捕鳥 一羽目 6

 四人は驚いた顔のまま固まってその子供を見る。
「…あ、れ?ここは…?」
 ゆっくりと起き上がって長い髪を一度掻き上げた。長い耳朶は隠れてしまったが、今度は長い下まつ毛でやはり彼なのだと確認してしまう。
「…ええと…あの、皆さんは…?」
 自分を見つめる四人の大人たちにいくらか怯えたように子供は高い声で尋ねた。ぱっちりした大きな目と、すぐに顔を覆ってしまう長い金髪が印象的な子供だった。一体何があってこのつぶらな瞳があの性格の歪みを表すようなふてぶてしい半開きの目になってしまうのか気になるところだ。
「ただでさえ面倒なことになったというのに…おい貝≠捜すぞ」
 シュラは子供の発言を無視するように目を逸らして言い捨てた。
「おい、この子はエネル様なんだろ?」
 辺りをきょろきょろして本当に貝≠探し始めるシュラをサトリが咎めるように呼んだ。
「ちょっと気にならないか」
「あァ…そりゃァ何をどうしたらそんな餓鬼があの方になるのか興味深くてたまらんが…おれだったら」
 子供を見ないように背中を向けながらシュラは吐き捨てる。
「自分の小さい頃をお前らに知られるなんてまっぴら御免だ」
「確かにいい趣味とは言えん」
 ゲダツも子供から視線を逸らす。立ち上がってシュラに倣った。
「まあ…そうだが…無視するのも可哀相だろう?なァ」
 サトリが子供の頭を撫でてやると不思議そうに見上げ返した。何が起こっているのか分からず不安なのか、掛けてあった神の腰布を胸の辺りまでたくし上げてぎゅっと握っている。
「お前は子守をしていろ。早く殻頂を押して元に戻して差し上げなくては」
 オームも立ち上がって貝≠探す。
「大人のエネル様は貝≠ノ閉じ込められてさぞ不自由だろう」
 よく分からないことをゲダツが言い出す。
「…」
 何かツッコンでやりたいが誰も何も言えなかった。貝≠ノ吸われたものがどういう状態なのか。誰も吸われたことが無いので分からない。非常識な状態なのでそんな非常識なことも無いとは限らないのだ。
「お、大人のエネル様…貝≠フ中で心細く…!」
「妙なことを考えるな、オーム。心綱≠ナ丸聞こえだ」
 妄想をしっかりと聞いてしまったシュラと何故か泣き出したオームは怒鳴り合いながらも喧嘩を始めずに草の無くなった大地をうろうろして必死に探していた。時々白目を剥いたままうろつくゲダツを殴るのも忘れずに。
「恥かしい大人を見せて申し訳無い、若き日のエネル様」
 サトリは子供の側に座っていた。
「あんなのでも将来の貴方の部下です。それなりに一生懸命ですから見捨てないでやってください」
「え、ええと…?あの確かにぼくはエネルですが…皆さんのような大人の方に様を付けていただくほどの者では…」
「いただくほどの者になったのです。貴方は神なのですから♪」
 重大なことをサトリは軽い調子で子供に教えてやった。
「…はい?」
「貴方は神になって神の島≠ナやりたい放題に暮らしていましたが…」
「…は、はあ…え?スカイピアの神の島≠ナすか…?ほ、本当だ、これ全部大地≠ネのですね!うわぁ…すごい…こんなに沢山の大地¥奄゚て見ました」
 子供は地面に両手をついて驚いたように辺りを見回す。
「ほっほほ〜〜〜う♪それもこれも全てエネル様のものです。神なのですから」
「ぼくが…神に…」
「そうです。でも今日はちょっと悪戯が過ぎたので若返ってしまったのです」
「はぁ…」
「我らは神官、貴方が若返ってしまった原因の電気貝≠ニいうものを今捜しているのです。貴方にはどうしても元に戻っていただかなくては。神なのだから」
「それは…お世話をかけます…。…?」
 座ったままぺこりとお辞儀をして、その後何かおかしいような気がして眉を顰めた。
「あああ、エネル様にそんなことをされては困る。後が怖いから止めて下さい」
「はぁ…そうですか…ええと。では、ぼくも一緒に捜しますね。どんな貝≠ナすか?」
 掛けていた布を腰に巻きつけながら立ち上がる。ああ、こんな健気で純真な子供時代があの方にもあったとは。サトリは何故か心の中で泣いていた。
「そんなことはいいんです。エネル様はどーんと構えていれば…」
「…あれ?もしかして…」
 足元の衣の中に手を入れて、黄色い貝≠取り出した。
「ああ!それです!それです!おーい!貝≠ェあったぞ〜〜〜〜!!!!」
 他の神官に呼びかけて大声で叫んだ。
「エネル様がご自分で見つけたぞ!」
「!そうか、服の中に…」
「なんでこう、毎回灯台下暗しなところに…」
「学習しろ鳥頭」
「なんだと!?」
「喧嘩してる場合か愚か者ども!さあ、エネル様、殻頂を押してください」
「ほっほほ〜う♪ぽちっといっちゃってください!」
「ま、待ってくださいエネル様、戻る前に…か、肩車させてくだ」
「馬鹿は滅びろ!」
 三人でオームを集中攻撃。すぐに収集のつかない喧嘩に発展する。子供は困ったような顔でそれを見ていた。
「えーと…」
 困っていると、鳥の鳴き声が聞こえて茶色い鳥が子供の周りを飛び回った。躊躇することなく手を出すとその腕にとまり羽を休める。ピィと鳴いて首を傾げたりしている。雛の頃、共に暮らした人間と同じ匂いがするのに外見が全くかけ離れているのを不思議に思っている風だった。
「わぁ、可愛い」
 金髪で半分隠れた顔がにっこりと笑顔になった。貝≠持った手で指を出し鳥に触れようとする。
「あ、おい、こらエネル!」
 髭を引っ張られながらもシュラが鳥に気付いて怒鳴った。
 子供はびくりと震え上がる。
「貴様子供とはいえエネル様を…!」
「違う!鳥の名前だ」
「なんで鳥にそんな畏れ多い名前を」
「後でじっくり教えてやるから…エネル様、そいつは危険です!」
 シュラに悪気は無かったが、彼が真剣になればなるほど顔は怖く声は恐ろしかった。子供は怯えてしまい、図らずも黄色い物が大好きな鳥に隙を与えた。
「あ」
 子供の手から電気貝≠奪って鳥は逃走した。あっという間に空の彼方へ飛んで行く。
「ホーリー!」
 白い犬は呼ばれると一度大きく吠えて主人の元へ走ってきた。オームはその背中に飛び乗って鳥を追う。
「フザ!」
 森の中で待機中だった三丈鳥もすぐに現れた。主人を乗せると大きく羽ばたいて同じく鳥を追った。



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200? 前サイトにて公開
20091120 本サイトにて公開