ふと顔を上げると、遠い闇の中で色とりどりの光の粒が弾け、散ってゆく

あなたと二人並んで花火を見ていたあの夏の日が
もう、ずっと昔のように思えるわ
静かな夏の夜の中、二人で歩きながらどんな話をしたのかしら
日毎に淡くなってゆくけれど、懐かしい思い出ね


みんなで過ごした海の夜
波の音をBGMにして、砂浜の上で輝きを散らしていた花火は
「夏が過ぎていくよ」と教えているようだったわ

みんな何も言わずに、ただ次々と色を変えながら
そして消えてゆく思い出を見つめていたわ


今は遠くに
時間の中を歩いて行くだけね

(2000/9)

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